三章 ステージ情報を読み込んでいます…… Lv1
曲がった道の向こうから現れた土精種の男に向かって、カエデが瞬時に弓を引く。
「待て、カエデ」
「大丈夫、相手に敵意はないよ」
俺とコトリが同時に彼女を制止する。
「私たちはここに迷い込んでしまっただけなんです。出る方法を教えてくれませんか?」
武装を解除したルビィさんが歩み出て、そう尋ねる。
俺たちに対して敵対心というよりは警戒心を向けていた彼は恐る恐る、といった風に答えた。
「わかった。少しここで待ってろ」
見た目の年齢の割にしっかりとした口ぶりでそう言って立ち去った。
俺は改めて自分ん今いる場所を見渡す。周りを土に囲まれたトンネルのような場所だ。土の壁からはところどころ鉱石らしいものが顔を出し、それらが光を放っている。ここにはそれ以外に光源らしきものは見当たらないから、原理はわからないがおそらくあれ自体が発光しているんだろう。天井もそれなりに高く、道幅も俺たち四人が横に並んで歩いてもまだ余るほどだ。トロッコやそれを乗せる線路らしきものも見える。
「ここって、土精種たちの住んでいるところなんですよね?」
俺はさっき聞きそびれた答えを聞くためにルビィさんに話しかける。
「そのはずだよ。現にさっき出会っちゃったわけだしね」
さっきルビィさんが言っていたことによれば、地中深くにあり過ぎて土精種以外では侵入不可能な場所だ。そこには入れてしまったことは事実としてとりあえず認めるしかないが、問題は、そんなところから出る方法があるのか、ということだな。
「大丈夫だよ、きっと」
俺の不安を感じ取ったかのように、コトリが微笑みかけてきた。……顔に出てたかな。
そうこうしているうちに戻ってきた土精種の彼は、十ほどの仲間を引き連れていた。その誰もがやはり少年のような容姿だが、手には各々武器を持っている。
流石に俺も警戒を強めたが、
「勘違いしないでくれ。こちらに敵意はない。だが、お前らを完全に信用はできない。今からお前たちを族長のところに連れて行く。部外者を自由にしておくわけにもいかないだろう」
彼が弁明している間に、その仲間が俺たちを囲んでいる。今にも攻撃を仕掛けそうなカエデにコトリが声をかける。
「あの人の言葉に嘘はないと思うよ。少し、信じてみようよ」
「……わかった」
カエデは武器を下ろす。
土精種の案内に従って細い道をしばらく進むと、開けた場所に出た。天井も高い。やはり周りは土に囲まれていたが、中央あたりに巨大なシャンデリアのようなものが吊るされているおかげで他の場所よりも明るく、露天商が並んでいたり、他の土精種もいて、街の広場のようでもあった。中央には広場の演習よりも一回り小さいくらいの、大きな魔法陣が描かれていて、その部分は他より地面が背丈分ほど低くなっている。
円筒状の壁に沿ってらせん状に階段がある。その広場からもいくつかの道が伸びており、俺たちは広場にいた土精種から奇異の視線を向けられながら階段を中腹あたりまで上りそのうちのひとつへとさらに進んでいく。一定間隔で電灯が設置された迷路のような道を何度か曲がって、一つの部屋のようなスペースにたどり着いた。扉を開けて中へと入る。彼らはそもそも背の低い種族なのだろうか、小さな出入り口を姿勢を低めてくぐる。部屋の天井も廊下のそれと比べるとやはり低い。少しジャンプをしたら頭がぶつかりそうだ。
「族長、侵入者を連れて参りました」
俺たちの案内をしていた少年が、部屋に設けられた壇上に座る少女に傅いてそう述べた。この部屋の床は他の場所と違い、タイルで装飾がなされている。
こんな小さな女の子が族長……?
「ルーカス、そういう言い方はよくありませんよ。彼らは、ただ迷い込んだだけだと言っているのでしょう?」
小学生ほどの見た目の彼女は、その容姿に似合わずしっかりとした口調で少年を諭した。流石は族長といったところか。先ほどの感想は撤回する必要がありそうだ。
「しかし……!」
と反論しようとするルーカスを無視して族長は首から下がったペンダントを揺らしながら立ち上がるとこちら側に降りてきた。ペンダントに付いているのは綺麗な色の鉱石だ。
彼女は頭を下げると、
「とんだご無礼を。申し訳ありません。私は土精種の種族長、エミリアです。彼に代わって、私が謝罪します」
「族長、いけませんっ。お席にお戻りを」
「ルーカス」
小さな族長は、俺たちとの間に止めに入った男を見据えて静かに言い放つ。
「あの人たちにも下がってもらってください。武器を持って囲むなんて、失礼だとは思わないのですか」
「……は。失礼しました。お前たち、下がっていいぞ」
その言葉に、
「いや、でも」
「こいつら何するか……」
などと口答えする同胞をルーカスが一括する。
「族長の命令だ。いいから下がれ!」
渋々部屋を後にする土精種たち。ルーカスも武器を床に置く。部屋に残ったのは族長とルーカス、そして俺たちだけだ。
「武装解除」
俺は武器をしまう。相手がこちらを信頼してくれたのだから、こちらも応えるべきだろう。続いて、コトリも武装を解除し、それを見たカエデも仕方なく弓矢を片付けた。
「本当にすみませんでした。あの人たちには後でまた、私がお話をさせていただきますので」
「いや、別にいいけどさ」
頭を下げる彼女に俺がそう答えると、ルーカスがまたも突っかかってくる。
「族長に対してなんだその口の利き方は!?これだから人間は」
「やめてください、ルーカス」
まくしたてようとする彼を遮って、こちらに向く。
「土精種の中には人間種に対して良くない印象を持っているものも少なくないのです」
どうもこっちの発言に敏感に反応してくる。俺が言うのもなんだが、コトリが余計なことを言わないことを願おう。
「それは」
俺の考えに反して、コトリではなくカエデが声を上げる。
「それは、こっちだって……同じ、です」
族長をまっすぐに睨み付けている。彼女の父親が職を失ったのは土精種が原因でもあるのだ。仕方のないことなのかもしれない。
「わかっています」
怒りのこもった視線を受け止めながら、少女は重苦しそうに声を発する。
「もとはと言えば土精種が多種族同盟を唐突に後にしたことが原因ですから」