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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生はベリーハードモード
24/120

    想定外の動作が発生しました Lv4

 依頼クエスト内容を達成するために俺たちは一度街の外に来ていた。場所は分割地区エリア『狂気の人参畑』。依頼書を見た時から変わった名前だと思っていたが、到着してみてその名前の理由が分かった。


 「うわーすごいね、あれ」


 コトリですらあっけにとられる景色だ。目の前で二股の巨大人参が走り回っている。依頼内容はあの人参の『収穫』だ。


 「ま、とっとと始めるか……」


 気を取り直しながら俺は剣を構える。ほかの三人もそれに倣った。

 走り回る巨大人参からドロップされる人参を60本集めるという今回の依頼だが、案外簡単に達成できそうだった。4人で狩りを進めれば割と多くの敵を倒すことができる。それにパーティーメンバーがドロップさせたものは同じパーティーの人間なら誰でも拾うことができるというのも便利だった。


 「あ、そうだ」

 「どうしたの?」


 戦闘中に声を上げた俺に、コトリが不思議そうな顔を向ける。


 「パーティーメンバーには一切の攻撃が通らなくなるって言われただろ?」


 一次転職ファーストステップ試験後の魔法の説明の時にそんな説明を受けた気がする。


 「確かに、アレックスさんがそんなこと言ってたね」

 「少し試してみないか?」

 「いいよ。火球魔法フレア!」

 「って、おい!?」


 コトリの持つ杖の先から火の玉が俺に向かって飛び出した。あまりに唐突だったので防御すらできなかったが、襲い来る攻撃は目の前で光の障壁のようなものに遮られて霧散した。HPの損耗もない。


 「ほんとに当たらなかったねー」 


 俺から言い出したこととはいえ、全く躊躇せずに魔法を撃ちあがったな、こいつ。


 「えへへ」


 褒めてない。というか口に出してすらない。


 「ルビィさん」

 「えいっ」

 「うわあっ!?」


 魔法以外の攻撃も本当に当たらないかを確認するためにルビィさんに声をかけた直後、要件を伝える前に斬りかかられた。

 まぁ、無事に光の壁に遮られて彼女の刃は思わず顔の前に掲げた腕の寸前で止まっているが。


 「驚かさないでくださいよ……」

 「防御されたら意味ないでしょ?当たらないとわかっても反射的にしちゃうものだからさ」


 たとえ剣とかで防御をしたとしても、その剣に触れる前に攻撃は止まると思うのだが。HPが保護されないと意味がないのだし。


 「そこに気が付くかー」


 ……まったく、この人は……。


 「カエデ、これで安心だろ?」

 「え?」


 急に話を振られて何のことかわからなかった様子だったが、少しして彼女は頷いた。


 「うん。ソウタに当たらないなら遠慮なく攻撃できるよ。ありがとう」


 微笑んだカエデは、こちらに向けて弓を弾き絞る。放たれた矢は俺の顔のすぐ横を通り過ぎると、その背後の巨大人参の眉間(?)を撃ち抜いていた。今のは割とびっくりしたけど。


 「さすが、カエデだ」


 冷や汗を拭いながら彼女に賞賛を送る。

 ほどなく目標の数の人参を収穫し終えた俺たちは依頼を『返還』するために王都へ向かっていた。

 その帰り道の途中、歩いている俺たちの周りの地面からもぞもぞと何かがはい出してきた。その影は一つや2つではない。軽く20はありそうだ。

 それは人型をしているように思えた。大きさは小学校の中学年くらいだろうか。褐色の肌に、銀髪、黄色い瞳、それにとがった耳が特徴的な彼らはその手に棍棒こんぼうを携えてこちらに敵意を向けている。


 「なんか、襲い掛かってきそうですよ……」


 俺がつぶやくと、ルビィさんが厄介そうに言葉を漏らす。


 「野蛮種ゴブリンの標的にされちゃったみたいだね」

 「ゴブリン?」

 「とにかく今はここを切り抜けるよ。魔物と同じようにやっつけちゃって大丈夫だから」

 「わかりました」


 俺が返事をするや否や、カエデが魔力を込めた矢を放つ。

 続けて二回、三回と魔法を繰り出す彼女に続いて俺たちも棍棒を振りかざす相手に応戦する。

 程なくしてすべての敵を倒し終わった。


 「それで、あの野蛮種って何なんですか?」


 俺は改めて疑問を口にする。


 「裏切り者の、土精種ドワーフだよ」


 そう答えたのは、意外なことにカエデだ。その声は珍しく怒気を含んでいるように思えた。


 「……裏切り者?」


 前にも少し聞いた話のような気もするが、あの時は詳しく聞くことはしなかった。どうやらカエデが彼らに対して敵意を向けていることだけはなんとなくわかるが。

 黙りこくってしまったカエデに代わって、ルビィさんが答えを継ぐ。


 「前までは人間種ヒューマンと土精種はそれなりに交流もあって仲が良かったのよ」


 でも、と。一泊おいてから彼女は続ける。


 「三年くらい前。ちょうど多種族同盟スピーシーズユニオンを立ち上げようとしていた最中さなかに彼らは裏切った。突然、種族間の話し合いの場に現れなくなったの。緊急離脱術式リスポーンシステムの技術を種族間で共有した直後だったから、彼らはその技術を持っている」

 「どうして……」

 「わからない。けど、土精種は地中に村を作って生活する種族なの。だから他の種族との交流を絶っては生活はほとんど成り立たない。彼らはしばらくしてから緊急離脱術式を悪用してさっきみたいに盗賊まがいのことをするようになったの」

 「カエデのお父さんみたいな行商人を襲っているのは盗賊や魔物だけでなく、土精種もなんだよ」


 というコトリの言葉に、カエデが彼らに対して怒りを向けている理由を知った。


 「土精種が多種族同盟を裏切ってから、組合ギルドは魔法技術を盗んで逃げた彼らを魔物とみなして、呼び方も野蛮種って呼ぶようになったの」

 「でも、戦闘魔法スキルは使って来なかったですよね」


 魔法技術を盗んだ、という割には彼らは棍棒による単純な打撃しかしてこなかった。


 「彼らが種族間会合に現れなくなった時期にはまだ戦闘魔法の技術は共有されてなかったからね。彼らが持ってるのは一般人シティズンが使うような遠隔会話テレフォンや自動防御術式なんかの基本的な魔法と緊急離脱術式だけだよ」


 ルビィさんによれば、組合、特に人間種組合も彼らの行動には手を焼いているらしい。


 「土精種が生活しているのは主に人間種の住んでいる地域だからね。以前までは仲良くやっていたからそれでもよかったんだけど、今となっては魔物や盗賊に加えて行商を襲う厄介者の仲間入りだからね。彼らは地下に生活しているから対処も難しいんだよ」

 「彼らの村への出入り口みたいなものはないんですか?」

 「ソウタくんもさっきあいつらが地面から出てくるのを見たでしょ?土精種は土の中を移動する能力に長けているからアリの巣みたいに地面に対して入口を作る必要がないの」


 たしかに、それは厄介だな。


 「前に土精種の一人を捕まえて魔法刻印マジックトークンに刻まれた術式プログラムを読んでみたら緊急離脱術式によって転移されるポイントはかなり地中深かったらしくて、彼らの本拠地を掘り出すってのも難しいみたいね。しかも定期的に移動させてるみたい」

 「魔法刻印って読めるんですか?」


 そう尋ねたのはコトリだ。


 「うん。まぁ専門的な知識やら魔法やらが必要になるから、普通の人じゃ無理だけどね」


 と、そこにピロン、という音が割って入る。目の前に現れた文書管理メール画面には『緊急依頼!』と銘打たれた文書メールが先頭で『NEW!』マークを踊らせていた。組合本部からの受信だ。

 その文書を展開すると、

 『分割地区「ウィーニル盆地」で巨大な魔法エネルギーを観測した。付近にいる冒険家は調査に向かってほしい』

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