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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生今日からニューゲーム

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    エンカウント Lv3

 食事を終え片づけをした後、俺のもとに遠隔会話テレフォンの着信があった。コトリの母親からだ。少しその場を離れて、応答する。


 「はい、どうかしましたか?」

 『ああ、ううん。別に何もないけどね。なんか、コトリのことが心配になっちゃって。あの子元気にしてる?』

 「ええ、いつも通りですよ」


 電話口で、という言い方が正しいかは知らないが、安心したような彼女のため息が聞こえた。


 『なら良かった。ごめんね、コトリのことはソウタくんに任せたって言ったのに。あんたのことを信頼してないわけじゃないんだよ』

 「大丈夫です。わかってますから」


 娘が冒険に行くんだ。親なら心配なのは当然だ。

 俺は、でも、直接話してあげたらどうですか?と問いかける。


 『そうね。でも、あの子の声を聞いたら甘やかしちゃいそうで。だから、これからもソウタくん経由でコトリのことを聞くことにするよ』

 「わかりました。いつでも連絡してください」


 苦笑しながらそう返す。


 『ありがとう。じゃあ、また連絡するから。おやすみ』

 「はい。おやすみなさい」


 会話を終えてコトリたちのところに戻った後テントで眠ることになった。テントは二つしかなかったため、俺はコトリと、カエデはルビィさんと眠ることになった。コトリがまた何か言い出さないかとハラハラしたものだったが、今日のことで疲れたのかさっさと眠ってしまった。

 俺も見習って眠りに就くことにしたのだが、キャンプなどしたことがなかったせいだろうか、夜中に目が覚めてしまった。明日の朝も早いのだし、とっとと寝ないといけないのはわかっているのだが、どうにも目が冴えてしまった。俺がなかなか寝付けないでいると、何か、歌のようなものが聞こえてきた。気になった俺はテントの外に出てみることにする。テントは決して広いとは言えず、二人も寝ていれば割と狭い。どうにか隣で寝息をあげる少女を起こさないようにしながら、寝床を後にする。声のする方に行ってみると、岩の上に座って歌を歌うカエデの後ろ姿が見えた。彼女の歌声は心に染み入るようだった。カエデが歌い終わったのを見計らって、俺は声をかける。


 「いい歌だな」


 いきなり声を掛けられて、彼女は、ひゃっと声を上げる。それから他の寝ている人たちに気を使ってか口許を手で押さえた。


 「悪い。驚かせるつもりはなかったんだが」

 「……聞いてたの……?」


 カエデは顔を赤く染めて問いかける。


 「まぁ、な。盗み聞きするつもりじゃななかったんだ。ごめん」

 「ううん、こっちこそ、ごめん。……起こしちゃった?」

 「いや、問題ないさ。ちょうど寝付けなかったところだ」


 俺がそう返事をすると、


 「……さっきの歌ね」


 カエデはぽつぽつと語り始めた。


 「お母さんが、よく歌ってくれた歌なの。寂しいときとか、悲しいときとか……安心して、すごく、勇気が湧いてくるんだ」

 「そうか」

 「私、これからちゃんとやっていけるのか、急に、不安になっちゃって」

 「今日一日でたくさんのことがあったからな」

 「……本当に魔王を倒せるのかな……?」


 そして、しばらくの沈黙が流れる。


 「なぁ、そういえばまだ、カエデと友達フレンド登録してなかったよな?」

 「え?ああ、うん、そう、だね」


 急に話題が変わったことに驚いたのか、しどろもどろになりながら応える。


 「じゃあ……しようか、友達登録」

 「ああ、じゃあ申請送るよ」


 そう言ってから俺はいくつかの画面を操作する。『カエデ さんに友達申請を送りました』というメッセージが表示される。これで送れているはずだ。カエデも顔の前で何やら操作をしている。少しして、カエデとの友達登録が完了したことをしらせるメッセージが現れた。


 「よし、これでオッケーだな」

 「うん」


 微笑む彼女に笑い返してから、


 「カエデ」

 「?」

 「ここに来てまだ日も浅い俺が言うのもなんだけどさ、どんなに辛いことがあっても俺たちはずっと仲間だ。コトリだってきっと同じように思ってる。だからさ、何の心配もいらねぇよ」


 少しの間驚いたように目をしばたかせていたが、カエデはふっと笑顔になって、


 「うん、ありがとう」


 そう言った。


 「じゃあ、明日も早いだろうし、さっさと寝ろよ?」


 俺は立ち上がってカエデに呼びかける。


 「うん。……おやすみ、ソウタ」


 彼女は手を振って、自分のテントに戻っていった。

 それを見送ってから、


 「ああ、おやすみ、カエデ」


 自分も寝床に就いた。カエデの歌を聞いたおかげか、今度はすんなりと眠ることができた。


  *


 「やっと着いた~っ!」

 「真夜中なんだから静かにしろよ」


 大声を上げるコトリを、俺はいさめる。

 王都とはいえ流石に真夜中には、門に見張りは立っていたものの、人通りも少なく、明かりも街灯のみで暗い。

 次にたどり着いた村で、今度こそ『帰還の書』を手に入れる予定だったのだが、この村にも先日盗賊が現れたらしく、魔法薬品や『帰還の書』が根こそぎ盗まれてしまったらしい。手口はパーリスを襲ったときと同じく、支部所属の冒険家を偽情報で村から離しその隙に襲う、というものだったらしい。

 けが人が出なかったというのが唯一いい報せか。仕方なく、そのあとも何度か野宿を挟みながら数日をかけて王都・ウィーニルにたどり着いた。途中寄った村も、どこも盗賊に襲われた後だった。パーリスを旅立って以来毎日連絡をしてきている、コトリの母親からも周辺の村が盗賊の被害に遭ったらしいという噂を耳にしている。この王都でも、何かが起こらなければいいが。

 そんなことを思った矢先、どこからか、何かが割れるような音が聞こえた。

 ……どうやら、悪い予感が的中してしまったらしい。

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