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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生今日からニューゲーム
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四章 エンカウント Lv1

 盗賊がコトリたちの住む村を襲ってから三日後。俺たちのもとに一通の文書メールが届いた。

 文書というのは冒険家に登録をした際に使えるようになった新たな魔法の一つで、正確には文書交換メール機能という。冒険家どうしの連絡や組合ギルドから冒険家への連絡にしようされる機能だ。文字通り文章で情報を伝達することができ、加えて遠隔会話テレフォンよりも有効範囲が広いという利点がある。遠隔会話はあまりにも距離が離れると使用できなかったり、会話に支障が出るほどに時差が発生したりと、案外不便らしい。ちなみに冒険家でない人でも組合の支部で手続きをすれば冒険家に文書を送ることができるらしい。

 それで、届いた文書の内容だが、次のような内容だった。


 『冒険家の本登録の準備が整いましたのでご連絡します。組合ウィーニル支部で本登録を行うことが決定しました。道中には魔物も出現しますので、パーリス支部の冒険家を一人、護衛として派遣いたします。出発の日時と集合場所は……』


 同じ内容の文書がコトリとカエデのもとにも届いていたらしく、俺たちは村の中心の広場に集合することになった。冒険に必要になりそうな物を調達するためだ。文書によればウィーニルという街に行くにはいくつかの村を経由して10日ほどを要するという話だ。食料は必要ないが、着替えなどは各自用意するように、とのことだった。


 「じゃあ、まず、服屋さんに行こうか」


 広場に集まった俺たちに向かってコトリはそう切り出した。


 「服屋?」

 「うん、だってソウタの服がいるでしょ?うちには男物の服なんかないからさ」


 彼女の言葉にふと疑問が浮かぶ。


 「コトリのお父さんとかは?」


 俺がそういうと彼女の表情がわずかに曇る。カエデも極まりが悪そうに目を逸らす。

 まずいことを言ってしまっただろうか。


 「うちにはね。お父さんがいないんだ」

 「そ、そうなのか……。なんか、ごめん」


 何か、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、俺は謝罪する。

 しかし彼女はすぐにいつもの笑顔を取り戻して、


 「ううん。いいんだよ。私、全然寂しくなんかないからさ!お母さんもいるし、カエデもいる。おじいちゃんもたまに帰ってきてくれるしね」


 そういえば彼女の祖父も冒険家らしく、いつもどこかに行っており、連絡もろくにせず動向はつかめないらしい。


 「それに、今はソウタもいるでしょ?」

 「ああ、そうだな」


 俺は苦笑で返す。コトリは少し沈んだ空気を振り切るように声を上げる。


 「ほら、行くよ二人ともっ。日が暮れちゃう!」


  *


 「ねぇソウタ、これなんかどう?」


 と、コトリの選んでくれる服は案外センスが良く、助かった。俺は服なんか基本的に着れればそれでいいと思っているような人間なので、服選びには自信がなかったのだ。


 「ソウタ、なんか失礼なこと考えてない?」

 「え?」

 「こいつ、意外にセンスいいな、とか思ったでしょ?」


 ……俺、そんなに顔に出やすいかな……。


 「ほめ言葉だろ?」

 「『意外に』がなければね」

 「だって、お前、いっつも同じパーカー着てんじゃん」

 「中には違うシャツ着てるもん。スカートも違うし」


 言いながらパーカーの前を開いて見せ、くるりと回転し、スカートをアピールする。


 「いちいちそんなとこまで見るかよ」

 「パンツだって違うんだよ、ほら……」

 「見せなくていいからっ!」


 なぜか顔を真っ赤にするカエデを横目に、スカートをめくろうとするコトリを必死に止めながら、ふと浮かんだ疑問を投げかける。


 「そういえば、コトリ。盗賊が村に来た時もパジャマの上に着てたけどさ、そのパーカー。なんか意味でもあるのか?」

 「ああ、これ?」


 俺の問いを受けて彼女は身に着けていたフード付きパーカーを脱ぐと、その内側をこちらに見せる。そこには何やら魔法陣のような記号がびっしりと描かれていた。


 「これはね、自分の魔力循環効率を高める術式でね。これを着てるとHPとMPが若干増えるんだよ。って言っても5%くらいだけどね」

 「コトリは魔法も独学で勉強してて、たまにこういうものも自分で作っているの」


 カエデがコトリの言ったことを補足する。

 この世界にはまだ学校というものがないらしく、何かを学ぼうと思ったら書物などを使って自分でまなぶしかないらい。

 それにしても、どんだけ天才なんだ。こいつは。

 驚異的な身体能力といい、学習能力といい、こいつの能力には感嘆せざるを得ない。


 「へっへーん」


 コトリは少し恥ずかしそうに、それでも誇らしげに、嬉しそうに胸を張る。

 ……つか、俺はまだ何も言ってない。勝手に褒められるな。

  

  *


 そしてその一週間後、俺たちは村に二つある村の外とつながる門のうち北側に口を開けている門の前に集合していた。門といっても運動会で使われるような木を組んで作ったもので、ゲートと言った方が近いかもしれない。その上部には村の名前が示されている。


 「今日、この村を出るんだね」


 カエデが不安げに呟いた。


 「ああ、そうだな。頑張ろうぜ」


 そうは言ったが、やはり不安があるのだろう。元気なく「うん」と返した。


 「きっと大変なこともあるだろうけどさ、この三人ならきっと、楽しい旅になるさ」


 何か気の利いたことをいってやれればいいのだが、情けないことにこんな言葉しか出てこない。

 それでも、少しは元気づけることができただろうか。彼女は心なしかさっきより明るい笑顔でうなずいた。

 荷物を持って門の足元に立つ俺たちを囲むように回りには村の人たちが集まっていた。コトリやカエデの友達も来ているみたいだ。

 その人込みの中から一人の人物が進み出てきた。盗賊の現れた夜に見た赤色の鎧を着た剣士だ。


 「やあ、お待たせ。期待の新人さんたち」

 「お久しぶりです。ルビィさん」


 俺が挨拶をすると、彼女は少し驚いた様子で聞き返した。


 「あれ、自己紹介したっけ?」


 名前についてはあの夜に聞いていたし、実はあの後彼女についてはコトリやカエデから聞いていた。組合パーリス支部所属の冒険家らしい。


 「コトリたちに聞いたんですよ。知り合いなんですよね?」

 「まあね。この村はみんなが知り合いみたいなもんだし。それにコトリちゃんたちいろんなことして目立ってるからね」

 「主にコトリが、ですけど」


 すかさずカエデが情報を修正する。コトリの奴、前からどんなことしてるんだよ?


 「まぁ、みんな私こと知ってるみたいだけど、とりあえず自己紹介から始めようか」


 そういうと、俺たちにルビィさんの個人情報プロフィールを開くように指示する。能力確認ステータスカウントを使用して個人情報を表示すると、彼女は口を開く。


 「私はルビィ。パーリス支部の冒険家で、職業スタイル斬撃手スラッシャー。改めてよろしくね」


 「「「よろしくお願いします」」」


 俺たちは声をそろえて言った。


 「じゃあ、次は君たちの番だね」

 「私はコトリ」

 「カエデ、です」

 「俺はソウタって言います。よろしくお願いします」


 ルビィさんに促され俺たちは順に名を述べる。


 「コトリちゃん、カエデちゃん、それから……ソウタくん。こっちこそよろしくね」


 それにしても、と彼女は続ける。


 「三人とも重そうな荷物持ってるね」


 確かに俺たち三人は荷物を持っていた。着替えをはじめとする生活用品だ。コトリとカエデはリュック、俺は教科書類を取り出した学生カバンを手にしている。言われて気付いたのだが、彼女は武器以外の手荷物を持っていなかった。


 「戦いの邪魔になりそうだし、私が持ってあげるよ」

 「ほんとですか?ありがとうございます!」


 旧知の仲とはいえ、少しは遠慮とかしたらどうなんだ、コトリ?


 「いえ、悪いですよ」


 カエデの方はしっかりと遠慮して見せた。


 「大丈夫だって。見てて」


 そういうと、ルビィさんは差し出されたコトリの荷物に手をかざすと「プットアウェイ」と呟いた。すると荷物は虚空に消え、質量の消失によって起こされた風だけが残った。


 「すごーい!どうやったんですか?」

 「冒険家に本登録すれば使えるようになる魔法の一つでね、物品収納、プットアウェイっていうの。もちろん、取り出すこともできるから安心してね」


 ほら、カエデちゃんたちも、という言葉に従って、俺たちも荷物を預けることにする。


 「ところで、その装備で行くの?」


 まぁ彼女の疑問ももっともだろう。何しろ俺たちの装備は盗賊と戦った時と同じ、つまり、フライパンに木の枝、パチンコなのだから。とは言っても一応確認したところギルドが貸し出してくれる武器よりも攻撃力が高いことは能力確認で確かめてある。まぁ、カエデの武器に至っては輪ゴム銃だったから当然と言えば当然かもしれないけど。…今の武器も、パチンコだからおもちゃであることには変わりないが。

 と、その旨を伝えると彼女は次の質問に入った。


 「じゃあ、そろそろ行くけど、お別れの挨拶はしなくて大丈夫?」


 ルビィさんに尋ねられて、コトリとカエデは自らの親の方に視線を投げる。


 「お母さん、行ってきます」


 いつものように笑顔で手を振るコトリ。


 「パパ、ママ、行ってくるね」


 少し不安そうなカエデ。

 それにこたえて、


 「頑張ってくるんだよ、コトリ!みんなもねっ」


 娘そっくりの笑顔で、なんの心配もないとでも言うかのように手を振り返すコトリの母親に、


 「辛くなったらいつでも帰ってきていいからね」

 「無理するんじゃないぞ」


 涙を浮かべながらそれでも笑顔でそう告げるカエデの両親。どう見ても無理してるのはあの人たちだな。


 「ソウタくんはいいの?」

 「ええ、俺はこの村の人間じゃありませんから」


 彼女は、「そか」と頷くと二人に呼びかける。


 「じゃ、そろそろ行こうか」


 いよいよ村を出るというときになって、コトリの母親が俺に歩み寄ってきてこうささやいた。


 「何があっても、コトリの味方でいてあげてね」

 「何言ってるんですか。当然ですよ」


 俺がそう返事をすると、彼女はふっと笑みを浮かべた。

 『何があっても』という意味深な言い方が少し気にかからないでもないが、俺は文字通り、たとえ何があってもコトリやカエデの味方であるつもりだ。


 「そう、ありがとう」


 そう言って、コトリの母親は人込みに戻っていった。


 「頑張れよ!」

 「コトリちゃん、カエデちゃん、がんばってねーっ」

 「魔王、倒してねっ」

 「二人のこと、しっかり守れよ!」

 「期待してるからなー!」

 「頼んだわよ!」


 村を出た俺たちに村の人々が様々に声を飛ばす。コトリやカエデの友人、それから、どうやら俺に向けたものもあるらしい。

 俺は振り返り、わずかな間ながら世話になった村に、村の人たちにしばしの別れを告げることにする。


 

 「行ってきます!」



 そう手を振って、叫んだ。

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