第七章 ジーンと毒と動き出す者達 その四
その日、ハーシェリクは急な来客を迎えていた。
「ハーシェ、邪魔をする。」
「マーク兄様、いかがされました?」
兄が来るとクロから知らされたハーシェリクは、部屋に散らばった書類を慌てて片づける。片づけるとはいってもオランと一緒に隣の書斎につっこんで隠しただけで、見えなければ片づけたといっても問題はないという考え方は前世と共通している。
「またいろいろとやってるな。」
「……そんなことないですよ?」
顔を見るなりそういう兄に、ハーシェリクはあさっての方向を見ながら答える。マルクスには本性がばれている上、虎穴作戦時にいろいろと手伝ってもらっているので、うまく隠し事が出来ないのだ。
視線を逸らすハーシェリクにマルクスは呆れたようにため息を漏らす。
「視線逸らすのがなによりも証拠だな。とりあえずそれは置いといて本題に移る。入ってこいウィル。」
マルクスが呼ぶとウィリアムが入室した。冴えた美貌を持つ兄が、今日はさらに冷えているようだ。
「……ウィリアム兄様?」
なぜか嫌われている兄が自室にくるのは珍しい。とういうかウィリアムが訪ねてくるのは初めてだ。
「ユーテルの病状が悪化した。」
「え?」
挨拶もなしに本題を切り出した兄に、ハーシェリクは固まる。そして、その言葉が頭に浸透していくと同時に自分の血の気が引いていくことがわかった。
「ユーテル、兄様が?」
「ああ。今日は教会の大司教が治療する日だったが現れず、連絡を取ったが断られた。そして助けて欲しかったらお前を大聖堂に派遣しろと言ってきた。教会からの使者からこれをお前に渡すように言われた。」
ウィリアムが取り出した手紙をクロが受け取り、封を切るとハーシェリクに渡す。
ハーシェリクは渡された手紙を一読し、目を伏せる。
内容はとても単純な物だった。
ユーテルを助けたいなら、城下町のはずれにある教会の大聖堂の奥にある礼拝堂へ今夜来ること。
その場合、共は筆頭達のみとすること。騎士団や警邏局を派遣した場合、ユーテルの治療は拒否、そして彼らの仲間であるはずのシロと、なぜかジーンの命はないということが書かれていた。
内容から予測できる事は、教会側だと思われたシロはどうやら彼らに利用されているだけに過ぎなかったということだ。シロに関しては今まで感じていた違和感が払拭されたが、ハーシェリクの心が晴れる事はない。
「シロさん、ジーン……」
(教会がこんな強硬手段をとるとは。)
教会側がなにか動きだしていることは解っていた。だから準備を整えている最中だったのだ。だがそれよりも相手は早く動き出した。
(でもなぜ彼らがジーンを?)
そこがハーシェリクはわからなかった。ただ頭の片隅で嫌な予想がかすめ、表情が険しくなる。
「……おまえは教会がなにか狙って私達に接触してきた、ということは知っていたな。」
思考の中に沈んでいるハーシェリクをウィリアムの冷めた声が引き戻した。
「……はい。」
ウィリアムの言葉にハーシェリクはたっぷりと間を置いて答える。
教会側がなにかを狙って王家に近づいた。目的はわからなかったが、国家や政に不干渉であるはずの教会のこの動きは怪しかった。表向きはユーテルの体調を心配して、だがそれを素直に受け取ることはできない。
「それが解っていたのに、私達には知らせなかったな。」
「……それは。」
「言い訳は聞きたくない。」
ハーシェリクの言葉をウィリアムが鋭く遮る。ハーシェリクは出かかっていた言葉を飲み込んだ。
巻き込みたくなかった。既に前回の事件で巻き込んでしまったマルクスだって危険なのだ。これ以上、自分の願いの為に家族を危険にさらすことはできないと思った。だから兄達に接触してきた教会側は、クロに頼んで必要以上に調べたのだ。
「それはッ」
オランがハーシェリクを庇うように立つ。
オランは知っている。教会側が接触してきた時、ハーシェリクはいつも以上に警戒していた。それに教会の件がなくても、ハーシェリクは遠出する場合を除き、三日と置かずユーテルを訪ねている。
余計な心配をかけたくないというハーシェリクの優しさが裏目にでてしまったが、それは責められるほどのことではないはずだ。
「これは王族の会話だ。従者は黙っていろ。」
ハーシェリクの代わりに弁明をしようとするオランを、ウィリアムが一言で黙らせる。
オランもそう言われては黙るしかない。助けを求めるようにマルクスを見るが、彼も首を横に振るだけだった。
「ハーシェリク、答えろ。」
「……すみません。」
「謝ればユーテルが治るのか。この状態が打破できるのか。」
ハーシェリクは唇を噛む。兄の言うとおり、ここで謝ったとしても事態が好転するとは思えなかった。
「おまえは、なにもかも一人できると思っているのか?」
「そんなこと思っていません!」
ハーシェリクは自分の無力さを解っている。なんの能力もないのに、叶えたい願いがある。その為なら何でもする。
「私は……!」
いつも皆の前では僕と一人称を使っているのに、それさえ失念するくらい今にも泣きそうなくらい顔を歪めるハーシェリク。だが続く言葉は急に開けられた扉の音に遮られた。
「兄上、そろそろハーシェリクをいじめるのやめませんか?」
その声にハーシェリクが止まった。そしてゆっくりと顔を声のした方向に向ける。そこにはいるはずのない人物が立っていた。
「ユーテル兄様……?」
先ほどウィリアムは病状が悪化したと言っていた。だが目の前に現れた兄は倒れるどころか、お見舞いに行っていた時より顔色がいい。
「まったく、いくら末の弟がかわいくて心配だからって、感情と反比例する表情筋をどうにかしてほしいものです。」
やれやれと肩を竦める兄にハーシェリクは駆け寄る。
「ユーテル兄様!」
「あ、でも僕もウィル兄上と同意見だよ。」
駆け寄ってきた末の弟にユーテルはぺちりと頭を叩く。そしてそのまま頭を撫でた。
「ハーシェリクはもっと他人、というかそこの執事と騎士以外を頼って信じることを覚えなさい。特にうちの兄上はハーシェリクが頼ってくれないっていじけるめんどくさい人種なんだから。」
「ユーテル、おまえ少し黙れ。」
ウィリアムがすねたように言った。いろいろと聞きたいことがハーシェリクの中でぐるぐるとまわっていたが、一番聞きたいことは決まっている。
「ユーテル兄様、お体は!?」
兄は魔力と魔力の器の身体がバランスが取れていない為、歩けないほど身体を壊していた。だが今は自分の足でちゃんと立ち歩いている。
「ん? 元気、とは言えないけど大丈夫だよ。」
ユーテルはハーシェリクの頭を撫でながら言葉を続けた。
「元々僕は魔力が高く器の成長が追い付かないと解っていたからね。でも常時魔法使って魔力を消費していれば問題ないんだよ。ちなみに得意分野は操作系魔法の傀儡魔法。傀儡魔法って一般的にイメージよくないから公にはしてないけど。」
「いや、普通はそんな状態の人間は魔法つかえないからな? お前が特殊なんだよ。」
マルクスが呆れの感情が混じった口調で言う。見ればウィリアムも頷いているので、ユーテルが特殊なんだとハーシェリクは理解した。
「まあ体は元々丈夫なほうじゃないからね。夏風邪で体調崩して療養していたところに、ハーシェリク達がいろいろ動いていることを気が付いたんだ。」
最初は暇つぶしがてら風魔法を応用し、外宮内の話を盗み聞きしていた時だ。特にやることがない為、魔力の消費がてらやっていたら、ハーシェリクとその筆頭達がいろいろとやっている会話を偶然盗み聞いた。
「そこへ教会が接触してきたんだ。ハーシェリク達は教会側相手に苦戦していたみたいだし丁度いいと思ってね。」
ただハーシェリク達に秘密にしていたのは、変な動きをして教会側にばれたくなかったのと、ハーシェリク達からの接触を待っていたのだ。
「そう、なんですか。体は大丈夫なんですね。よかった……」
「そんな可愛い顔で安心されたらこれ以上怒れないじゃない。」
くすりとユーテルが笑い、ハーシェリクを撫でるのをやめるとポケットから小さな袋を取り出す。
「これ、あの似非大司教がくれた健康になれる薬だって。」
「薬!?」
思い出されるのは一昨年の薬の事件。確かにその薬は身体強化される薬だ。だが健康とは真逆の薬である。ハーシェリクの表情を見て、やはりというかんじで肩を竦める。
「怪しいから飲むふりをして飲まなかったけど正解だったね。じゃあこれはマーク兄上の筆頭魔法士に。解析をお願いします。」
「ああ、これで薬の件は格段に進む。そして、薬と教会が完全に繋がった。」
マルクスの言葉にハーシェリクは頷く。一昨年の事件では、大元まで追求ができなかった。証拠がなかったからだ。今は亡き、薬を販売していたアルミン男爵の最期の言葉は嘘ではなかった。
「ということで、王族を脅した罪でとっとと教会に騎士を派遣しましょう。」
ぽん、と手を叩きユーテルは爽やかに笑う。だが言っていることは思いっきりがよすぎる。
「……ユーテル、落ち着け。」
半眼になったウィリアムに、ユーテルは微笑みつつ言葉を続ける。
「十分落ち着いています。あの阿保大司教がやっていることは、国と教会の不文律を無視しさらには王族への脅迫罪です。というか第一になぜ危険な場所に可愛い末弟を行かせなくちゃいけないのですか? はっきり言ってあの胡散臭いなんちゃって大司教、早く処分したほうがいいです。」
表情とは真逆に言っていることは正論だが容赦がない。自分の中のユーテル像が崩れさっていくのがハーシェリクはわかった。
(儚げで病弱だと思ったら、実は毒舌系王子だった……)
口は悪いが言っていることが、とても理論的で正しい為反論し辛い。ハーシェリクは絶対ユーテルを敵に回さないと心に誓う。
「ユーテル、害虫とかゴミではないんだぞ……」
こめかみを押えウィリアムが頭痛を堪えるような表情で言う。ウィリアムの言葉にユーテルは「知恵がないだけ害虫のほうがマシです。処分しやすいですし。」とさらりという。
「お話し中失礼しまーす。」
空きっぱなしだった扉から、ひょっこりのレネットが顔をのぞかせた。学校帰りなのだろう制服のままである。
そしてユーテルを見て顔をしかめた。
「なんかユーテルのひさびさの毒舌が聞こえて怖いんだけど。」
「ん? 何かいいましたかレネット兄上?」
「ごめんなさい、何も言ってません。」
にっこりと微笑むユーテルにレネットがビクリと肩を震える。
「レネット? というかアーリアもセシリーもどうした?」
マルクスがレネットの後ろにいるアーリアとセシリーも見つけて入室を促す。いつのまにか今現在王城にいる王子と王女が集合している。その為十分広いはずの部屋が狭く感じた。
「ハーシェリクにお客様です。」
セシリーが自分の陰に隠れた人物を押し出す。それはやや砂で服を汚れてしまい、顔も泣いたあとなのか腫れている自分の婚約者候補だった。
「ヴィオレッタ?」
「ハーシェリク様ッ」
ヴィオレッタがハーシェリクの元へと駆けだす。そしてその勢いのまま抱きつかれ、華奢なハーシェリクはたたらを踏んだがウィリアムがさりげなく背後に回り込み倒れるのを防いだ。
視線を向けウィリアムにお礼を言い、自分の胸で泣きじゃくるヴィオレッタに話しかける。
「どうしたのヴィオレッタ。ジーンは一緒じゃないの?」
姉の名前を聞いた瞬間、ヴィオレッタの頬にさらに涙が伝った。
「お姉さまが、お姉さまが……!」
ヴィオレッタを宥めつつ、聞き出した情報にハーシェリクは天を仰ぐ。
彼女がもたらした情報は、教会からの手紙が嘘偽りがないということを証明していた。それに嫌な予感的中してしまった。
(バルバッセは自分の娘でさえ簡単に捨てるのか……それにやはり教会は繋がっていた。)
聞いた限りではお互い利用する立場で、共同戦線ではないのが救いだ。
「泣かないでヴィオレッタ。必ずジーンは連れ戻すから。」
ヴィオレッタを安心させる為、自分の表情を努めて穏やかに笑いかける。そしてヴィオレッタをセシリーに預けハーシェリクは兄達に向き合った。
「彼らの要求通り、私が行きます。」
「騎士団や警邏は無理でも近衛騎士団なら出せる。それではだめか?」
大臣側が手を回したとしても、王直轄の近衛騎士団なら国王である父の命令で動かすことはできる。そう言うマルクスにハーシェリクは首を横に振った。
「ジーンやシロさんに危害を加えられるかもしれません。まずは二人の命を優先します。」
「もう一人は兎も角、ジーンというその娘はバルバッセ候の娘だろう?」
ウィリアムの言葉の意味を、ヴィオレッタを除く全員が意味を理解した。そしてその言葉の意味を知っているということはここにいる者全員、父からあの話を聞いているとハーシェリクは知った。
話を聞いた上で全員城に残り、自分と同じ思いということだ。
バルバッセは自分たちの祖父や叔父達、そして第一王女となるはずだった一番上の姉の命を病気と偽って奪った。その宿敵ともいえる男の娘を助ける意味はあるのか、と。
「大臣は関係ありません。ジーンもヴィオレッタも私の大切な人です。」
ハーシェリクははっきりとウィリアムの問いに答える。
親が罪を犯したら子も罪を背負わなければいけないのか。ハーシェリクは否と答える。
それに数か月だが、彼女達と会話し触れ合って、彼女達の人となりを知った後、それを簡単に切り離せるほどハーシェリクは非情に徹しきれない。
ハーシェリクの言葉にマルクスは頷いた。
「わかった。だが一時間だ。お前たちが教会に突入して一時間たったら、近衛騎士団を引き連れて私とウィリアムも行く。」
それがマルクスが譲歩できるギリギリの妥協案だった。
「はい、我が儘いってごめんなさい。」
ハーシェリクは頭を下げる。そして自分の筆頭達を見た。
「クロ、オラン、準備を。ヴィオレッタを送り届けてから教会の大聖堂に向かう。」
「ヴィオレッタさんを大臣の元に戻すのは危険じゃない? このまま城にいたほうが安全では?」
ヴィオレッタの頭を撫でながらセシリーが咎めるように言う。だがハーシェリクはその言葉を首を横に振って否定する。
「大臣は国の重鎮です。このままヴィオレッタを城に残して、大臣に不信感を持たれ強制的に連れていかれた方が危険です。」
消される可能性もある、とはヴィオレッタの前では言えなかった。
事実、あの男は簡単にジーンの命を教会に差し出したのだ。
「私に考えがあります。大臣が不審に思っても手を出せないようにします。」
だから任せて下さいと、ハーシェリクが言うとセシリーは渋々頷いた。
話がまとまったことを確認し、ハーシェリクの筆頭達は準備をするために部屋から出て行く。マルクスもウィリアムを引き連れ父の所に向かった。
「僕は倒れていることになっているから部屋にいるよ。一応代わりの傀儡人形を残しておいたけど、バレると厄介面倒だからね。」
ついでに教会本部に密告の準備もしてくるね、と爽やかな笑顔で部屋を後にしていった。
ユーテルも戻って行き、残されたのはハーシェリクとヴィオレッタ、そして三つ子達だ。
「そういえば、なぜ兄様達は私の事をご存じだったんですか?」
ユーテルに関しては自分の会話を聞かれていたということで納得がいったが、この三つ子達はどうして自分のことを知ったのかわからなかった。
というか今も驚きもせず平然とこの場にいる。
「まあユーテルみたいに細かいところまでは、俺達は知らなかったよ。だけどおまえがこっそり町を出ていくのを知ったからな。」
レネットが当然のように答えた。
「そこから噂と時期を確認すれば、ハーシェリクが何をしているか予想できるよ。しかも何回もあったし。ね、光の王子様?」
アーリアがくすりと笑って付け加える。
つまり、オランとクロを伴って虎穴作戦に出ていく様子を偶然みられていて、その直後の噂の光の王子を自分だと確信していた、ということか。
(自分、意外と抜けてる。あと兄弟達を甘く見ていたかも。)
ハーシェリクは前世からの年齢を足せば、なんとなく悲しいが四十歳を超えた。周りの王子達より倍以上年上なのだ。だから彼らを守る対象としてみていた。だけど、考えれば彼らはずっと守られているだけの子供ではない。成長し自分で考え動くのだ。
「まったく毎回とても心配したのよ? 少しは頼りになると思ってもらおうと思ってあの実技演習で実力を見せようと思ったのに失敗するし。」
セシリーがお茶を用意しつつ言う。だからスキンシップが過多になったりしてたのか納得がいった。
「……ごめんなさい。」
「ちがう、こういう時は別の言葉でしょう?」
謝ったハーシェリクにお茶を差し出しつつセシリーは言った。ハーシェリクは一考しそして頷く。
「ありがとうございます。」
ハーシェリクの言葉に三つ子は笑顔で頷いた。
日が落ち街灯に明かりが灯りだした時刻。ハーシェリクとヴィオレッタを乗せ、クロが御者を務める馬車がバルバッセ侯爵家に到着した。オランは一人馬に乗り、馬車を並走している。
「これは殿下! ヴィオレッタがご迷惑をかけたようで……」
ハーシェリクがヴィオレッタに手を貸して、降りるのを手伝っているとバルバッセが姿を現した。
「いえ、彼女が僕に会いに来てくれたんですから。さあヴィオレッタ。」
ハーシェリクが促すとヴィオレッタが不安げに彼を見つめ手を握る。そんな彼女にハーシェリクは穏やかに微笑み頷いた。その微笑みにヴィオレッタは頷き、ハーシェリクから離れ自分の父親の横に並ぶ。
そしてハーシェリクが口を開いた。
「バルバッセ大臣、ヴィオレッタとの婚約お受けいたします。」
予想をしていなかったであろう言葉に、大臣が目を見開く。
「……それは確かに?」
疑いの眼差しを向ける大臣に、ハーシェリクは微笑みで応えてみせた。
「後日正式な書状をお持ちします。ですから……」
ハーシェリクの表情が変わった。口は微笑みのままだが、瞳が鋭くなり視線が大臣を射抜く。
「僕の婚約者になにかあった場合、その責は全て侯爵、貴方がとるのですよ。」
それはただ確認しているだけではない。牽制であり脅迫だ。
大臣はヴィオレッタがなぜ自分の元に、しかも黙って行ったのか怪しむだろう。そして少しでも自分の不利益になると判断したら、彼は実の娘でも手をかける。ジーンのように。
だからハーシェリクはヴィオレッタを正式に自分の婚約者にした。ヴィオレッタに……王族の婚約者になにかあった場合、徹底的に調べられ罰せられる。それは親であっても大貴族であっても大臣であっても変わらない。
平たく言えば「ヴィオレッタになにかあったらただじゃおかない。」という脅しだ。
「……承知いたしました。」
バルバッセの言葉に鋭い視線を一転、穏やかな表情に戻しハーシェリクは頷く。
「ではヴィオレッタ、またね。」
「はい、ハーシェリク様……」
そしてハーシェリクは踵を返す。そのハーシェリクに筆頭達が続いた。
「さあ行こう。」
「我が君のお心のままに。」
ハーシェリクの言葉に、筆頭達は声を揃え答えた。