Chapter03
気が付いた時に自分は見知らぬ場所に立っていた。
目の前に映る光景は美しい木々の広がりを見せる町並みだった。
木々の間から洩れる木漏れ日が気持ち良い。
すごい、としか言え様がなかった。
美し過ぎるが故にリアリティが薄まるが
目の前の光景はまるで現実の様だ。
思わずボケっと突っ立ち放しである。
「よう、兄ちゃん。ヴェルダンは初めてかいっ?」
「はっ、はい!?」
不意に後ろから声を掛けられる。
ワイルドで野性味の溢れるフェルパーが話しかけてくる。
「ギルドで冒険者登録はしたか?登録したら一度
自分に宛てられた宿舎を確認してから動いた方がいいぜ」
「あっ、ありがとうございます。そうしてみます」
「それがいい、じゃあな。いい冒険者ライフを…」
思わず素で会話してたが落ち着いて考えてみると
今の会話ってチュートリアルか?
って事は今のNPCか?全然気付かなかった。
日本の映像技術はもう世界のトップを狙えるんじゃないか、コレ。
とりあえずNPCの進言に従ってとりあえず
冒険者ギルドへ向かってみる。
とはいえ、パット見広くて迷いそうだ。
RS11の時も慣れるまで結構迷ったっけなぁ。
マップを呼び出してみる。
ピコンと音を鳴らしながら目の前の風景画消え
ヴェルダンの全体マップが目の前に表示される。
今はどうやら4区画に分かれている内の「焔の区」に居るらしい。
冒険者ギルドは…っと、「疾の区」にあるらしい。
全体マップを簡易マップに切り替えると
先程の風景の右上側に表示される。
マップを頼りに行ってみよう。
歩きながら周りを眺めるとかなりの人数のプレイヤーがいるのか
エルフとフェルパー以外の人種も結構居る。
良く見てみるとプレイヤー名がキャラクターの頭上に浮かんでいる。
エルフやフェルパーは緑色の字で書かれているが
他の種族は圧倒的に灰字が多い。
確か灰字がプレイヤーで緑字がNPCだった筈だ。
説明書によるとプレイヤーの名前はアライメントで色が決まる筈。
アライメント、SVシリーズの経験者ならまず知っているシステム。
いや、最近のSVはアライメントを排除した物も多かったか?
アライメントはプレイヤーの性格、通ってきた道を示すものである。
縦軸から、ライト、クリア、ダーク。
ライトは多くのRPGのお約束である人を助けたりといった
良いことをしたりすると伸びる明るく善性のある性格。
ダークは逆に犯罪や人殺し等悪い事をすると伸びる悪性のある性格。
クリアはそのどちらにも染まっていない中間。
横軸はロウ、アパシー、カオス。
ロウは秩序や法といったルールを守る方向で
行動すると伸びる性格。
ここで勘違いしてはいけないのは秩序を守る性格といえど
必ずその行いが正しい、善性ではないという点だ。
例えばお偉いさんがルールの穴を潜って
もしくはそれを盾に悪どい事をしていても
それでもルールに触れていないのならそれはロウなのである。
カオスは逆に自由、混沌といったルールを無視した時に伸びる性格。
これも勘違いしてはいけないがルールを破る事が
必ずしも悪性ではないのである。
上記のルールを利用して悪どい事をしている者を
過程を無視して力づくで止めるのは善性と言えなくもない。
アパシーはどちらにも染まっていない方向、中立。
アパシーという言葉自体「政治的無関心」を指す言葉なので
中立という寄りは思想の興味無し
もしくは日和見主義者と言ってもいいだろう。
以上の軸が自分の行動の結果変動して行き
自分のキャラクターの性格が縦軸と横軸の二つから
割り出されるのである。
ゲームスタート時は皆アパシー=クリアの性格であり
イベントをこなして行く内に変わるだろう。
SVシリーズではシナリオとエンディングにモロに影響するがSNOでは
特定のアライメントでのみ受けられるクエストがあったりするそうだ。
5分程歩くと大きな木製の建物、というより大樹を利用したと
いうか空洞にして使われている様な建物が見える。
ここが冒険者ギルドの様だ。
カウンターにつくと眼鏡のエルフの女性が此方に向かって声を掛けてくる。
「ヴェルダンの冒険者登録の方でしょうか?」
「はい、登録をお願いします」
「それでは此方の用紙に必要事項を記入して下さい」
必要事項に記入ってどうやるんだ?
画面に何も出てきてないよな。
そういえばさっきも選択肢も何も出なかったが
普通にNPC対応していたよな?
音声対応なのか、このゲーム。
ヘッドディスプレイにマイクが付いてるのもそういう理由か…
実は映像面意外でも相当な技術が使われているんじゃないのか。
もしくはプレイヤーに触れる機会の多いNPCには
専属スタッフが付いているのか。
と考えていると
「お待たせしました、こちらギルドカードとなります。
主にギルド依頼の受付や国営の冒険者宿舎の利用する事になります。
紛失しない様にお気をつけ下さい。」
「ぇっ?あっ、はい、分りました」
素っ頓狂な声を上げてギルドカードを貰う。
別に記入が必要だったんじゃなくてただの演出だったのね。
自分がちょっと滑稽に見える…と思い周りを見たら
同じ様な反応をしているプレイヤーが何人か居た。
危うく軽く欝入るところだったが、そうだよな。
普通みんな驚くよな
とテンション上げなおして今度は冒険者宿舎に向かってみる。
全体地図を見てみると場所は「汐の区」にある様だ。
にしても本当に広いな、一区画だけでもどんだけのものか?
慣れればスイスイ移動出来るんだろうが一週間位は普通に掛かりそうだ。
宿舎と思われる岩製の建物のの前では大勢の冒険者が屯していた。
確か宿舎は中に入った瞬間自動的に自分の部屋に
飛ばされる筈なので込み合うという事は無い筈だ。
となると既に仲間を募っているプレイヤーが居るという事なのか?
少し考えているとロリっ子巨乳という
明らかに相反した女の子が翔けて来る。
ドワーフかグラランだろうか?
「ツヴァイく~ん!!やっぱツヴァイ君だ!!」
「え~と何方様でしょうか?」
「そんなっ、ヒドイ!?
ツヴァイ君、あんなに激しく求め合った中だっていうのに
…忘れちゃったの?
アタイの事忘れちゃったの?
いらなくなったらポイって捨てちゃうのっ?」
「ちょっ、おま、待て落ち着け。人聞きの悪い事を言うな!?
周りの人がすごい目でこっち見てるから
っていうか、え~と」
「アハハ、冗談だってば。
落ち着いてアタイの名前を見ればすぐ分るから♪」
深呼吸してから少女の名前を見る。
【リール・エレクトラ】
リール・エレクトラ、本名は神堂香苗。
オレのペンフレ兼メル友で3つ年下の高校2年生の女の子。
過去購入していた某ギャルゲー雑誌の中にある企画で
文通相手を希望する人の葉書を乗せるコーナーがあった。
HNとイラストと自己アピールとそして本名と自宅の住所を載せる
というある意味でスゴイ企画である。
雑誌側では載せた住所と本名は悪用されても責任取りませんという
スタンスの状態である企画に参加した彼女はある意味
自分よりも遥かに漢気のある娘だ。
数年文通をしていたが携帯とネットの普及に伴い
何時しか手紙の回数が減り何時しかメール交換へと移って行った。
結構長い付き合いなので互いに下ネタ紛いの
セクハラを言い合える程度には仲がいい。
互いが趣味に影響を受ける事もあり
コンマイ社のカードゲームに手を出したのは記憶に当たらしい。
BFはいい加減にして下さい、エーリアンは新カードいい加減出して~。
因みに彼女の住んでる地区と自分の住んでる地区は少し遠く
直接リアルで会った事はない。
会ったことが無い為、ウチの家族は実は男なんじゃないか?
とか妹の名前を使ってるんじゃないの?と疑っている。
どうもオレに女性の友達が居るという事事態に懐疑的な様だ。
BL熱心に語れる男っていうのもありえないと思うが。
逆にリールの家では手紙やメールの付き合いが長い為
家族公認の彼氏扱いになっているとかいないとか。
リール、オレだぁ~!!彼女になってくれぇ~!!と
冗談半分には言うが、実際に会うことはまず無いと思っている。
会うだけ時間と金が結構掛かるのは現実的に厳しい。
ついでに本当にリールが男だったら
オレは泣いて立ち直れないだろう。
そんな事がなくても顔に自信の無い自分に会っても
ガッカリさせるだけになりそうだしなぁ。
せめて顔を見せ無い事で彼女の中にある
自分の王子様感を壊さない様にしないとな。
おい、それはね~よ!!と思った奴、ちょっと表出ろ。
「流石に事前に一言入れてくれないとボクだって分らないって」
「それじゃサプライズにならんっしょ?
ツヴァイ君の反応中々面白かったよ?」
「そりゃようござんした…で、リール姫。何か用でもあったのか?」
「年上のお兄さんが拗ねないの。
でね、ちょっと一緒にクエスト受けない?」
「クエストったって、まだお互いにLv1だろ?
確かPTプレイは早くても10になってジョブ付いてからの推奨だし
経験値だって碌に手に入らないんじゃ?」
「ん、それなんだけどね。
クエストの内容がモンスターのドロップアイテムを3つ拾ってくるんだ。
落とすモンスターは別に強く無いケド
ドロップ率が低くてね。だから経験値は共同にしないで個別に。
2人で別々の相手を叩いてアイテムだけ共有
必要数集まったらNPCに渡して報酬を貰うって方向で行きたいんだよ」
「因みに報酬は?」
「600ネガ、序盤にしては結構いい額じゃないかな?
半分で割って一人頭300ネガだけどレベラゲ序に
乱獲すれば多少は懐暖まると思うよ」
「確かに、それじゃあ行くか。
準備する程に金もアイテムもある訳じゃないしな。
ところで街の出口分んないんだけどリールは分る?」
「この汐の区から精霊の森南部に出られるよ、よし出発☆」
初戦闘か、楽しみだな。