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錯覚  作者: 古杣空木
進行する現実と追随する夢と
1/2

終わる為の始まり

暇人が執筆するので、誤字・脱字等が多いと思われますが、それも愛嬌と思いながら御閲覧下さい。

「世界の外側に、行ってみたいのです」


薄幸そうな女は、呟いた。


女と私は、病室に居た。


真っ白な部屋で、更に女も純白の患者服を着ているので、真っ黒な服装をしている私は、此処では異質だ。


「世界の外側・・・ですか」


「はい」


「行って、どうするのですか」


「さあ・・・。行ってみない事には」


「そうですか」


沈黙が世界を満たす。私は、何だか喋らなければいけないような気がした。


「何故、行きたいのですか」


「行きたいから、です」


理由になっていない。

問い詰めようとすると、彼女は此方を真っ直ぐに見つめてきた。


「だって、内側はつまらないですから」


それもそうだと思った。


「しかし、外側だってつまらないかもしれない」


私がそう言うと、女はとても悲しそうな顔をしながら、私から横の窓に目を移した。


「それはそうでしょうが、だからといって、貴方はずっと内側に居るつもりですか」


「・・・解りません」


言っている事が。


女はおもむろにベッドから降り、窓際へ歩み寄った。


――綺麗だ。


暖かい陽射しに照らされた女の肌に、私はつい見とれてしまった。


女が此方を向く。


その瞳は、私を見るには勿体無い、妖美なモノであった。

つい視線を下に逸らし、私は弁解がましい事を口にする。


「い、いえ・・・、私は、小心者なので外に出るのは恐くて・・・」


そう、恐いのだ。内側という温室で育った私が、外側という自然で生きれる筈が無い。


「恐いのではありません。貴方は外側に憧れているのです」


返ってきたのは、予想外の言葉だった。


「憧れ・・・?」


「そうです、憧れている。でも、だからこそ、対象を畏怖のモノとして、自ら線引きをした。そうしなければ、貴方は内側に居られなくなるから」


――私、私は・・・。


「解りませんか。貴方は無意識のうちに外側を羨望し、そしてその気持ちを隠してきた。そうでないと、貴方は内側で機能しなくなる」


「わ、解りません」


本当に、解りません。


女は、眉に皺を寄せ、苦痛の表情になった。


「解らないのではないのです。解ろうとしないだけ」


その通りだ。解ろうとしない。

この頭は自分勝手に頭の中を改竄かいざんし、そしてそれが本当であるかのように見せかける。


だから私には、何が真実か解りはしない。


そして頭は、何が真実か解ろうとしない。


「ど、どうすれば良いのです」


女は、簡単な事だと言った。


「外側に行けば、良いのです」


「何故」


人は群れる生き物だからと、女は訳の解らない返答をした。


「群れる・・・」


独り言を呟くと、女は嗚呼、と溜息を吐いた。


もう終わりです、と女は言った。


終わりですかと、私は問うた。


長い沈黙の後、女は窓に寄り掛かり、私を見つめ一言。


「また、此処とは違う何処かで、お待ちしています」


すうと、女は窓から落下していった。


何故か私は助けようとせず、只、呆然と突っ立っていた。

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