↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
PR

かみさまへ

作者: 倉木紫
掲載日:2026/11/01

かみさまへ


おべんきょうができなくてもなぐらないおとうさんをください

おとうさんからまもってくれるおかあさんをください

あんしんしてかえれるおうちをください

こわいことをしないおとなのひとをください

たすけてくれるおとなのひとをください

かわりにわたしのいのちをあげます


よしの



――


 学習教材が山のように積まれた勉強机の上、自由帳に残された文章を認め、胸がぎゅっと締め付けられた。まだ漢字を覚える前の幼い子が、必死に遺した言葉。蚯蚓が這ったような平仮名の羅列でも、確かに読み取れる。君は、どんな気持ちで、これを。

 生温い涙が頬を伝い落ちていくのを感じた。調査に私情を持ち込むべきではない。そんなことは端からわかっている。それでも、この遣る瀬無さだけは消せない。

 被害者は中木(なかぎ)愛乃(よしの)。6歳。二日前、近隣住民の通報によって事件が発覚。愛乃ちゃんは搬送先の病院で死亡が確認された。遺体には無数の痣が残されており、体重は平均的な6歳児の約半分程度だったという。直接の死因は栄養失調。愛乃ちゃんの死には不自然な点が多く、また両親の証言も曖昧だったため、虐待の疑いで家宅捜索が実行された。そして、私はこの日記を見つけた。


 現在の日本の司法では、愛乃ちゃんの両親は大した刑罰を受けることはないのだろう。児童虐待による死亡事件は、法的な殺意の立証が難しい。ゆえに傷害致死罪や保護責任者遺棄致死罪などが適用されるケースが多いのだ。未来ある子供たちの命が理不尽に奪われても、罪が軽んじられる。私はただの警察官だ。裁判に口を出す権限は持たない。だが、罪を軽んじるということは、失われた命を軽んじることと同義だ。そんなこと、本来あってはならないはずだろう。しかし、これがこの国の司法の現状だ。


――


神様へ


少しでも多くの子供たちが安心して暮らせますように。

少しでも多くの子供たちの笑顔を守れますように。

いち警部補の私に何ができるのか、ずっと考え続けています。

私はあなたの加護を求めません。

ただ、あの子に安らかな眠りを。どうか、どうか。


吉野(よしの)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。