「42kgを超えた女は肥太った豚と同じと仰いましたので」等と供述しており...
「お願いですわ!お兄様を返して下さい!」
伯爵邸の応接間には、焦燥した表情で叫ぶ令嬢がいた。
令嬢の前で、伯爵のひとり娘であるメアリーは優雅に紅茶の入ったティーカップを傾けて
「慣れ親しんだ茶葉はやはり美味しいですわね」
と呟いた。
目の前に座る令嬢は、メアリーの夫として先日婿入りを果たしたアレックスの妹、ジョセフィーヌである。
アレックスはロドリゲス伯爵家の三男で、伯爵領にある葡萄農園の経営を任されている優秀で実直な男である。
メアリーの生家であるスートン伯爵家の事情を汲んだ上で、婿入りを承諾し、新たな事業展開もいくつか試みて、互いの家に貢献している。
特段、兄に対して強い思慕を寄せていると言った話は耳にしてはいないが、彼女の主張はそう言った事ではないのだろう。
「貴族の婚姻は家の繋がりの為に必要なものであり、アレックス様は既に両家にとってなくてはならない御方ですわ」
「ええ、それはわたくしも十二分に理解しておりますわ!」
ジョセフィーヌはキッ、と強い目線を邸宅の中庭へと向けた。
「わたくしは、結婚前の一般的成人男性の姿だったお兄様を返して欲しいのですわ!」
メアリーはふう、と、一息ついてカップをソーサーに置いた。
中庭には、アレックスがいる。
身長185cm、体重95kgの、肩に大陸を乗せる事が可能だと思える程のガッシリとした頼りがいのある筋肉質な肉体に仕上がった、とメアリーはおもっている。
「貴方、アレックス様が学生時代に公言なさっていた事をご存知かしら?」
この国の王侯貴族は人脈作りや後援者探しも兼ねて王立学園に入学する。
学生時代に人脈作りに励んでいなければ、後の人生に多大な影響を齎すと言っても過言では無い。
「42kgを超えた女等、肥太った豚に同じ。アレックス様はそう仰いましたの」
学生時代のメアリーはニッコリと笑って、当時婚約者だったアレックスに告げたのだ。
「そう仰るのであれば、勿論アレックス様もわたくしの希望を聞いて頂けますわね?」
メアリーは、筋肉質な男性が好みだ。
女性ばかりが男性の理想に近付かなければならないのは、平等ではない、アレックス様もわたくしの望みを叶えて下さるかしら?と、メアリーは告げた。
メアリーの信用出来る武術の師に増量と運動、食事制限を頼んだ結果、アレックスは結婚までに約30kgの増量に成功したのである。
アレックスは葡萄農園の経営を含めて肉体労働をする様な仕事は手に掛けてはいないのでこのままでは宝の持ち腐れであるので、仕上がった筋肉を披露出来る場はないかと模索しているところである。
「お兄様が、その様な事を...」
「わたくしは標準体重の範囲内でしたので減量なぞしなくても良い、と師範に告げられましたが、お互いに理想の姿になる方が好ましいかと思いましたの」
式までに10kg絞り、初夜を共にした時
「僕が悪かった。その様に細い身体では手折ってしまう。今後は決して、女体について口出しはしない」
と、スライディングで頭を床に擦り付ける勢いの謝罪を受けたので、既に許している。
アレックスが現在も鍛錬に励んでいるのは、筋肉が付いた事で今まで自分を馬鹿にしていた2人の兄を黙らせる事(物理)に成功したからである。
事情を知ったジョセフィーヌは納得の上で帰路に着いた。
ジョセフィーヌを乗せた馬車と入れ違いで、郵便が邸宅に届く。
王家の封蝋がなされた豪奢な手紙の封を切ると、学生時代の友人であり、王太子妃となったエリザベスから
「近く、王家主催の観覧会が開催される事となった」
と言う内容が届いたのだった。
王太子妃エリザベスはメアリーの筋肉愛好仲間でもあり、メアリーの結婚式に参列して以来、アレックスの仕上がった肉体美を目にする機会を望んでいた。
メアリーは喜色満面で中庭にいるアレックスに声をかけるのであった。




