1.土地神さま、終活を始めます!
すべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
__人々の悲鳴、怒号が入り混じる中、土地神はただ茫然と立ち尽くす。社は燃え朽ちていき、周りの木々も炎に呑まれていく、そんな絶望ともいえる景色を目前にしながら。「……私は」土地神の瞳が揺れた__
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春叶栄町、人里から離れた山奥にポツンと朽ち果てた社がある。この町の土地神さま、コハルの社が。
時代が進むにつれて、人々の「神様」に対する信仰は昔ほど厚いものではなくなり、存在が薄くなった社を管理する者も、訪れる人もめっきりいなくなった。
「今日もなーんにもないわねぇ、一体、いくつもの時が過ぎたのかしら」生い茂った草、木々を見るとみずみずしい新緑の葉がサワサワと揺れる。コハルにとっては飽きるほど見てきた光景だ。
「あら?」コハルは近づく人影に目を向ける。杖をつき、ゆっくりと社へ向かってくるその老婆は、社へよく訪れていた唯一の人だった。
「マヤ!今日も来てくれたのね!もう夏みたいだから、こんな暑いうちに来るなんて、身体に障るわよ」そう言いながらも、コハルはとても嬉しそうだった。もちろん、その声は老婆に届かない。
老婆は社に着くと、誰かに話しかけるような、そんな優しい口調で語りだした。
「土地神さま、私ももう歳ですねぇ。身体が思うように動かなくなりました。もうここへ来るのも最期かもしれません。娘も、病院の先生も、もう山へは行くな、と。」老婆は寂しげに、言葉を紡ぐ。
「それに、土地神なんていないと皆言うのです。祈っても無駄だと。でも、私は見たの。幼い頃、ここで。山で迷った私を助けてくれた神さまを。」
コハルは、社の前で手を合わせ祈る老婆、マヤの姿を見て優しく微笑む。
「…マヤ、姿を見せてあげられなくてごめんなさい。私はもう、神としての力があまり残っていないの。こんなに近くに信仰してくれる人の子がいるというのに、声も届かない。」
「今まで、ありがとうございました。」老婆は、様子を見に来たであろう娘のもとへ向かって、歩いていく。
「こちらこそ、ありがとう、マヤ。」人の子の時の流れは早い。理解はしているものの、やはり寂しさはある。
「これで、私のことを知る子はいなくなったわね。人々に忘れられた神は自身の力を失い、社は壊れ、やがて身体をも失う。」
土地神さま、コハルはどこか吹っ切れた顔で呟く。
「終活、しようかしら!」
「社から離れると力が削られるから最近は山から出られなかったけど、外の世界に出てみたい…!!」
_どうせ私という神の存在が消滅し、何も残らないなら、今の人の子の暮らしを見たい。
そう決意した土地神さまは、何十年ぶりに山を下っていく。人里を目指して。
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