人魚姫の泡−愚かな王子の本心と報われない恋−
人魚姫の王子目線。アンデルセンの童話でをもとに描いています。気に入っていただけると幸いです。
船の上で誕生祭を行った、16歳の誕生日の事。王子である僕の誕生祭はすごく豪華で、賑わっていた。
しかし、その日は急に天候が変わり、嵐に巻き込まれた。
船には水が入りだし、沈みだした。
嵐の中、僕の乗っていた船は難破して、海に放り出された。
海の真ん中、もう命はないだろう僕は諦め、目をそっと閉じた。
海に沈みだした身体は、ゆっくり、しかし確かに死ぬはずだった。
海の中は、なんだか心地よく感じた。誰かに抱きしめられているような、そんな感覚。
額に何か触れたように感じた。もう死ぬ僕の勘違いかと思った。
しかし気づいたら、浜辺に流されていた。
海の中よりずっと身体が重く、ふと額に手をつく。
するとすぐに修道院から何人かの女性が来た。
1人目の者はほかの人を呼び、いち早く僕に近寄った。
僕は彼女達にお礼を言った。しかしすぐに力尽き、眠ってしまった。
起きたら僕は自室にいた。数日間目覚めなかったと聞かされた。
僕は夢の中、1人の女の子が出てきた。
多分15歳くらいで、髪は長く、美しい女の子。僕らは海の中にいて、その女の子が助けてくれた。
そして僕の額に口づけるのだ。夢はそこまで。
僕は夢の中の彼女に恋したのに、はっきりと顔が思い出せない。ただ、とても美しい『声』だったのを覚えている。
部屋のバルコニーから海を眺めると、夢のなかに出てきた彼女にそっくりな、女の子が見えた。
でもあんな所に人がいるはず無いだろう。
(疲れているのか……)
数日後、やっと外に出ることを許された。あの夢を思い出しながら、ボートを漕ぐ。
そこで緑のアシの間から、白銀の何かが見えた。きっと白鳥だろう。
その翌日、また海へ行った。
そうするとあの時流れ着いた浜辺で、物音が聞こえた。
「誰かいるのか?」
そこには裸の、髪の長い美しい女の子がいた。
「〜〜ッ!」
僕はすぐさま顔を背け、自分の上着を押し付けた。
「きっ君!何か着てくれ!」
顔を真っ赤に、そして震えた声で言うと。彼女は僕の上着を着せた。
「なっなんで何も着てないんだ!もっと……」
彼女に向き直ると、透き通るような美しい肌、きめ細かい美しく、長い銀髪に、長いまつ毛と深い青い目、
そんな美しい少女を前に一瞬戸惑う。
彼女はこちらに近寄ろうとするとバランスをくずし、倒れかける。
僕は慌てて彼女を支える。
「君はだれ?どうやって来たんだい?」
「……」
「ん?どうしたんだ?」
彼女は喉を押さえながら、口をパクパクとさせる。深い青い目で、訴える様な顔で。
「……もしかして、喋れないのか?」
「!!」
僕がそう言うと、強く頷かれた。
その時の笑顔、太陽な様な笑顔に顔が赤くなった。
彼女は何処の誰か分からない。ただ、僕がいないと立ってすら要られまい彼女を、置いて行くなんて出来ない。
いや、夢のあの人を感じられる彼女を置いていけなかった。
彼女を城へ連れ帰ると、彼女は歩くたびに痛そうに顔をひそめた。
しかしすぐに僕に笑いかけるものだから、気にも止めることはなかった。
だって彼女は僕の手を取ると、とても軽い足取りで僕を驚かせるのだから。
城に着くと、彼女にモスリンの高価なドレスを着せたら美しかった。
その舞踏会で、1番美しいのは彼女だと確信した。
その時に、絹と金の服を着た女奴隷が出て王族の前で美しい歌を歌った。他の誰よりも、美しく歌ったものだから、感心した。
横の彼女は下唇を噛んでいた。彼女は歌えないからだと思った。
彼女は音楽に合わせ踊る女奴隷の前にで、ふわりと宙に浮かぶように、軽やかに踊った。
その姿が誰よりも美しく、女奴隷などどうでもいいと思うほど、僕以外に皆が魅了された。
僕は言った。
『かわいい捨て子さん』と。
彼女を呼んだ。そして言ったのだ。
「ずっと、僕のそばにいるといい!」
周りの貴族にも、父にも母にも、彼女は僕のだと示したつもりだった。
彼女を僕の部屋の前にあるビロードのクッションで休むようにさせた。
ある時、彼女を馬に乗せ、雲が足の下に見えるほど高い山に登った。
僕は妃を娶るなど、考えもしないほど、彼女に惹かれた。
どんどん彼女を好きになって行った。
僕は彼女を抱きしめ、彼女の美しい額にキスをした。その時、彼女の目は訴えかけていた。
私のことを一番愛してほしいと。
だから言った。正直に、笑顔で。
「君が1番好きさ!」
そして続けた。
「君の心はだれよりも優しい。誰よりも僕にまごころから尽くしてくれるもの。
君は……いつか見た女の子にそっくりなんだ。でも彼女には二度と会えないだろう。
僕の16歳の誕生日に嵐に巻き込まれて、岸に打ち上げられた事があってね、その時あった娘だ。
彼女にあってから、僕は彼女しかこの世で愛せることは無いと思ったんだ。」
そう言って僕は更に強く抱きしめた。
「でも、君が現れた。君は彼女にそっくりだよ。その人の面影を僕の心の内から押しのけてしまいそうだ。
あの人はもう会えないだろうけど、君は神があの人の変わりに君と会わしてくれたんだろうね。」
「僕達はずっと一緒にいよう!」
僕は純粋に言った。傷つくとは思っていなかった。
ただ夢に出てきた、会えることのない彼女と重ねていた。
その時の彼女の顔なんて一切見ていなかった。
ずっと幸せに、彼女といれると能天気に思っていた。しかし、
父と母は僕に隣国の王女と会ってくるよう言われた。
美しいと有名というその王女も、彼女には負けるだろう。
隣国の視察という名の縁談。彼女以外は僕には眼中になかった。
彼女もそれをわかっていたのだろう。彼女は頭を横に振って気にしなかった。
「僕は、旅にでなければならないんだ。」
「隣国の王女と会わなくてはならないんだ。父上と母上の言いつけで。きっと彼女を妃にしてほしいんだろう。だが、僕はその王女を愛せないだろう。
いつか、妃を選ばないといけないとなったら……君を選ぶ。
君は喋られないけど……その深い青い目は口ほどにものを言う。」
僕は彼女に口づけ、長くきめ細かい銀髪を撫でた。そして、彼女の胸に頭をうずめた。
隣国に彼女も連れて行った。
船に乗っている間、彼女は海の話を聞き、今まで一番幸せそうに頬笑んだ。
そして、時折悲しそうに海を見つめた。
翌朝、隣国に着くと高い塔からラッパが吹き鳴らされた。
毎日、あらたに宴会がもようされ、舞踏会やパーティーがかわりばんこに開かれた。しかし王女はなかなか現れなかった。
そしてとうとう王女が現れた。
彼女は肌はきめ細かくほのかに赤みを帯び、長く黒いまつ毛に横の彼女と同じ深い青い目をしていた。
確かの美しい。ただ、彼女にはやはり及ばない。でも当の本人は彼女を見て固まっていた。
王女は私の前まで歩いてくると思うと、ゆっくり口を開いた。
「お久しぶりです。貴方様が、死んだように海の岸に打ち上げられていた時、助けたのは私です。」
「ああ!貴方でしたか!」
海の岸に打ち上げられていた時に人を呼んでくれた修道女と同じだと気づく。
確かに彼女は都から遠く離れた修道院で育ち、王室としての教養を学んでいると聞いた。
僕は王女に微笑むと彼女は顔を赤らめ腕を絡めてきた。
王女を無下逃げ切るはずない。腕でを振り払う事も出来ずに苦笑いした。
それから僕は自国に戻ると、父と母に連れられた。
「隣国の王女との婚姻が正式に決まった。」
困惑した。抗議した。でも聞き入られることはなかった。揚げ句のうえに
「王女はとても美しいだろう。彼女以外に何を望む。彼女を娶れて嬉しいだろう。」
「ですが私は……!」
「あの捨て子の事なら諦めなさい。いくら気に入ったとしても、良くて愛人止まりです。」
固まっていた。嫌だった。彼女以外を愛すなんてできない。ただ……彼女を愛人など、それよりもできない。
嫌でしか無かった。でも彼女に言わなくちゃいけなかった。
言ってしまった。君が好きだよ。娶るなら君だと。
彼女は不安そうに僕を見る。ああ、愛おうしい。でも……
「ゆっ……夢にも思わなかったことがかなったよ。きみは、ぼっ私の幸福を喜んでくれるね!君は誰よりも、私を好いていているのだから!」
そして彼女は僕の手にキスした。
胸が潰れそうで……彼女が喋れないことをいいことに……彼女の目は泣きそうで、でももっと、それよりも
ずっと苦しそうだった。
王女との結婚はトントン拍子に進んだ。嫌になるほどに。
教会の鐘と共に、結婚は告げられた。
神父は私と王女の前で、祝福の言葉を告げた。
愛しの彼女は金色と絹の服を着せられ、王女の長いドレスを持たされていた。
私はお祝いの音楽も頭に入らず、聖なる儀式も他人事のように感じた。
夕方は、もう私と王女は帰国の船に乗せられた。祝賀の大砲が打たれ、船には沢山の旗が風になびかれた。
船の中央には金と紫の豪華な天幕が張られ、極上の寝具がのべられていた。
新婚となった、私と王女が2人っきりで、涼しい夜を過ごせるように。
日が落ちると色とりどりのランプが灯され、船乗りたちが楽しげにダンスする。
僕はただ彼女を見つめていた。そして思い出した。16歳の誕生祭を。
彼女ははなやかで楽しそうに見える船上の宴に加わり、一緒に踊り回っていた。
軽やかに、そして誰よりも大きな拍手喝采をもらっていた。
王女は私にキスを落とした。そして私の黒い髪を撫で、豪華な天幕に入っていった。
そうすると周りはシンと静まり返った。
しかし、彼女以上を愛せる気分になれなかった。
私はただ静かに寝た。王女は私に引っ付いてきたが。
その日の夜のこと、額に口づけをされたように感じた。
しかし不快じゃなくて、海のなかにいた時のような心地よさがあった。
明け方、彼女がいなかった。慌てて探し回った。
彼女は泣いていた。
やっと見つけたと思うと、彼女は身を投げようとしているように見えた。
彼女は王女の額に口づけをした。
僕に頬笑んだ。今までで一番悲しそうな、笑顔で。
そして彼女は消えた。
その後、彼女の部屋でナイフが見つかった。天幕に入って行くのを見た人もいた。
皆言った。
「あの捨て子は王子を殺そうとした!」
彼女は僕の命を狩りに来た暗殺者だったのだろうか?
きっと違う。もしもそうなら他のタイミングはもっと合った。
今覚えば彼女のことを、僕は何も知らない。
彼女の名前も、どこから来たかも。なにも……
ただ知っているのは、優しくて、可愛くて、僕とずっといた事と……
その日、愛しの彼女が居なくなった日。
その日の夜。またあの夢を見た。
多分15歳くらいで、髪は長く、美しい女の子。僕らは海の中にいて、その女の子が助けてくれた。
そして僕の額に口づけるのだ。夢はそこまで。
僕は夢の中の彼女に恋した。
前回と一つだけ違うことがあった。
助けてくれた、女の子は……銀髪で、深い青い目をしていて、あの子と同じ顔をした可愛い女の子。
嵐の中、死にかけていた僕を海の岸まで連れて行ってくれて、僕の額にキスをして、修道女が来たと思うとすぐに消えてしまった女の子。
自分でも愚かと思う。僕は彼女のことしか考えられなくて、廃人状態になった。そして、王女はそんな僕を見限り、自国に帰った。
父と母も僕を見限り、弟王子に王位を預けた。
僕は唯一人、彼女と出会ったあの岸で、1人海の歩き出した。
深くなっても、足がつかなくなっても、息が苦しくなっても。
世間では人魚姫は王子を狂わせた悪女。
でも本人たちは王女の方があくじょのようにみえていたでしょう。




