第9話 デジタル遺影
Lの祖父が亡くなった。
葬儀社のすすめで、AI補正による「デジタル遺影サービス」を利用することになった。
複数の写真を読み込ませると、AIが最も自然な表情と顔の角度、背景や服装までも自動で合成してくれるという。
Lは祖父の古い写真数枚と、自分が撮った最近のスナップをアップロードした。
30分後、仕上がった遺影のサンプルがメールで届いた。
そこに映っていた祖父は、穏やかな微笑みを浮かべていた——
だが、Lは奇妙な違和感を覚えた。
祖父の笑い方は、こんなふうじゃなかった。
目元のシワの寄り方、口の角度、全体の雰囲気……これは「祖父に似ている別人」だ。
LはAIの再生成ボタンを押してみた。次の画像も、その次も、微妙に違うがやはり“似て非なる誰か”が表示される。
その夜、Lはふと夢を見た。
古い家の仏間。遺影の前に、誰かが座っている。
顔ははっきりしないが、その人がこちらを向いて、こう言った。
「ちがうよ。これ、わたしじゃない」
目が覚めたLは、あらためてAI遺影サービスのサイトにアクセスした。ログインしていないのに、マイページが自動で開いていた。
そこには、新たに生成された遺影が保存されていた。
タイトルは「**最終版(AI判断)」。
画像を開いた瞬間、Lは凍りついた。
写っていたのは祖父ではなかった。L自身の顔だった。
ただし、それは数十年分、老いた状態の——
**「AIが最適化した“将来のLの死に顔”**だった。
その下に、小さくこう記されていた。
> 「デジタル遺影、保存済み。公開予定:2071年」