第8話 スマホライトが照らすもの
Jは夜道を歩くとき、スマホのライトを懐中電灯代わりにしていた。
ある晩、帰宅途中の細い路地で、ふと違和感を覚えた。まっすぐ前方を照らしているはずなのに、足元に**“誰かの影”**がかぶさっていた。自分の影ではない。肩幅が広く、首の角度が奇妙に傾いている。
(前から来てる?……いや、誰もいない)
周囲には誰もおらず、ライトの先には何も映っていない。なのに、足元にはもうひとつの影が、ぴたりと張りついていた。
まるで——背後から照らされたかのように。
自宅に戻ったJは、スマホを確認してさらに震えた。ライトが点灯していたとき、カメラも勝手に作動していたらしく、“反対方向”の写真が連写されていたのだ。
そこには、Jの背後、つまり“誰かがJを撮っていた”かのような視点からの写真が並んでいた。
最後の1枚。Jの肩越しに、白い顔がこちらを覗き込んでいた。
次の日、Jはライトを使わずに帰宅した。だが深夜、机の上に置いたスマホがひとりでに光り始めた。
背後の壁に、今度は自分のものではない影が、はっきりと浮かび上がっていた。
影は、ゆっくりとJの影に重なっていった。