第7話 タッチ決済の異常履歴
Gは通勤用のICカードをスマホに登録しており、日々の交通費管理に便利に使っていた。
ある日、何気なく履歴を確認すると、知らない駅名が並んでいた。
「風切」「無月」「夜返」——いずれも聞いたことのない名前。しかも入場・出場ともに“完了”している。
Googleマップにも、鉄道マップにも載っていない。
不審に思ったGは決済履歴をPCから確認してみたが、スマホでは表示されていたそれらの駅名がすべて「非表示」になっていた。まるで、最初から存在しなかったかのように。
数日後、深夜の帰宅途中、いつもの駅で改札を通した瞬間、スマホの画面が真っ暗になった。再起動すると、なぜか通知が1件届いていた。
「無月駅へのアクセスが完了しました。おつかれさまでした」
改札の表示も一瞬だけ「夜返駅」となっていたと、後ろにいた乗客が教えてくれた。
Gがスマホを確認すると、「オフライン使用中」のタッチ決済機能がずっと作動しっぱなしになっていた。そして、利用履歴にはこう書かれていた。
> “次の行き先:きさらぎ”
> “片道のみ:返却不可”
次の日から、Gのスマホでは地図アプリも乗換案内も「最寄駅」を正しく認識しなくなった。
アプリは常に、見知らぬ“深夜しか使えない駅”を案内し続けている。