第6話 3Dプリンターの異常出力
Cは趣味で3Dプリンターを使っていた。データを取り込み、アクセサリーやフィギュアを出力するのが日課だった。ごく普通の機種、家庭用。使い慣れており、エラーも少ない。
ある晩、いつものように出力を終えてプリンターの電源を切ろうとしたそのとき、電源が勝手に入り直し、機械が動き始めた。
(……スイッチ、切ったよな?)
不審に思いながらも見守っていると、10分ほどで何かが完成した。
出力されたのは、“人間の手”。それもやけにリアルで、爪や指紋のような線まで再現されていた。そんなデータは使った記憶がない。
気味が悪くなり、パソコンで出力履歴を確認すると、見覚えのないファイル名が記録されていた。
「auto_scan_2022-11-03_03-12」
その日時、Cは寝ていた。家には自分しかいないはず。だがさらに不審だったのは、3Dスキャナーの履歴にも同じ日付のログが残っていた。
プリンターの隣にあるスキャナー。確かに連動してはいるが、自動で動くことなどない。
(……誰が、何をスキャンした?)
Cはぞっとして、スキャナーのカバーを開けた。中には、薄く乾いた髪の毛が1本、貼りついていた。
翌日、Cはプリンターを初期化し、Wi-Fi接続も切断した。だが夜中、プリンターは再び勝手に動き出した。
今度は、人の耳の模型が出力された。
そしてその次の晩には、口の中の形状だけを模した断面模型。
何も設定していないのに、まるで“人間”をバラバラに印刷しているようだった。
Cは戦慄した。スキャナーの中にはもう何も入っていない。しかし、PC画面には次のような通知が表示されていた。
「次回出力:1/1スケール(全身)」
その横には、Cの体格と一致する人体モデルのシルエットと、**“進捗:87%”**というバーが表示されていた。
最後に、出力された物体は、顔。自分とそっくりだった。ただし、その表情はCには似つかないものだった。
口角がわずかに上がり、冷たく笑っていた。
そして翌朝。Cが部屋に入ると、プリンターは静かに稼働していた。
中には、まだ固まりきっていない何かが、ゆっくりと形を作られつつあった。
Cの着ている寝間着と、**まったく同じ服の質感を持つ“布”**が、形を成し始めていた。