第5話 ARアプリの誤認識
Zは最近話題のARガイドアプリにハマっていた。スマホのカメラをかざすと、建物や地形の上に説明や歴史情報がリアルタイムで表示されるというもので、街歩きの新しい楽しみ方として人気を集めていた。
週末、Zは古い町並みが残る寂れた観光地を訪れた。昔の日本家屋が点在し、路地が入り組んでいる静かな一角だ。
ふと、ある細い路地にスマホをかざした瞬間、画面に異様なテキストが浮かんだ。
「処刑場跡地」「非登録墓域」「未供養層:86体」
ゾッとした。アプリの機能には、そんな表示はなかったはずだ。Zは画面をスクショし、記録として保存した。
帰宅後、念のためアプリ開発元に問い合わせると、こう返ってきた。
「その地域に関する情報は登録されておらず、ユーザーが見ることはできません。画像の表示内容も弊社仕様には存在しません」
Zは混乱した。だがその日以降、ARアプリはおかしな挙動を見せ始めた。
リビングの壁にかざすと、画面に文字が浮かぶ。
「真下に“記録”あり」
スマホを置くと、バイブが小刻みに震え始め、アプリの通知が届いた。
「地中データのスキャンが完了しました」
Zのスマホには地下構造のようなスキャン画像が表示されていた。そこには“輪郭のはっきりしたヒト型の影”が、折り重なるように何体も描かれていた。
恐怖を感じ、Zはアプリをアンインストールした。だが数日後、別のアプリ——カメラ、マップ、SNSなどが勝手に立ち上がり、画面上に再び同じ文字列が現れた。
「まだ見えてないものが、あと9つあります」