第4話 顔認証が認識しない誰か
Yは最新型のスマートフォンに買い替えた。顔認証の精度が高いという触れ込み通り、一度の登録で、ロック解除はスムーズにできていた。
だが、ある日ふといつも通りにスマホを覗き込んだYに、画面がこう告げた。
「本人ではありません」
何度角度を変えても、照明を変えても、解除されない。眼鏡や髪型を変えたわけでもない。鏡を見ると、顔に違和感はない。
仕方なくパスコードで解除したYは、顔認証の履歴を確認してみた。
そこには、昨日までに認証された顔写真の記録が保存されていたが、今日登録された新しい顔——
どこか“似ているが違う”顔が一件追加されていた。
目元がほんの少しつり上がっていて、鼻筋もYより少し細い。そして、何より違和感を覚えたのはその表情だった。
にやり、と笑っていた。
不安になったYはスマホのカメラで自分の顔を撮ってみた。すると、シャッター音もなく、勝手にカメラが閉じられ、代わりに“写真”フォルダが開いた。
そこには新しいフォルダができており、タイトルは「Y」。
中に入っていたのは、全く記憶にない自分の写真。夜の公園で、寝ているような顔、ベッドの中で、後ろから誰かに覗き込まれている姿——。
そして最後の1枚には、玄関のドア前に立つ「もうひとりのY」が写っていた。笑っていた。
その日以降、Yのスマホは毎晩午前2時に起動し、顔認証が自動的に作動するようになった。
誰の顔を認証しているのか、Yにはわからなかった。