表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

戸惑い






ロイ率いる組織に所属してから四年が過ぎ、ラヴィは17歳になりスーリと共にそれぞれの能力を充分に発揮できる仕事に就き日々を生活していた。


ラヴィは気配を消せる能力や身軽な動きに特化した偵察に始まり、隠密活動を主に担っていた。戦闘になる時には相手にもよるが、暗殺は基本しないのでとどめを刺すよりも、麻痺毒を塗布させた飛び道具で動かなくさせる方法が主になっている。相方がいる場合は後方支援にまわることが多い。


スーリは隠密に始まり暗殺や特攻など工作員としての全ての仕事を網羅できるくらいに非常に有能で、あまりに鮮やかな手腕なのに未だに殆どの人と話さないことから良くも悪くも一目置かれている状態だ。




そしてこの四年の間でラヴィは屋敷の殆どの人達から忌避され疎まれる人間となっていた。


スーリほどではないが、ラヴィも自分からあれこれ話しかけることも少なく、しっかり関わる人がいたわけでもない。ラヴィの無表情な態度から話しかけづらいとか敬遠するような要因があったのかもしれないが、パジェスに所属している者の多くは色々な過去を経て辿り着いた者も少なくない。皆が仲良く和気藹々ということはないのだが、ラヴィには皆が手厳しい。


その要因のもう一つはナリエなのだろう。

全てにおいてナリエが殆ど関わっていた、というよりも屋敷にきて数ヶ月頃からじわじわと包囲網のような感じで張り巡らせられていたのだろうことは後になって気づくことになった。


どうやらラヴィはナリエに対し嫉妬から毛嫌いしているということになっていた。



アルナドからは仕事の話以外に声をかけられることもなく、仕事の話でもどこか嫌悪や侮蔑の感情が透けて見え何故だろうと思っていたある日のこと。アルナドと一緒にロイの部屋に向かう途中、ふと立ち止まってこちらに振り向いた彼から「あなたはパジェスの一工作員で駒のようなもの。関係ない人物とはいえ、ナリエに対しての不快な行動の数々には思うことがあります。自重するように」と言われたのだ。


ラヴィには全く思い当たる節がなく聞いても「白々しいことを」とすたすたと先に歩いていってしまった。何一つ話すら聞けず理解すらできずに、その後も彼からは負の感情を常に向けられていた。



パジェスに来た当初に色々と初歩的なことを教えてくれたリリィにも「同い年で色々思うこともあるかもしれないが、妬み嫉みは良くない」とこれまた理解できない言葉をかけられた。それに対して首を傾げたラヴィに、彼女は失望するような視線を向け首を左右に振りながら溜息を吐き、そのこと以降は業務連絡以外で声をかけられることはなくなった。



厨房の料理人である元工作員のジャイルとは、メニューや季節の美味しいものの話題で話すことがあったが、とある日に「確かにナリエ嬢はお前と同い年で貴族のお嬢様で羨ましいところが幾つもあるだろうが、ラヴィはラヴィなんだから気にせずに堂々としていればいいじゃねえか」と優しい笑顔で諭すように話してくれたことがあった。


だがこれに対してもラヴィには全く理由がわからず尋ねてみると、「自分で認識できてないのはなぁ。いざという時に周りに誰も居なくなって困ったことになるぞ」と困った表情でやれやれという風に肩を諌めていた。その後もいつも通りに話す様子を貫いているような彼ではあったが、敬遠して遠巻きにしたい感情を察知したラヴィも食事をもらう以外で話しかけることをしなくなった。



特等工作員、重要任務を主に実行するレビンとキスラからは、初めこそ何度か声をかけてくれ、任務への活動のノウハウを教えてくれていたが、長期の任務で戻ってから一切関わりを断たれた。勿論理由はわからないし、何か苦言をいわれたこともない。でもアルナドと同じような侮蔑する気配を感じて、急な手のひら返しに戸惑った。



他の工作員からも負の感情の視線を感じたり、通りすがりに「恩知らずが」とか「孤児の分際で」など蔑まれられる言葉を浴びせられた。それに対して何度かどういう意味なのか聞いてみたことはあるが、返ってくるのはラヴィが性悪で小賢しいという結論で返され、もう何を聞くこともできずに諦めの境地になってしまった。



記録をしていたわけではないがナリエが来た後に必ずと言っていいほど、その後の周りからの中傷が増えていた。それらは彼女が声をかけてくることが増えてからなので、発信源であったのだろう。そしていつもラヴィを見る彼女の真っ青な瞳の奥が敵愾心と愉悦に混ざるどろどろしたものであることも理解していた。


時にはご機嫌伺いと表して声をかけられ、彼女がつらつらと話してくるのだが、ラヴィはナリエのような貴族の令嬢ではないので、社交界も分からなければ美味しいお店や菓子店、ドレスや装飾品のことなど話されてもわからない。


何も返すことがなく黙って聞いていると、がっかりしたような困ったような表情で「あなたにとってつまらない話だったのね。だから黙ってしまったのね。無理して聞かせてしまってごめんなさい…」と悲しそうに言うのだが、その声色に嘲るものを確認して、ああわざとこれをしているんだと認識した。


そしていつも最後には「ロイ兄様に相応しい淑女になるために日々努力しているの!いつお嫁さんになっても良いように」と言って去っていく。ラヴィに言い聞かせるように。


ラヴィからしたら、それこそ身分も姿もマナーも全てがナリエが恵まれているのは事実である。生まれ、育ち。それらの環境は大事なことで覆せるものではないのだから、彼女からしたらラヴィは相手にもならないのだろう。


何故そんなに固執され貶そうとするのかの理由がラヴィには思いつかないのだ。そしてナリエはこの屋敷で立ち回り時間をかけて孤立させていったのだ。これは思い違いではないはず。


一度だけ始めの方にアルナドからまた苦言を呈されたので、「何もしていないし、何も言っていない」と言ったことがある。それをナリエに伝えたのか、数日後たまたま食堂にラヴィ始めリリィやレビンら数人が食堂で食事をしていた時に、急にナリエが入ってきて開口一番皆に聞こえる大きな声で、



「お義兄様に文句を言わせてしまうくらい不愉快な思いをさせてしまっていたのね。良かれと思って言ったことでもあなたにとっては余計なお世話だったなんて…私は駄目ね。人を慮れないなんて淑女には程遠いわ。人としても…本当にごめんなさい」



目を潤ませながら言われ、周りから発せられる冷たい視線が痛いくらい感じた時、ラヴィは二度とナリエのことを誰にも言わないと誓った。それに自分でも知らぬうちに、妬む目で見て、卑屈な思いを無意識にしていたのかもしれないと考えると、そんな自分を気持ち悪く感じたからだ。


同時期にスーリから何度も謂れのないことを放っておいていいのかと聞かれたが、ラヴィはロイにも、他の誰にも何も言わなくて良いと言い続けた。どうしてもロイの手を煩わせたくなかったし、もしロイにすら信じて貰えないことを想像すると、とても憂鬱な沈む気持ちに陥ってしまいそうだった。


多少暮らしづらいと感じることはあるが、ラヴィにとってロイとスーリ以外に蔑まれても流せるし、元々スラム街時代も色々な人から忌避され疎まれていたのだから、今更である。たまに頭を撫でてくれるロイがいる。安全な住処があってスーリが一緒に居てくれる。それで十分ではないかと思うようにして、極力人と関わらない方がお互いのためだと、気配を消すことが得意だったラヴィは、より緻密に気配を操作できるようになっていった。




最近、アルディスとの争いが激化してきている。

アルディスの頭領はダリミルという年嵩の男性で、派手な装飾品をじゃらじゃらと飾っている、というのはスーリからの情報だ。先代の頭領はカリスマ性があったが、二世のダリミルには無く、本人はプライドが許さないらしくそれを認めていない。頭領自身は大した腕ではないそうなのだが、その男の側近である男がとんでもなく強いと情報が入っているがそれ以上の詳細は不明だ。


スーリは更に有能に磨きをかけていて、特等工作員と同等の仕事をするようになり、今はアルディス関連の任務が多く、会うことが少なくなっていた。だが僅かな時間があると必ず顔を出してくれることがスーリの無事を確認できるのでラヴィは嬉しかった。アルディス関連の任務は、特等工作員始め全体能力が高い者が担っている。ラヴィはまだ関わっていないので、まだまだ能力が足りないのだなと少し気持ちが落ちていた。


そういう時にそういう物事は続くらしい。

任務が完了して報告をしに最上階の一番奥のロイの執務室に向かい、階段を昇りきった先の廊下の奥、執務室の扉の前にロイとナリエが居た。満面の笑みでとても嬉しそうなナリエがロイの胸に飛び込んで抱きついたのだ。


その時の心臓の衝撃と重苦しくなる感覚は忘れることはできない。ラヴィは胸元を指先で押さえてみて首を傾げながら、何故かあの場に行きたくないと踵を返して階段を降りていった。ドクドクと鳴り止まぬ心臓の音と、そこから溢れ出るどろどろした気持ち悪いもの。そして頭の中を蜷局のようにぐちゃぐちゃで上手く考えが纏まらず、表情が乏しいラヴィの眉間が微かに寄った。



(…良いな)



胸元を押さえながら沸き起こった思いが羨ましいという感情。ロイに抱きついたナリエに対して面白くないと思う感情。挨拶したり抱擁するくらい仲良くて狡いという感情。ラヴィは初めて嫉妬と羨望の気持ちを味わった。頭の中も未だに纏まる様子もなく消化もできないのが不快で、何とか落ち着けたくて瞼を閉じてゆっくり深呼吸を繰り返す。



ラヴィとナリエは違う人間だから。

生まれも育ちも環境も全部が違うから。

仕方がないことだから。



そう言い聞かせていると、底から違うものが噴き出してくる。



ナリエは嫌…だ

人としても主の傍にいるのも



嫌だ




ぱっと目を開けて、ぐっと眉を顰める。溢れ出る感情に気分が悪くなってくる。ラヴィの目もどろりと濁っているのだろうか。



(ナリエみたい…?…気持ち悪い……あんな風になりたくない)



そう思っても先ほど理解した感情を消すことはできない。更に眉を顰めて再度目を瞑り胸元を今度は両手で押さえた。ドクドク鳴り止まない心臓を叱咤しながらいつのまにか立ち止まっていた足を進めて自室に戻っていった。




そんな状態からは抜け出せたが、もやりとする思いを抱えたまま数日続き、仕事が休みの日。ラヴィはローブのフードを深く被り滅多に行かない街に出た。パジェスに住んでから今まで自発的に外出したのは片手で足りるほどで、街に出ても特に欲しいものもなく買いたい物もない。


ジャイルに昼ご飯は要らないといって出てきたので、目に入ったパン屋でサンドイッチと飲み物を購入してから人の少ない近くの公園になんとなく向かう。その公園は全体が木々に囲まれていて広大な芝生の真ん中に噴水があり、木々の近くにはベンチが設置されていた。


ラヴィはそのベンチの一つに座って食べようかと歩いていたが、昼時だからかどこも人が座っていた。歩く先にあったベンチにも青年が本を膝においた状態で手と足を組んで昼寝しているように下を向いて腰掛けていたので、ベンチは諦めてそこから少し離れた日陰の芝生のところに座ってサンドイッチを開けて食べ始めたのだが、程なくして手が止まってしまった。



(最近何だか食事が進まないなぁ。ジャイルのご飯すら味がしなくなる時があるし…)



ここ数日、沈んでいた気持ちと更にごちゃまぜになった気持ち悪い感情を知ってから食欲があまりなく、目の前のサンドイッチすら美味しそうに見えず、ラヴィはついに袋へと戻した。


快晴の天気と少し涼しい空気の中、陽を浴びれば少しは元気が出るかとフードを取ってみようかと思ったが、今日は休みで眼帯を外していることに気づき仕方がないと小さく溜息を吐いた。その時、近くから少し高めのハスキーヴォイスの声でかけられた。



「座ったら?半分空いているし」



その声からは特に悪感情もなく、単に近くで座っていて気になったのだろうと判断したラヴィはフードから瞳が見えないように顔を上げて、すぐ近くのベンチに目を向けると、先ほど下を向いて眠っていただろう青年が、こちらを見ている。


ラフな白いシャツに濃紺のトラウザーズを履いていて、ラヴィより黒に近い紺色のさらりとした肩にかかる程度の長さの髪と翡翠色の瞳をした線の細い端正な顔の綺麗な青年だった。半分空いているベンチの場所を軽く叩きながら「服汚れるよ」と言う。ラヴィは少し間を置いてから立ち上がりローブの後ろをぽんぽんと叩いてから、そのベンチの端にちょこんと座った。


目深にフードを被っているため、隣に座っている青年の動向はわからないが、紙を捲る音が継続的に耳に入るので持っていた本でも読んでいるのだろう。ラヴィは再び袋を開けてサンドイッチに手をかけるが、どうしても食べる気がしない。また袋に戻していると横から声がかかる。



「お腹空いてないの?さっきから出し入ればかりしているね」



ラヴィは持っていた飲み物を一口飲んで答えた。



「最近食欲ないの。ご飯好きなのに」



少し間をおいてから青年が「体調が悪いの?」と聞いてくるので、ラヴィは首を傾げてから「体調…体は、大丈夫かな」と答えると「そう。なら悩みごとかな」と青年が返し、ぺらりと紙を捲る音が響いた。



(悩み……ああ、そうか。色々あって、考えて、嫌な気持ちになって…憂鬱な毎日で、それで食欲がなくなっていることなのかな)



彼の言葉をもう一度繰り返して、最近続いていた気持ちの落ち着かなさからの今の状態になった原因にふと辿り着いた気がしたのだ。



「そうなのかも。わからなかった」



そう言うと、くすっと笑ったような声がした後に聞き心地の良い掠れ気味の声が届く。



「自分のことなのに気づかなかったの?感情…喜怒哀楽が希薄なのかな」

「喜怒哀楽?」

「喜んだり怒ったり哀しんだり楽しかったりすること」



そう説明されて、ラヴィは首を傾げながら思い返す。



「喜ぶ…はある。怒る、と楽しいは、ない。哀しい、…多分ある」



ユーリが死んでしまった時は今思えば哀しかったのだろう。でもラヴィもスーリも感情が乏しいのでお互いにわからなかった。泣いた記憶もない。ロイと報告の際に話したり頭を撫でられた時の気持ちは嬉しいのだろう。



「そう。じゃあ何で食事が美味しく感じないのか僕に話してみる?」



ぺらりと本を捲る音が興味津々ではなく読書のついでに聞いている感じがして、話しやすい環境になっている流れに身を任せてみようと、ラヴィは身の上と仕事上で話せないことを頭の中に反芻させながら、口を開いた。



「話したり頭を撫でられると嬉しいと思う人がいる。その人が…誰かとぎゅっと…くっついているのを見て…その相手が私に良い感情を持っていない人で、胸がもやもやして、どろどろと湧く何かがとても気持ち悪くて嫌、だ」



上手く言葉を紡げないが、何とかここ数日のもわりとした気持ちをラヴィは吐露してみた。静かに聞いていた青年が尋ねてきた。



「くっついていた人が嫌い?憎い?」



その言葉を自分なりに何とか飲み込んでみる。



「…羨ましいって思う。私とは真反対の人で皆に好かれていて」



生まれも育ちも環境全てが違う。屋敷内での孤立感を払拭しようとしても、スーリ以外は誰もラヴィよりナリエを選ぶのだろう。



「その相手に居なくなってほしいとか消えてほしいとかは?」



…居なくなったら。ロイと一緒に話せたりする時間が増えるかもしれない。

…消えたら。屋敷の皆がラヴィを蔑むこともないのかもしれない。



心の奥底に凝っていたものがまた溢れ出る感覚。

どろりとした醜悪な感情。

その時にふと脳裏に浮かんだ。

ナリエやスラム街で毛嫌いされていた女の濁ったような同じ瞳。

綺麗な出で立ちなのに歪に見える気味悪さ。

ラヴィは持っていた袋を握り締めて溢れ出そうになるものを抑え込む。



「気持ち悪く歪みたくない。同じになりたくない。あの気味悪い表情に私もなるくらいなら諦めた方が全然まし」



人へ負の感情ばかりぶつけることも、無闇に陥れることもしたくない。同じ場所に立つことになるからだ。だから。



「近くにいれるだけで良い」



たまに話せるだけ良い。



「同じ環境に居られるだけで良い」



たまに頭を撫でて貰えたら嬉しい。


元よりスラム街で朽ち果てるかもしれなかったラヴィだ。ロイに会えたのは運が良かったのだと、それ以上望む卑しい気持ちは必要ない。いつの間にか本を捲る音もしなくなっていた隣からパタンと本を閉じた音がした。



「謙虚なんだかいじらしいんだか。一番傍に居なくてもいいんだ」



その言葉に頷く。「ふうん」と青年から一言だけ返ってくる。


今まで誰にも話すこともなかった。スーリには話したらきっと、全力で自分を顧みずに助けてくれるだろうことがわかるから申し訳なくて言えなかった。才能を開花させている彼の先行きを閉ざさせるのはラヴィ自身我慢ならない。


でも今隣にいる全く知らない相手。ラヴィに関係のない人に今の自分の気持ちを吐き出せたことで、ずっともやもやして霧がかっていた気持ちが薄れていくような気持ちに変化した。



(一緒の場所に居られるだけで十分。これ以上欲深くならずにいこう)



一つ頷く。たまたま訪れた公園で、たまたま声をかけてくれた青年のおかげで、ラヴィはようやく最近の蟠る気持ちを受け入れられるような気がした。



「知らないうちに色々溜まってごちゃごちゃになっていた。誰かに話すことで考えながら言葉にして、何となく自分の気持ちがまとまった感じ」



フードで見えないが、青年がこちらに振り向いた気がした。



「どうにもならない時に言葉にして吐き出すことって大事なんだって初めてわかった。…あの、声をかけてくれて、ありがとう」



ありがとう、という言葉は誰からも言われたことがないけど、言われて嫌いな人はいないだろうと思っていたので伝えたみた。悩んでいただろうことがすっきりすると、急に空腹感が戻ってきて握り締めていた袋を開けた。その中の口をつけていないサンドイッチを取り出して青年に差し出した。



「…え」

「そこの近くのパン屋で買ったやつ。少し潰れているけど。話聞いてくれたお礼」



更に前に差し出すと数秒経ってから、「…いただくよ」と言う声とサンドイッチを受け取ったのを確認して、ラヴィも残りのサンドイッチに齧り付いた。チキンの香ばしさと削りチーズ、葉野菜のパリッという食感、濃厚なソースにぴりっとマスタードが効き、味覚が戻って久しぶりに美味しいと感じながらもぐもぐ口を動かした。


隣でも葉野菜の小気味良い音が聞こえる。あっという間に食べ終えて飲み物で喉を潤し、ごちそうさまでしたと屋敷で覚えた挨拶をしてから袋を小さく畳んだ。ラヴィは飲み物と共にローブの内側のポケットに入れて立ち上がる。



「戻る。色々ありがとう」



そう言って踵を返した時に青年から声がかかる。



「己を厭わないまま貫けるといいね」



その言葉を背に聞きながらラヴィは行きとは違う軽い足取りで帰路に着いた。






次の投稿は30日同時刻です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ