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34、公爵様のお迎え



 また来てしまった。



 休日の早朝、私はいつものように裏の教会へ来ていた。


 自然と足が向いてしまうのだ。

 ポピーとテオにまた呆れられちゃいそうね。


 想像したら少しおかしくなって、ふふっと笑みが溢れる。



 長椅子に座って神様と天使様の絵を眺めてから、そっと目を閉じた。





 そういえば、1度目の前世にここで出会ったピットパンの男の子はどうしているだろう。


 今日はなぜだか久しぶりに前世のことを思い出す。

 最近は考えることも少なくなっていたんだけどな。


 前世のことを思い出すと、必然的に恋の痛みを感じることになるから。



 やはり決まってミハイル様のことを思い出してしまうのだ。



 元気にしているかな……?

 きっとこれから爵位を継ぐために忙しいよね。


 いつもここでミハイル様の幸せを願わずにいられない私は、今日も彼の幸せを祈る。


 本気で恋ができた人だから。





 そういえば、ミハイル様と出会った当初は前世っていう言葉を使ったらえらく怒られたときがあったわね。


 ふふっ。


 懐かしいことを思い出して、私は思わず笑ってしまう。



 でも、あの時『前世』という言葉にミハイル様はなぜあんなに過剰反応したのだろう。


 そして、ある日突然私に優しくなった理由とは――――。



 特にこの教会へ来てから、ぼんやりと浮かんできた考えがあるにはあった。



 ううん、まさかね。


 いつもそんな考えが浮かんでは消えていく。


 そんな期待しちゃいけない。

 ただの気のせいよ。


 自分に都合の良いような解釈に自分で苦笑いしてしまう。




 でも――――




 そう思った瞬間、キイっと扉が開く音がした。



 あ、ポピーが呼びに来たのかな。


 そう思い振り返ると、そこにいたのは随分と懐かしい顔だった。




 蜂蜜色に輝く金髪と瞳を持った美しい青年。


 ミハイル様……?!?!




 私は思わず立ち上がり言った。

「なんで此処に――――っ?!」


「橙色の髪をしたメイドが教えてくれた」


 ミハイル様は落ち着いた様子でこちらへやってきて私の目の前で立ち止まった。


「い、いや、そうじゃなくて!」


「俺はここで愛する人に初めて出会ったんだ」


「?!?!」


「まさか4度目の人生で此処に君を迎えに来るとは思っていなかった」


 …………っ!!!!



 その瞬間、私の頭には過去の記憶が駆け巡った。


 1度目の人生、この教会に訪れたボロボロの服を着た男の子。


 2度目の人生で若い女公爵として蔑まれることも多かった私に優しくしてくれた、ベレーラ商団に入りたての青年。


 3度目の人生では、傷つき疲れた身体でありながら必死で私を魔物から守ってくれた騎士様。




 ああ、ミハイル様はやっぱりあの男の子だったんだ。


 1度目の時代にここでパンを渡した記憶と、ミハイル様の執務室にピットパンを持って行った記憶が重なって胸が熱くなる。




「でも、どうして……?」


 どこから質問していいのか分からなくて、まるで独り言のように呟いてしまう。



「アリシアは、前世の記憶があるのだろう? 僕も記憶があるんだ」


「そう、だったんですね……」


「この教会でピットパンを分けて貰った時も、ベレーラ商団の新人だった時も、騎士の時も、いつも君は僕を助けてくれた」



 同じ過去を思い出していた私は、思わず胸がいっぱいになった。


「僕は、アリシアに会うことだけを願い続けていたんだ。叶うなら貴女を一生大事にしていきたいと」



 その言葉を聞いた瞬間、私は思わず下を向いてしまう。


 ミハイル様と目を合わせるのが、怖い。



「君はいつも俺を助けてくれた。だからこれからは何があってもアリシアのことを守る」


 ミハイル様は私の肩を両手でそっと包むように触れる。


 「1度目の人生が終わってからずっと、同じ時代に生まれたいと願い続けた」



 胸の鼓動がどんどん早くなっていく。



「今回はどんな事からも君を守る力が欲しくて、権力とお金と高い地位を持って生まれたいとリクエストした」



 ……え?

 ミハイル様はそんなリクエストを?



「……ふふっ」


 あの場所でガイド様にそうお願いしているミハイル様を想像したらあまりにも可愛くて、私は不覚にも笑ってしまった。


 その拍子にミハイル様と私はしっかりと見つめ合う。


 一瞬、身体を硬くして警戒するが何も起こらない。



 良かった……!




「でも、私は全然気づいていませんでした。ミハイル様はよく分かりましたね」


「だって、諦めたらそこで終わりだろう?」


 私の前世からの口癖を、いたずらっ子のような顔で言うミハイル様は可愛くてずるい。


「もうっ」


 私の膨れた頬を、ミハイル様の片手が優しく撫でる。


「君が諦めそうなときは僕が決して諦めない。だから君も、僕が諦めてしまいそうなときは諦めないでいてほしい」


 ミハイル様は、そう言って私をそっと抱きしめた。



 彼の温かい身体に包まれて、言葉にならないほどの幸せを感じる。




 『やっと見つけた』


 魂がそう言っているように感じたその瞬間。


 突然、私たちは眩い光に包まれた。

 辺り一面が強く発光して、光以外なにも見えない。




 何?!

 もしかして…………やっぱりまた、ここで人生終わっちゃうの?!?!?!

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⑅∙˚┈┈┈┈┈┈✎✐┈┈┈┈┈┈˚∙⑅

▽こちらの完結済み長編もよろしければぜひ…!▽

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

落ちこぼれ仮聖女ですが王国随一の魔道士に溺愛されました

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