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16、憧れのパッシュ・エンスリー



 ポサメさんの言っていた通り、起床後すぐに迎えの知らせがきて、私は今馬車に揺られて移動している。


 どこに行くんだろう、この馬車。

 言われるがままに乗ってはみたものの、なんだか不安だ。


 窓から外を覗き見ると、こんな早朝から人の往来が多く賑やかな街に来ていた。


 わあ、ここの領地はどこも綺麗で活気が溢れているんだなあ。

 日々黙々と執務に励んでいるミハイル様の姿を思い出す。


 いつもミハイル様が頑張っている努力の賜物ね。


 私は思わず微笑んだ。



 そんなことを考えていると、ほどなくして馬車が止まる。


 御者さんが恭しく私をエスコートしてくれて、降り立ったのは立派な建物の前だった。


「あちらの扉からお入りになってください」


 御者は正面の扉を指し、お辞儀をした。


 これはもう行くしかない感じだよね……。

 どんな場所かも分からないのに行くのは不安だけど、ポサメさんからの指示なんだから変な場所ではないはず。


 意を決して扉まで歩き、思い切ってそれを開いた。


 すると目に入ってきたのは、綺麗に並べられた色とりどりの美しいドレスだった。



 わあ、眩しい!

 ゴージャスな内装と華麗なドレスに驚いて立ち止まっていると、カツンカツンという足音が鳴り響き、私の目の前で止まった。



 見ると、そこにはシンプルなドレスを着た聡明な感じのするシャンとした女性が立っていた。



「ようこそ、パッシュ・エンスリーへ」


 ん?!パッシュ・エンスリー?!



 その名前にはよく聞き覚えがあった。


 デュバン伯爵令嬢がよく話していた、超高級にして貴族令嬢たちに人気絶大なドレスショップだ!



 このお店ってここの領地にあったのね!知らなかった……。

 どうせ子爵家にいたって関わり合いになるようなお店でもなかったものだから。



「アリシア・ルリジオン様ですね。どうぞこちらへ」


「あ、はい。……あの、ここで何をすればいいんですか?」


「夜会のお支度ですよ」


 ……!!

 あ?!私の準備ってこと?!



 すると女性はにっこり笑って言った。


「このマダムペイリーが、素敵な淑女に仕立てて差し上げますわ」



 お上品な様子で高らかに笑ったマダムはそのまま私をグイグイと引っ張って奥の部屋へ連れ込んだのだった。




◇◇◇




 ううう、疲れた…………。


 お風呂に入って、頭のてっぺんから爪先まで丁寧に磨かれ、ウエストをぎゅうっと絞りドレスを着せられた。


 久しぶりの貴族令嬢らしい身支度に私はすっかり疲れ切ってしまう。



 そういえば貴族令嬢ってこれが当たり前だったよね。

 といっても、子爵家にいたときだって、こんなに丁寧にお手入れをするのもドレスを着る機会もそんなに多くはなかったけれど。



「それではこちらを」


 そう言って念入りにメイクを施した私の顔を満足げに見ながらマダムペイリーは仕上げのアクセサリーをつけてくれた。


 まるで蜂蜜のようにツヤツヤと輝く金色の宝石がはめ込まれた繊細で美しいネックレスとイヤリング。


 こんなに高そうなアクセサリーを身に着けるなんて初めてだから緊張する……!


 ちょうどその時、コンコンと扉が叩かれ、どうやら人が入ってきたようだった。


「まあ、ちょうど準備が整ったところですわ」


 マダムペイリーの弾んだ声にふと振り返ってみると、そこにいたのはなんとミハイル様だった。



 うわあ……!!


 正装をしたミハイル様を真正面から見て、思わず声を上げそうになる。


 見上げるほどの長身に纏った美しい正装が、彼の気品ある色香をさらに際立たせている。

 格好良いなんて表現を通り過ぎて、美しい。


 蜂蜜色の綺麗な髪を揺らしてこちらに歩いてくる様子は、まるでお伽話に出てくる王子様みたいだ。



 思わずぼーっと見惚れていると、ミハイル様は私のすぐ目の前で立ち止まりこちらをまじまじと眺めた。


「アリシア……」


 彼はぼそっと呟いて、金色の瞳で私をじっと見ている。


 ど、どうしよう。

 こんなに美しいミハイル様を目の前にすると、私の貧相さが浮き彫りになってしまうような気がして落ち着かない。


 やっぱり私には分不相応すぎる格好よね……。



 冷や汗をかきながら戸惑っていると、マダムペイリーが弾んだ声を出した。


「いかがですか、公子様。とても美しいでしょ?」


「ああ、とても美しいよ」

 ミハイル様はそう答えながら、甘すぎる瞳で私を見つめてふと微笑んだ。


 その笑顔を見て、私の胸はなぜか鼓動が早くなる。



 あのミハイル様がこんな表情をするなんて。

 やっぱり、最近のミハイル様は何か変だ。


 私は胸の高鳴りをごまかすようにそう言い聞かせた。

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公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

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