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ドネーション・スカイ

作者: 白津詠人

2024年、新年あけましておめでとうございます。

年賀状代わりに一つの童話を描きました。

スグに読み終わるので、ちょっとお時間を拝借させてください。

今年もよろしくお願いいたします。


※この作品はpixivでも投稿されています。

 私たちが住んでいる世界から、遥か遠い別の世界に、一日中太陽が昇らない暗黒の空の世界がありました。

空はいつも真っ暗闇で、月どころか星一つ輝いていないので、たいまつが欠かせません。

 一年中寒く、作物を育てるのも困難なつらい生活を強いられていました。


 このお話の舞台となる、とある小さな村も、生きていくのがやっとの毎日を送っていました。

 寒くて寒くて、ガタガタ震える毎日。

常闇でも育つ小麦を栽培して飢えをしのぐのですが、お世辞にも美味しいとは言えない代物でした。


 ある日村長のもとに、一人の役人がある連絡をしました。

「村長、もうすぐ<カスベ>というドラゴンに乗った童子がこの村にやって来るそうです」

 童子とは、ここでは神様や仏様の使いの者という意味です。

 村長はそれを聞いて、驚いたようでした。

「そのドラゴンは、平べったい、菱形の光るドラゴンか?」

「さようでございます」

「おお!それはまさしく村の言い伝えに残る平和の使者に違いない。こうしちゃいられない、丁重にお迎えするのだ」


菱形の竜<カスベ>は本当に、ほのかに光って夜の世界でもその姿を確認出来ました。

三匹いるようでした。

村の外の野原に下り、カスベから降りた三人の童子が村の門にやってきました。

暗いので、一人ずつ村の明かりで姿が見えてきます。


一人目は、十五歳くらいの小柄な少女のようでした。水色のベレー帽に、短いこげ茶色のマントを羽織っています。

「こんばんは、私は瑛紗てれさと申します」

二人目は、背の高いブロンド髪の二十代中盤くらいの青年でした。柔らかな布を巻きつけて、最後にマントで覆っています。

「俺の名は寡院かいん、瑛紗のお目付け役をしています」

三人目は、寡院ほどではありませんが、すらっと背の高い赤毛の少女でした。瑛紗より二、三歳お姉さんのようです。

「わたくしは藍林あいりん、瑛紗のお世話係ですわ」


「これはこれは童子殿、ようこそわが村へ!」

 村長が両手を広げて歓迎の意を表しました。

「お出迎えありがとうございます、村長様」童子瑛紗が言いました。「私たちは、この村を幸福にするために参りました」

「何という事だ!…して、童子様はいかようにこの村を幸福にしてくださるのかな?」

村長は瑛紗と大きく握手し、感激しながら言いました。

しかし、この後瑛紗がその方法を伝えると、村長は一気に青ざめてしまいました。


「簡単です。この村に伝わる最高の宝物、極妙な宝石を散りばめた首飾りを、我々に施してほしいのです」

 十秒ほど後、村長は青ざめを通り過ぎて大笑いしてしまいました。

「何が童子様だ!ただの物乞いではないか。アレは大地の精霊様が与えてくださった唯一無二の秘宝。これを譲ってくれと頼む不躾な輩が過去に何度も現れた。それらと同じではないか。ささ、お帰り下され」

 村長は力のある男たちを使って、童子達を村から追い出してしまいました。


 三人の童子は翌日も村長に秘宝を施すよう頼みましたが、丁重に帰されてしまいました。

 さらにその翌日もやってきましたが、村長は前日より言葉を強めて追い出しました。


 その翌日。


「大変だよ村長!」

 村長のもとに駆け付けたのは、物見やぐらのような高い塔の最上階で見張りをするよう言いつけられている、村の少年でした。

「何が起こった?また童子か?」

 村長がびっくりして尋ねました。

「違うよう。この土地を守護する地祇ちぎ様がお怒りになってこちらに近づいてくるよ!」


地祇様とはその大地を担当する神様みたいなものです。

サイや象のような固い大きな体を持っていますが、知性はとても高いです。

そして、夜しかない世界で村の住人達が暮らせているのはその地祇様のお蔭です。

毎年、村のみんなが作った小麦を大量にお供えするのです。

このような供養に値する神が穏やかに過ごしていなければ、村は全滅してしまうでしょう。


 だんだん地震が強くなってきました。童子たちも駆けつけてきました。

 村長は童子に言いました。「ほれ見ろ!あなたたちがとんでもない事を要求するから、地祇様がお怒りになられたじゃないか!」

 瑛紗は村長の手を取ってこういいました。

「大地の神様は、あなた達が在庫に余裕があるのに、捧げものの小麦を少なめにしたのでお怒りになっているようです。ですがこの揺れはいささか怒り過ぎです。私たちが鎮めてあげましょう」


 瑛紗はその小柄な身の丈に合った剣を、寡院は硬い鞭と円い楯を、藍林はオーロラ色に光る水晶玉を持ち、地祇様に向い、武器をかまえました。

 村長は、悲鳴を上げました。


「いかんいかん!退治してしまってはこの村は滅びてしまいます!」


 しかし、童子たちは腕力や魔法の弾で鎮めたりはしませんでした。


童子たちは、怒り狂っている地祇のほうを向いて、少し地上から足を離して軽やかに踊り始めました。

武器は空間を切り、美しい音楽を奏でます。

瑛紗はパワフルで艶やかに歌い、寡院はノーブルなバリトンを出し、藍林は透き通った高音で歌いだしました。

童子が三人で移動しているのは、歌のハーモニーを作るためです。

地祇に向って光の魔法をぶつけるようなことは、一切ありませんでした。


地祇はどんどんこちらへ向かってきます。

もう童子たちがぶつかりそうです。

村長が、大地が揺れるのをこらえて門の柱につかまりながら、

(このままでは童子たちは衝突してしまう、一巻の終わりだ)と思ったその時!


 あと数十センチのところで地祇はもとの優しい守り神のたたずまいに戻り、村から数キロ離れた小高い丘の神殿へ帰っていきました。

童子たちはまだなお舞踏と演奏を続けていました。地祇が完全に鎮まるまでそれを続けていました。

「助かった…のか?」




「童子様方、本当にありがとうございました。…ただ一つだけ質問するが、あなた達はもしや地祇様とグルだったのではないですか?」

 村長は、童子が地祇と手を組んで宝石を手に入れようとしたのではないかと疑っているのです。

 しかし、瑛紗は答えました。

「いいえ、童子にはそんな力は持っておりません」

「そうか、そうか」村長は奥さんを呼んで厳重な小箱を持ってこさせました。

 村長は言いました。

「どちらにしても厄介な使いが来たことは確かだ。我々は細々と暮らせていくことが出来ればそれでいいんだ。宝石の首飾りは渡しますのでどうかもうこの村に来ないでくれ」


 瑛紗は宝石の首飾りを箱から取り出しました。

 童子三人で首飾りを取り囲み、何やら呪文のようなものを唱え始めました。

 すると、宝石たちがまばゆく光り、はるか上空へ急速なスピードで移動し、最後には星一つなかった夜空に浮かぶ、一つの機織り娘の星座になったのです。


 星は美しく光り、闇の中だった村とその近辺がほんの少しだけ明るくなりました。

 村長は、あまりにもびっくりしてしまったがため、何も反応が出来なくなってしまいました。

 童子たちは感謝の言葉を丁寧に送ったあと、カスベに戻り次の目的地へ向って行きました。


 数日後、村に数人の男たちがやってきました。

「私たちはそちらの村から二十分歩いたところにある村の者です。数日前、空に星が浮かんだため、ここに村があることを初めて知りました」

 男たちは羊皮紙で出来た本や、小麦が入っているとおぼしき布袋を分担して持っていました。


「私らは村の偉い者を集めて話し合いました」男は話を続けます。

「我々の村では、寒い夜空でも美味しく育つ小麦を作ることが出来ます。その作り方を教えるので、どうか皆さんの身につけている、毛で出来た暖かそうなコートの作り方を教えてほしいのです」

 えび茶色の、立派な保温性の高いコートを着た村長は、やっと童子たちの恩寵を知ることが出来ました。

そして、今なおカスベに乗って旅をしている童子たちに深い感謝の念を抱いたのです。




 瑛紗、寡院、藍林の三人童子はその後もあらゆる地方で宝石を施してもらい、自分の物には一切せず、夜空の星座に変えていきました。

 すると、空はどんどん明るくなり、地上の景色もはっきり見え、近隣同士の村で助け合いがなされ、経済がどんどん発展していきました。


 童子たちのお手伝いをしたいという若者が多く出ました。

 地上が光に照らされていくことで、良からぬことを考えている悪魔や人間が、どこに潜んでいるかもわかるようになりました。

 童子のふりをして私腹を肥やそうとする不埒な輩も現れましたが、童子の力によって屈服し、心を入れ替えて星空を作る手助けをしました。


 そしてとうとう月が昇り、最後にはずっと闇夜だった空に太陽が巡るようになりました。

世界に昼が出来たのです。

まばゆい太陽が熱を生むので、もう四六時中ガタガタ震える心配はありません。

 こうして、暗闇で寒かった世界は幸福になったのです。


<終わり>


この作品は小学校のころに妄想していた物語を源泉としています。

天使と人間と悪魔の少女が、宝石をどんどん星に変えていくお話でした。

今回、こうして日の目を浴びることが出来て大変至福をかみしめております。

読んでくださってありがとうございました。

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