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プロローグ
森の奥の雪も解け、長い眠りから目を覚ました獣は、腹を空かせて辺りを彷徨う。
静かな冬が終わり、芽吹きと争いの季節が始まる。
「妹を助けてください」
フォルタは道行く狩人を見つけては助けを乞うが、その度に跳ね除けられていた。そのせいで、彼女の使い古された服は、さらに砂埃に塗れていく。
誰にも相手にされないフォルタだったが、たまに体目当てで近づいてくる輩もいた。しかし、彼女の肌の至る所にある赤紫の痣を見ると慌てた様子で突き飛ばし、暴言を吐き捨てて足早に去っていく。
王国の端の端にある小さなこの町には、狩人や物好きな旅商人ぐらいしかいなかった。金にならない仕事をする者はいない。
突き飛ばされたフォルタはゆっくりと立ち上がり、砂埃を祓おうともせずに、また歩き始める。
そんな時、1人の男が後ろから彼女の左腕を掴んだ。
フォルタが振り返ると、そこには長い髪が乱れ、虚な目をした若い男が立っていた。
男は女の腕を離し、手を膝につきながら口を開く。
「頼む、食べ物をくれ」
彼の名はアヴェルティルダージャ。アベルと呼ばれる狩人である。