気まぐれで拾ったボロボロの少年の適性職が【大魔女】だった。……女だったの!?
短編です
篠突く雨の中、ナノバードの涙ほどの低給料とピッケルを握り締めながら帰路を辿っていた。
そんな中、俺はそいつに出会った。
「…………。お前、何してんだ」
「…………」
黒い髪から滴り落ちる雨粒には目に止めず、木陰で座り込むそいつに俺は話しかけた。
無言のそいつは、白色だが俺と同じようなボサボサな髪と、磨き損ねた宝石のように燻んだ青い瞳を持っている男の子だった。
俺が問いかけても返事はせず、やつれた顔をゆっくりとこちらに向け、瞳で何かを訴えかけているように見える。
「……風邪引くぞ」
「…………」
自分自身をごまかそうとしていた。
本当はコイツがどんな境遇でこんな場所にいるのかなんて、少し考えたら推測できる。
面倒ごとは嫌いなんだ。だから背けたかった。
けれど……なぜか俺は
「……俺は【発掘家】っつーハズレ職業を引いたエクスだ。変なことかもしれねぇけど……。お前がよければだ、俺んとこ逃げるか?」
「…………。……ぅ、ん……」
恵まれない境遇を送る俺の給料なんてたかが知れてる。俺一人で暮らすのもやっとなのに、こんな子供を養うだなんて……気が狂ったとしか思えない行動だ。
俺が手を差し伸べると、そいつは手を握った。
ほんの少しだけ、暖かかった。
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ギィッと軋むドアを開け、カビ臭い俺の家にようやく帰宅した。
「おら」
「ゎぷ」
椅子にかけられていたシワシワなタオルをそいつに投げつける。わしゃわしゃとタオルで髪を乱雑に拭く。
「…………」
「名前は」
「……しーか」
「両親は」
「……しんだ」
「タオル臭いか」
「……ふつう?」
「いや臭ぇだろ」
ここまで質疑応答ができりゃ問題ないか。
ちゃんと質問に答えられるのを確認した後、俺はこんなことを聞いてみた。
「なんで俺についてきた? 誘ったのは俺だが……怪しさしかなかっただろ」
自分で言うのもなんだが、俺は目つきが悪いし、顔中煤だらけだし。怪しい人だ。
だのに、なぜこいつはそんなの手を取ったのか。その理由が聞きたかった。
「…………。おなじいろだった」
「色?」
「うん……。ままと」
「うん……? よくわかんねぇけど、世の中悪い奴が山ほど居るから気をつけろよ」
「……ん」
綿が飛び出たソファに放られていた適当な服を渡し、びしょ濡れの服を着替えてもらうことにした。
「デケェだろうが、着替えないよりはマシだろ。ほら」
「…………ぁ、ぁの……」
「あ?」
急にもじもじし出して、白い前髪の隙間から俺を見つめていた。
こいつ……恥ずかしがってんのか? 男同士なのに。ませたガキだな。……俺も言うて、まだ成人してないからガキだがな。
「はぁ……あっちの部屋は使ってねぇ。恥ずかしけりゃそっち使え」
「…………ん」
別室に移動、そいつが着替えるのを待った。着替え終えた報告を聞き、下の部屋に戻るとそこには、ぶっかぶかの服を着たそいつの姿があった。
「まだまだチビで子供だから仕方ねぇか。はっ!」
「……むぅ……。そっちこそ、そうじへたへたにんげん」
「あ? 言うじゃねぇか……!」
このままこいつが喋らず、気まずい空間が続いたらどうしようかと思ったが、そこも問題なさそうだ。いや……逆に、クソガキにジョブチェンジしそうな予感がして怖いがな。
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――シーカとともに過ごすことが数ヶ月。
俺の予感は的中してしまった。
「起っ、きっ、ろっ、エクスゥ!!!」
「ごはっ!! シーカてめぇ! 内臓飛び出るっつーの!!」
「にひひ! せっかく僕が朝飯作ったのに起きないエクスが悪ぃ!」
「起こし方っつーもんがあんだろうがァ!!」
俺の腹の上にドシっと勢いをつけて乗っかる者。真っ白な八重歯を見せつけ、男にしてはサラサラすぎないかと思うほどの銀髪、
そして俺を見下す青い瞳。
こいつがシーカだ。あの時のか弱そうで、今にも死んでしまいそうなシーカはもう消え失せた。クソガキシーカだ。
「ったく……。仕事で忙しいっつーのに」
「今日も仕事ぉ〜? だる〜」
低い給料をもらい、ギリギリの暮らしを二人でなんとか続けていた。
「あと二年もすりゃあ俺も正式に成人。成人すりゃちゃんとした契約内容の仕事やら、宝石の買取もしてくれる。それまではクソみてぇなの続けるしかねぇ」
「二年……。そういえば僕も、二年後には職業授与式がある」
「あー、そうだな」
職業授与式。
これは、神から与えられる、この世界では必要不可欠なものだ。職業によって得られるスキル、得られやすいスキルなどがあり、仕事や日常生活ではそのスキルが必須になってくる。
俺は【発掘家】。文字通り、ピッケルを持って地面を掘り進める地味な職。ハズレ職業と言われて親から追放されたのはいい思い出だ。
宝石を見つけたとて、まだ成人してない無名の発掘家だ。受け取ってもらえない。
「お前は俺みたいになるなよ」
「ん〜。【発掘王】とかいいかも」
「よくねぇだろ。もっとましな職を与えられろ」
「だって……ずっと一緒にいたいもん……」
「あ? んだって?」
「なんでもない! さっさと飯食えエクス!」
「もがぁーーッ!!」
少しほおを赤らめてボソボソと呟いたと思ったら、食いに朝飯を突っ込まれた。覚えてろシーカ……あとでこき使ってらやらぁ。
……と、いうか、さっきの赤らめた表情といい、本当に綺麗に育ってんな。目もでかいし顔整ってるし、まつ毛長ぇし、声高ぇし……。女みてぇな男だなぁ。
あと最近、上半身が太くなってきている気がするが……。これはアレだな。筋肉がついてきた証拠だな!
俺みたいな職業には、本当になってほしくないな……。
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――そして月日は流れ、二年後の職業授与式会場。
「シーカ、準備はいいか?」
「もちろん。って言っても、職業決めるだけだけどね」
二年の月日が経ったのだが、俺は身長が伸びたがシーカはそんなに伸びなかった。随分と華奢な体つきだ。髪は今王都で流行りのウルフカット? とやらにしているらしい。
重労働させららるような職業が授与させられなければいいんだがな……。
そんなことを思いなシーカと駄弁っていると、とうとう名前が呼ばれた。
「では次に、シーカ!」
「はぁい」
神聖な儀式ゆえに、職業授与式は教会内で行われる。職業授与者の保護者などが椅子に座っているが、面倒なやつもいるみたいだなぁ。
シーカを見送り、俺は椅子にどっしりと構える。
「ではそこに」
神父がシーカの前に手をかざすと、そこからパァーッと光が漏れ出し、何かがシーカに吸い込まれていった。
「ふむふむ……んんッッ!? こ、これはッ!?!?」
「……?」
神父が瞠目し、言葉を失っている様子に見えた。
「し、シーカ……お、お主に与えられた職業……それは――【大魔女】じゃッッ!!!!」
「…………。ふーん」
「…………は?」
淡白な反応をするシーカに対し、俺は一瞬思考が停止していた。
さっき神父が言ってたのは【魔女】の上の職業だ……。魔法を使うことに長けている職業……。与えられたら一生優遇されるものだ……。
けど待て。その職業は女しかもらえないはずだぞ!?
「エクスー。僕の職業、【大魔女】だって」
「え、あ、あぁ……。え……お、お前……」
「ふふっ。本当に鈍感だよね、エクス。いつバレるか楽しみにしてたけど今日だったみたいだ。そうだよ、僕は……」
ニッと八重歯を見せ付けて笑いながら、シーカはこう言う。
「女の子だから」
久しぶりに、俺の思考は宇宙へと旅立った瞬間だった。
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ここまで読んでいただきありがとうございました!