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五章

 長い事情聴取が終わった、勇のところに残った持田を病院内にあるレストランに入らないかと誘う。メニューを見て勇、迷うことなくパスタを頼んだ。いつものカフェに入った時も、勇はパスタを頼んでいた。上手に左手でフォークを回し、丁寧に口に運ぶ勇。そんな持田もつられて別の種類のパスタを頼んでいた。お互い左手でフォークを持ち口に運ぶ。と、勇に向いて持田、

「パスタ好きなのか?」

 と問うた。

 本当はね、

「あまり好きじゃないんだ」

 と、口を開く勇に驚き持田は、

「いつも食べてるのにか?」

 と問うた。勇は微笑み、あの時のようにくるくるとフォークを回しパスタを巻き続けながら口を開く。

「お母さん、茹でるだけでいいからっていつもパスタ作ってた。でも、俺マナーとか厳しくされてたからさ、特にパスタ食べるの難しくて嫌いだったんだよね。ちょっと間違えればすぐ怒られた。だから、パスタは不味く感じちゃって、俺は絶対作らなかった」

 でも、

「俺の前ではパスタ食べてるよな?」

 と疑問に思う持田に勇は、

 だって、

「怒らないでしょ、持田警部は」

 こうやってパスタ巻き続けても、

 と、下を向きながらずっと巻き続けていたパスタは、塊になって大きく膨らんでいる。と、勇は手を止めて続けて口を開く。

「持田警部と食べるものは、なんでも美味しく感じる、不味い思い出の食べ物だって」

 と、微笑んだ。ふう、と持田はため息を吐いた。やがて病院の外を歩きながら二人、

「てっきりパスタが好きなんだと思ってたさ」

 そうだね、

「持田警部の前ではパスタばっかり食べてたもんね」

 と、俯き気味に微笑む勇。

 勇、

 と持田は名を呼んだ。

 何、

 と、勇は変わらぬ微笑みで返す。

 旅行に行った時だ、

「次FIVEのやつらがどこに現れるか一緒に考えてた時、お前、何かある法則って言ってなかったか?」

 ああ、

「水だよ」

 と、変わらぬ笑みの勇。持田は、水、と聞き返した。

 そう、

「地図に書かれてあった、FIVEの人たちが犯行に及んだ印のついた場所を見た時、そこの地名を見て、あることに気づいたんだ。それが」

 水関連の名前が付いてるって、

 ゆっくり歩き続け変わらぬ笑みの勇。持田は、

 水関連?

 と聞き返す。勇は頷き、

「水、浜、海、湖、川……どう?持田警部なら思い当たる場所、結構あるでしょ?」

 確かに思い当たる場所が出てくる。ので、そういうことか、と納得した。

「何故、FIVEの人たちがそうやって法則作って狙っているのかまでは分からない。けど、法則に気づいてしまえばこっちのもの、だから、候補はいくつかあったんだよ」

 と、さらに優しい笑みを浮かべる勇に、持田は、

 それなんだが、

 と口を開く。

「FIVE THIEFSはあまりメディアなどに広まってない、もちろん人数だって……なのに、何故お前は人数を知っていた?」

 と、勇を疑うきっかけになったことを立ち止まって持田は問う。勇は、ん、と振り返り、微笑むと、

 だって、

「日本語にすれば五人の泥棒じゃん!」

 と、笑う。あっと持田。やがてふっと微笑み、勇の頭に手をやって、

「そんなことに俺は気づかんとはな」

 と悲しげに微笑む。勇は、頭を撫でられながら首を傾げた。そして勇を抜けて、病院内へ入っていく持田。その姿を見ながら勇、

 持田警部、気づいてないよ、

「俺は一番最初、FIVEが五人いるかのような言い方はしていないんだけどなぁ」

 と、怪しげに微笑んだ。それは、持田が勇のいる小出家に訪ねてきた時だ。地図を覗き込んだ勇のセリフ、

 へぇ、オシャレな人なんですね、その、ファイブなんとかって人。

 決して、人たち、とは言っていない。一人の犯行かと思い言っているようなこのセリフ、持田警部は、

 気づかなかったね、大事なことに……――――――

 小学校から連絡が入った、聡が学校に来ていないらしい。勇が入院しているため、どうしても連絡は自分に入る。それにしても、学校からの連絡はこれほどめんどくさいとは。極と一の事情聴取に診察があったので、それについて行くため遅れていくと伝えていた嵐は小走りで探しに出る。病院の外に出て、左へ曲がり進んだ。人気が無い場所を通る、端で極と一がしゃがみ込み、心配そうに隠れた場所を見つめている。たくさんのゴミ袋に隠れて聡が膝を抱えて俯き泣いていた。そっと嵐は近づく。それに気づき、極と一は立ち上がって一、二歩横に退いた。聡の前に立ち、見下ろして問う。

 聡、

 そう呼んでみると、聡は顔を上げずそのまま、

 俺、

「勇兄さん殺しかけたんだ……」

 ん、と顔がさらに険しくなる嵐。悲しげな目で極と一は聡を見下ろした。

「一番仲良かった葉音が死んじゃって、勇兄さんを殺しかけて、こんな気持ちで零那を……葉月を助けてなんてあげられない……」

 と、聡は泣き続けている。確かに、大事な友の葉音が天国に旅立ち、勇を危うく失いかけた聡には追い討ちでしかないだろう。嵐は徐々に怒り増していき……

「しっかりしろ!小出家五男、末っ子聡!」

 はっと顔を上げて、はい、と力強く声を震わせながら返事する聡。嵐は、

 お前、

「俺たちの弟だろう⁉︎答えろ、俺たちはこんなんで挫けるようなやつらか⁉︎」

 首を横に振る聡。

 そうだろ⁉︎

「いつまでも甘ったれんな……いつまでも一に抱き寄せられてんじゃねえ!いつまでも極に手伝ってもらってんじゃねえ!そんでいつまでお前は俺にこう言い聞かされてんだ!そんでいつまで、勇兄に助けられてんだお前は!」

 だんだんエスカレートしている気がする、一が止めに入ろうとするが、極が腕で阻止。いつもなら極が嵐を止めに入るが、今回はずっと真剣な目で見守っている。

 理解しなくていい、

「せめてあいつらの、葉月や葉句の気持ちを考えろ!あいつらは体傷だらけにしてまで父さんや兄弟助ける気持ちで動いてたじゃねえか!それがなんだ、結果あいつらの父さんは実の娘に毒飲ませてた挙句何人も手にかけてたし、毒飲まされてた葉音はだんだん弱っていって、葉句や葉月に見守られながら死んだ……なあ、本当にあいつらの心今無事かよ⁉︎」

 嵐の言葉に、聡の顔が涙でもうぐしょぐしょになっている。

「勇兄に、葉月を助けてあげろって言われたんだろ⁉︎今こんなところでくよくよしている場合か⁉︎お前、勇兄の弟だろ、炎鳳さんになんて言われた⁉︎勇兄の何を見て育ってきたって、そう聞かれたろ!まじでお前、何を見て育ってきたんだよ!思いだせ!俺たちは、なんでこの活動を始めた⁉︎」

 嵐の問いに、聡は声を震わせながら、

「勇兄さんを、勇兄さんを助けてあげるために……父さん母さんに会わせてあげるために……!」

 と、涙をこぼす聡。

 ああ、そうだ!

「だったら立て!前を向け!泣いたとしても泣きながらでも前へ進むんだ!」

 嵐の言葉を聞きながら、立ち上がり嵐を見上げて嗚咽しそうなほど泣き続ける聡。拭いても拭いても、涙は止まることはない。

 聡、

「この際だから言うぞ、俺は」

 お前の首に手をかけたことがある。

 嵐の告白に、誰もが目を見開いた。嵐は、

 そうだ、

「お前を本気で殺してやろうと思ってだ、羨ましい、いつまでも勇兄に甘えていたかった、ただそれだけでまだ赤ん坊のお前の首に手をかけたさ。でも出来なかった、勇兄がタイミング良く入ってきたから。泣いてるお前の前に俺が立ってたから、勇兄は、俺がお前をあやしてやってると勘違いして誉めてくれたけど、本気で殺しそうになったって今でもずっと言えなくて……俺が、みんなに言えなかったことだ。勇兄には一生言えないはずだったんだがな」

 と、横を見て悲しげに微笑む。離れたところに、勇が立っていた。勇も悲しげな目で嵐を見つめている。そして俯き、勇は、

 ごめん、

「俺、嵐のこと、みんなのこと何も気づいてやれなくて……まさか、俺のためにこの活動始めただなんて……みんなそれぞれ思う気持ちがあって、この活動を始めたんだと思ってた……それに、俺が嵐を苦しめてたなんて……」

 と、胸あたりの服ををにぎりしめて、悲しげに目を瞑り俯く。

 勇兄、

「俺は決してあんたに苦しめられてたなんて思っていない、それに今は羨ましいという気持ちは抱いてないし、あんたを助けてあげられるために強く生きるぜ」

 嵐……

 勇がそう呟くと、嵐の体ががっと揺れる。下を向くと、聡が嵐に抱きついて顔を埋めていた。

 俺は、

「嵐兄さんが俺の兄さんで良かったと思ってる!こうやって言い聞かせてくれて、俺を立ち上がらせてくれる嵐兄さんは」

 誇りに思うよ!

 勇が微笑む、極も一も。嵐は、瞳を揺らしながら、聡、と呟いた。と、極、

 気づいてたんだね、

「嵐お兄様はかっこいいって!」

 もちろん!

 と、聡は笑って頷いた。その力強い微笑みに、誰もが目を見開き、勇は、聡、と歩み寄ってそっと強く抱きしめる。

 お前……

 と、勇が嬉しそうにそっと呟くと、一瞬きょとんとして聡、再び、えへっと笑って見せる。聡が、前へ進んだ瞬間を見た。嵐はそう思い微笑む。

 病室、突如電話が鳴る。勇に一言言って、電話に出た。個室なので電話は大丈夫と看護師に言われてあるが、少し声を抑えて口を開く。

「はい、どうした?」

 黙って相手側の話を聞いていた持田、やがて、

「そうか……」

 と返した。そして電話を切る。勇に向き、持田は、

「花貴が犯行認めたそうだ」

 と、勇に言う。勇は、

 そっか、

 と、俯いて微笑んだ。

 子どもたちはどうするんだ、

 と問われ、

 もちろん、

「うちで預かるよ。いたいだけいさせてあげればいい」

 と微笑む。ふう、とため息を吐き、持田は、

「お母さんに似たと思ったが、そういうところはお父さんにも似たな」

 と、勇の頭に手をやり微笑む。勇は一瞬目を見開く。しかし持田が向いた時には微笑みに変えて、持田に頭を預けるように寄り添っていた。瞑っていた目をそっと開けて、勇は、

「すごく厳しいお父さんとお母さんだったけど、やっぱり、優しいところはもちろんあるからさ。お母さんは辛いのを隠すタイプだった、全然平気だよっていつも言ってて、お父さんはずっとそばで寄り添ってくれる人……厳しいところは似たくないけどさ、でも、そんな優しいところは、似てたら嬉しいな……」

 と、微笑む。

 学校から帰る聡。ただいま、と声をかけながら靴を脱ぐが、返事がない。嵐も極も一もまだ学校だ。家に葉月と葉句がいるはずだが。と、聡はあるものを手に三階まで上がる。葉月、と声をかけながら。零那、と名前の札が書かれた葉月の部屋をノックする。

 葉月、

 と声をかけ、入るよ、と一言声をかけて部屋に入った。部屋の隅で膝を抱え顔を埋め伏せている。聡もしゃがみ込み、葉月、と声をかける。やがて、あるものを差し出しながら、聡、

「葉音の棺に一緒に入れてやろうかと思ったんだけどさ、これ、お前が持っててくれよ」

 と言うと、葉月は顔を上げて、それを見て受け取った。巻かれた画用紙、そっと開くと、葉音に頼まれて描いたイラストが描かれていた。葉音が、最後まで大事に持っていたものだ。ちゃんと葉音とわかるその人物のイラスト、顔の特徴をうまく捉えている。

「私が持ってていいの?」

 と、葉音は涙ぐみながら問うた。聡は、うん、と頷く。と、ドアからかすかに音が。そこを向くと、ドアにもたれて葉句がこちらを見ていた。手には、何かケーキの箱らしきものを両手に持っている。

 あまり、人数分はないけど……

 と、差し出してきた。

 お前が買ったの?

 と聡が問う。葉句は、

 そうだよ、

 とこちらに歩み寄った。横に避ける聡、葉句も屈み込み葉月と目線を合わせた。

 悪かった、

「なんて言って許されることはしていないけど、ちゃんと言わなくちゃいけないと思ってな。お前の、葉月の好きなタルト、買ってきた」

 一緒に食べよう、

 と、葉句は目を合わせる。葉月は嬉しそうに笑った。それを聞き聡、

「二人分の皿だしてやるよ」

 と笑った。驚愕、聡が笑ってる。驚いて、二人は目を合わせて目を見開いた。笑ったまま首を傾げる聡。すると、ただいま、と嵐の声。ついて極と一の話し声もするので、聡は嬉しそうに笑い、おかえり、と声を上げて玄関まで走って行った。

「あいつ、笑うんじゃん」

 と、葉句は葉月にいうと、葉月も、

「私も今初めて見た」

 と目を見開いている。そして葉月はさっと立ち上がり、笑顔で走って聡の元へ行く。葉句も、立ち上がって一階まで降りた。ケーキの入った箱を二つ持って。

 時刻は午前零時を回った。ビルの屋上の上で、三人。Knightと、LightにGleam。二人だけの活動の時もあれば、三人の時だって。しかし、いつもならDolceがだいたいついている、それが今日はDolceはいない。怪しまれるだろうか……Knightは、

 どうするんだよ、

「Dolce……」

 と病院の方向を向き呟く。Lightは、

「Knight、今はDolceを信じるしかありません」

 と言うと、Knightは、そうだな、と頷く。今日行くところは監視カメラがある。仮面にそれぞれ違うマークが描かれてあるので、FIVEのうち誰が犯行に及んだかが警察に分かるのだ。もう、Dolceを信じるしかない、と、Knightは高いビルから飛び降りた。ついて二人も飛び降りる。少し背の低い隣のビルに飛び移り、走ってさらに隣のビルへ移った。そしてある建物で止まり、三人揃うと、黙って頷き合う。

 翌日、持田のところへ報告があった。またFIVE THIEFSの犯行が行われた、と。監視カメラのデータを渡されながら、

 Dolceがいないんです、

 と言われる。何、と顔をしかめて持田は、すぐに監視カメラを確認した。一番背の高い、仮面に水色のしずくと赤の傷のようなマークが入ったDolceがいない。

 何故だ?

 一人の時もあれば、二人や三人の時だって。しかし、いつもならだいたいDolceがいるはずだ。それがこの日はDolceがいない。一度ある人物を疑った、しかし違うんだと思い込んだ、が、それが間違いなのか?Dolceがいないということは、今入院しているあいつがDolce……――――――

 今日も勇のところへ訪ねる。持田警部、と首に腕を回してきた。まるで愛しい愛人のように。勇、と声をかけると、なあに、と離れて笑顔を見せた。

「FIVEのやつらが現れたんだが、おかしいことがあってな」

 と、顔を不安げに見つめている。勇は、

 おかしいこと?

 と首を傾げた。FIVE THIEFSが現れたが、だいたい、いつもいるはずのDolceがいなかったことを話す。勇は、

「最後にDolceに会ったのいつなの?」

 と問うので、持田は思い出す。確か、

「二軒目を狙ってきた時だったか……」

 と上を向いて思い出すように呟く。二軒目、と勇は首を傾げた。

 そういえばあの時、

「何か様子がおかしかったな」

 と持田。勇は、

 じゃあ、

「Dolce自身、何か嫌な、立ち上がれないことがあったのかもね、だからいなかったのかな?」

 と微笑む。

 Dolceだって、

「人間なんでしょ……?」

 それを聞いて持田、あっと小さく息を吐くようにそう呟く。

 そうだな、

 と俯き気味で微笑む持田。

 お父さん……

 そう呼ぶDolceの声が頭の中に響いてくる。おかげで息子の記憶が、前よりさらにフラッシュバックされるようになった。お父さん、

 また、いつものカフェへ行こうよ、お父さん!

 と笑いかけてくる我が息子。当時確かまだ七歳くらいだったか。

 勇、

「すまんが、一回だけでいい、お父さんって呼んでみてくれないか?」

 と、悲しげに勇を見つめて口を開く。一瞬勇はぽかんとするが、すぐに微笑んでとんっと持田に体を預け、

「今からパスタ食べに行こうか」

 お父さん、

 と笑いかける。似ている、そっくりだ。

 勇、

 と声を上げて持田は勇を抱き寄せると、

「お前だけは、お前だけは無事でいてくれ……!」

 と、勇を強く抱きしめ、目に涙溜めて消えそうな声で言う。勇の目が、驚いたように、そして悲しげに揺れている。そっと離れると、じっと勇を見つめた。まだ勇は驚いた悲しげな目をしている。やがて持田は俯くと、

 すまん、

「取り乱した……ありがとう、もう大丈夫だ」

 と呟く。悲しげな目のままの勇、やがてそのままの目で微笑み、

「一階へ、パスタ食べに行こうか」

 と持田を見上げた。

 時刻午前一時過ぎ、とあるデパートのジュエリー店に黒い服の二人組。コードネーム、LightとGleamだ。ゆっくり宝石を手に見つめては戻したりしている。選んでいるのだろうか、彼らの犯行を珍しく目撃した。少し謎な行動に持田は歩み寄りながら、

「何を選んでいるんだ」

 と問いながら歩み寄る。宝石を戻してLight、

「僕たちもわからなくて」

 と返す。

 何故だ、

「選んでいたのにわからないはずがないだろう」

 と持田。少し離れた場所にいるGleamは、

 言われたんだ、

「好きそうなのを選んできてって」

 それは誰に言われた、

 と問う持田。と、後ろから、

 僕だよ、

 と声がする。振り返ると、Dolceがそこにいた。

 Dolce、

 と呼ぶと、Dolceは、

「久しぶりだね、持田警部。二人には、僕が好きそうなのを選んでって言ったんだよね」

 何故そんなことを?

 持田がそう問うと、別に、と後ろ手に組んで返すDolce。

「二人がどんなのを選ぶのかなぁって気になっただけだよ」

 持田警部、

「二人の邪魔はさせない、今日も僕の相手してもらうから!」

 と、飛び上がるDolce。百九十は超えている持田の身長を余裕に横に回りながら飛び越え、二人の前に着地すると左手にナイフを持ち構える。

 さあ、

「僕と遊んでよ、持田警部」

 Dolceの言葉に顔を顰める持田。ふふっと、Dolceは小さく笑った。その時、持田は昼間に会った勇との会話を思い出す。

「Dolceの利き手?」

 そう返す勇。持田は、ああ、とだけ返し続ける。

「勇がDolceと会った日あったろ、あの時のDolceは、確かに右利きだった。しかしその後に会ったDolceは左利きだったんだ。ということは」

 そこまで言うと、勇が、

 じゃあ、

「どっちかが偽物か別人ってこと?」

 とパスタを巻きながらそう口を開く。

 俺はそう思ってる、

 と持田はコーヒーを口に運んだ。

 でも、

「どうして利き手がわかったの?」

 と問う勇に、持田は、

 ああ、

「あいつらいつもナイフを持ってるみたいでな、Dolceがナイフを使った時、右手で持って投げていた時と左手で持って振りかざしてきた時で違ったんだ」

 と口を開く。

 じゃあ、

「持田警部は本当のDolceの利き手はどっちだと思ってるの?」

 と勇に問われ、

 左だな、

 とすぐに返す持田。

 へえ、

「どうしてさ?」

 と勇。持田は、

 ああ、

「初めてDolceに会った時、右手に宝石を持っていたんだ。しかし勇もいたあの時のDolceは左手に宝石を持っていた、つまり」

 利き手と逆の手で宝石を持つようにしていたんじゃないかって、

 と持田。その昼間の会話を思い出しDolce、頬を両手で包み込み、仮面の下で目を見開きつつ口角をあげて顔を赤らめ、

 お見事だよ、持田警部……!

 と興奮。

 そう、あえて利き手と逆の手で宝石を持つようにしていた、それは利き手でナイフをすぐに出して使えるようにするため、そしてもう一つは、持田警部、君に僕の利き手に気づいてもらうため……!だから炎鳳には、あえて右手を使い、左手で宝石を持つように頼んであったのさ……!やっぱり持田警部は僕を快楽の海に落としてくれる人……!こんなに危ない気持ちになってドキドキさせてくれる人はなかなかいないよ!さあ持田警部、焦らさないでそろそろ僕を楽しさで昇天させてよ……!

 心で呟き顔を上げるDolce、持田は走り出した。

 そして持田警部、君は俺に、勇に何か助言されていたんじゃなかったっけ?

 と、再び心で呟き仮面の下で怪しげに微笑むDolce。Dolceはさっと横に避けてナイフを下から上に振り上げて襲う。体を起こし持田もさっと避けた。そして左足を振り上げ、Dolceの背中に一撃。あっとDolceは左足を前に踏み込み体を支えた。

 きた……!

 と仮面の下で笑うDolce。持田は、なるほど、と呟きDolceをただ見ている。

「利き足は左か」

 そっと体勢を立て直すDolce、そして振り返り、持田に向いた。

「バレちゃった?」

 と可愛らしい声が明らかに笑っているのがわかる。

「勇に、利き足を確かめろと言われてな、俺も前にそれを見て確かめたんだが、この前お前は右足で踏み込んでいなかったか?」

 それを聞き、ふふっと笑うDolce。

「そうだね、でも、僕は左寄りの両利き、つまり」

 両足使えるんだよ、

 とDolce。両利き、と持田は呟くと、後ろ手に組みDolceは、

 持田警部、

「今日の目標は五千万円だ」

 それを聞き、持田は、

 それ、

「適当に言ってるだろ」

 ふふっとDolceの肩が揺れる。

「もっと詳しく言ってみて」

 言った通りだ、

「五千万円の被害総額は本当として、盗んだ時によく言ってた、百万の価値だったり、五百万の価値だったり、一千万の価値だったり……Dolce、人はぱっと見ただけじゃ宝石の価値はわからないんだぞ。宝石を一つ一つ覚えていたとしても、お前らがあれだけの量を盗んでちゃ、いちいち見分けるのは困難だ。だから適当に言ってるだろ、と聞いてるんだ」

 それを聞きDolce、黙り込んでいる、が、目が明らかに笑っている。そしてふふふっと小さく笑い声を上げ、やがてその小さかった笑い声はだんだん大きくなり、狂ったような声で笑い出した。

 流石だよ、持田警部……!

「やっと気づいてくれたんだね、そうさ、僕は適当に金額つけて言ってただけ、こういう値段がついたお店で価値を知るのは簡単でも、美術館などの値段がわからないものは知るのが難しいからね……!」

「いきなり盗む量を増やしたのもそれに関係があるのか?」

 そう、

「だってそうでもしないと、この僕の考えに気づいてくれないでしょ……?」

 Dolceの考えることは、

「一ミリも分からんがな……」

 なんて持田はすぐに返して。Dolceはふふっと笑うが、昼間の持田の言動を思い出す。

 ――――――お前だけは、お前だけは無事でいてくれ……!

 目が悲しげになっている、仮面の奥で、目を細めて瞳を揺らして。

 僕も、

「君の考えが分からなかった。だから、僕が勝手に心理戦という名の戦いを始めて君の思考を読み取ろうとして……でも」

 知れば知るほど悲しくなる、

「僕が君に助けを求めてたみたいに、君は僕にSOSサインを出していたんだって」

 ……何も解決していない、けど、

「もうやめた……」

 Dolce……?

 持田の、何かあったのだろうかと問いたげな表情。

「大丈夫だよ持田警部、今後も君からは逃げ続ける。何があっても、ね」

 そう、強気な目に変わった。Dolceのその目を見て、安心したような表情になる持田。やがてふっと笑って、背を向け立ち去ろうとする。それを見てDolce、慌ててその背中に向けて問うた。

「持田警部、いいの?行っちゃって」

 いいんだよ、

「ここ何故か監視カメラが無いし、適当に報告しておくよ。お前らも、俺のために早く帰れよ」

 と、そのまま立ち去ってしまった。不思議そうな目をしていたDolceは、やがてふふっと微笑みの目に変えて、Lightと Gleamに向き、口を開いた。

「さあ、持田警部のためにもう行こうか」

 頷く二人、Dolceは、さらに微笑んだ。

 ……持田警部には何かある、気付いてた、分かっていた。だから真相を、思考を知りたくて始めた心理戦。そもそも、やっても意味はなかったし、正直勝てるって、持田警部を甘く見てた部分もあった。この結果は、引き分けに終わった……――――――

 勇に、病院に来てくれと呼び出された持田は、あくびをしながら現れた。嬉しそうに手を振り、入り口前で迎える勇。持田は、

「今日退院だから、迎えに来いって?」

 と、問う。勇はすぐに、うん、と頷いた。

「そして、退院祝いでパスタ食べさせてもらおうと思って!」

 と笑って見せる。困ったような笑みを持田は見せた。

 車は向こうだ、

「行くぞ、パスタはどこに食べに行きたいんだ?」

 持田警部のおすすめの場所で、

 そう荷物を持って歩き出す。ちょっとして持田の背中を見た勇はふと考えてしまった。この人は、すぐいなくなってしまうんだろうか……?急に込み上げてくる不安を抑えきれなくて、止まったままの勇は、気付かず歩き続ける持田に声を上げた。

「お父さん……!」

 ん?とすぐ微笑み振り返ってくれるも、勇の表情を見てすぐに困惑したような顔に変える。

「どうしたんだよ、今にも泣きそうな顔して……」

 すぐ勇は駆け出した。持田も体向け、勇に歩み寄る。思ったよりも抱きつかれた時の衝撃が強くて、一瞬ふらつくもすぐに体勢を整えた。腕の力が強い、まるで何か恐怖に怯えている小さな子どもだ。

「持田警部は、もしかして、先に行ってしまうの?」

 それは否定できねぇな、

「でも、不安になったらいつでも電話かけてきていいし会いに来たっていい」

 少しはわがままでいろ、勇、

 やがて勇は、うん、と安心したような笑みで腕の力を強めた。

 ――――――似た不安を、以前にも覚えた。それは持田が旅行に連れて行ってくれた時、その時二人は会って間もない、はずだったが、何か恐怖を覚えた勇はすぐに寝ていたベッドから飛び出すように布団から抜け、そっと寝ていた持田に触れて囁いた。

 ねえ、

「ずれて、そこに入れてよ」

 寝起きで眠たそうに端に寄って、ん、と布団もめくって入れてくれた。小さい子は、怖くて布団に入れてもらう時こんな感情なのだろうか?勇が小さい頃は、どんなに怖くても布団に入れてもらった記憶が無い。持田は眠たそうに寝返り打って背を向けてしまったが、その背中がむしろ安心する。そっと手で触れ、

 お父さん、

 そう囁いてみた。どう表していいのか分からない、新しい感情。普段睡眠時間が短い勇は、この日は八時間以上も寝ていた。起きた時隣にいなくて、でもちゃんと近くにいたことによりまた新たに覚えた感情が、勇を安心させていた。

 すぐにいなくなるのではないか、急に会えなくなる時がくるのではないか、持田は先程、否定できないと言った。確かに決して、急にいなくならないでと約束できるものではない。ましてやこの職業は尚更だ、ある日突然何かあってもおかしくはないのだ。

 持田警部は、

「何も言わないんだね……」

 ああ、

 勇の言葉に持田はそう返す。そして、

 勇……

 そう呼ばれたと思い、勇は、ん、と顔を上げるが、思いふけるように微笑んでいた。首を傾げる勇、持田は、

「名前の通りだな……」

 はっと、やがて嬉しそうな笑みに変わり勇は、再び強く抱きつく。

 ねえ、

「また旅行に連れて行ってよ」

 ああ、

 そう返して持田は、行こう、と勇を誘導した。帰宅して勇、玄関でただいまと声をかけると、兄弟四人が出てきてくれる。その四人しかいないことを確認して勇は、

「ごめん、謝らなくちゃいけないことがあって」

 と笑う。何も分からない顔をしているのは、嵐と聡。

「極と一は分かってるんだけどさ」

 勇がそこまで言うと、嵐は極に顔を向け、

「おい、なんだよ?」

 と問うた。言いづらそうにも極は、一言だけで伝える。はあ、と声を上げて嵐、

「心理戦を途中でやめた⁉︎」

 うん、と満面の笑みで笑う勇。そんな勇に嵐は近づき、両手で頬を包むと、むにむにと動かしてやりながら、

「ったくこの長男様はよぉ、こんだけ人巻き込んで散々俺たちも振り回してくれた挙句、途中でやめたって、それ、大丈夫なんだろうなぁ⁉︎」

 これだけ手を動かしてるのに、それでもかわいらしい顔だ。なんだか怒れない、と思い始めたその時、

「大丈夫だからやめたんだろ?」

 と、横の扉から声が。

 真冬さん、

 と勇が声をかけると、いつの間にか扉に背を預けていた真冬が、よいしょと離れこちらに歩み寄る。

「まあ俺も心配だったが、どういう結果であれ、お前の身が無事で安心した」

 と、微笑んで真冬。少し驚いた、が、勇はそれを顔には出さず瞳を揺らす、と、同時に少し反省した。そんな勇の頭に手をやって、真冬は、

「いいんだ、今後もお前の好きなやり方でやっていけばいい。お前はこのFIVEのリーダーだ、決定権はお前にあるんだからな」

 微笑んで勇、はい、と頷いた。その時、帰りました、と玄関ドアが開く。雷加だ。真冬はいつの間にか去っている。みんなが集まっていたことにより、不思議そうな顔をしたが、すぐ目の前に勇がいる、ぱあっと嬉しそうな顔をする雷加、勇は、

 ただいま、

 そう微笑んだ。すぐに飛びつく雷加、おかえりなさいと、すごく嬉しそうな声で。勇は自身の背中を丸め、雷加を包み込むように丸め込んだ。雷加の背中が大きく反れる。雷加はこの抱かれ方が大好きだ、全ての体重は勇に預けることになるこの体勢、すごく安心する。久しぶりの勇の体温。心臓の音が聞こえる、周りが微笑ましそうに黙って見つめている分、もっと大きく聞こえる。生きてる、この人は、今確かに生きてる。この日は、改めて勇を、とても大切な人だとさらに大きく感じることができた。

 ある日の夜だ、持田の携帯に一本の電話が鳴った。今深夜零時過ぎたところ、ちょうど仕事を終えて帰宅途中だったが、なんて思いながら走らせていた車を端に止めて非通知の文字を確認し電話に出る。

 もしもし、

 誰か分かる?

 だろうなとは思ったさ、

 ちょっと来て欲しくて、

 どこに?

 君と初めて会ったあの宝石店、

 逆方向じゃないか、なんて思ったが、すぐ行く、と電話を切った。途中の曲がり角を曲がって引き返す、しばらく車を走らせて宝石店の入り口前まで行くと、中が見えるので、覗くように立った。思い耽るような目で俯いているDolce、こちらに気づくと、指で、裏に回ろうと合図を送ってきた。確かに、ここでは目立ちすぎる。持田も裏に回ると、すでにDolceがそこに立っていて、まるで待ち合わせしていたかのように手を振ってきた。持田も軽く手を上げながら、Dolceとは変な関係になってしまった、なんて思って。

 なんだよ、

「ここへわざわざ呼び出して、どうしたんだ」

 聞きたいことがあって、

「君は、僕にどんな宝石を選んでくれるのかなって」

 ぁあ……

 と、持田は夜空を仰ぐように上を向く。

 アクアマリン……

 そう、しばらくして囁いた。しかしDolceにははっきり聞こえた。

 アクアマリン、

「意外だった……」

「幸福、富、聡明の他に、勇敢、沈着とも呼ばれてる」

 石言葉だね、

「ああ、お前を捕まえるために、以前少し宝石を調べたことがあったからな」

 しばらくDolceは、嬉しそうに微笑んだままだった。やがて、ふふっと笑い、間から見える星空を眺めて、

「やっぱり君は僕を見ていてくれたんだ、Dolceという名前も、アクアマリンという宝石も、全部僕にぴったりなものを持ってくる」

 ねえ、

「もっと僕を知りたいと思わない?」

 もっと……

 と、股間付近に指を添えて、なぞるように上へ持っていきベルトを持つ。困ったように笑いながらため息を吐き持田は、軽く手で振り払うように背を向け、

「いや遠慮しておく、お前とはほどほどの、こういう関係でいい」

 つれない、

 と、Dolceの目は笑っていた。そしてポケットから、大きめの宝石がついたアクセサリーを取り出す。月にかざして、

「気づいてたくせに」

 と、また笑った。再び去っていく持田を見て、その宝石を見つめて、

「アクアマリン、盗りに行こう」

 と立ち上がって、飛び上がった。

 ある程度は落ち着いたのではないか、五人兄弟、道をできるだけ広がらずに、前に嵐と極、次に一と聡に、一番後ろは勇で歩く。

「しかし、勇兄が途中で心理戦やめちまうとはな」

 うん、

「みんなごめん」

 嵐の言葉にそう勇。

 別に、

「珍しいって話だ、責めちゃいねぇよ」

 と嵐は笑う。聡は、

「でも、葉月のことも、心理戦も、全部解決して良かったね」

 と笑って振り返る。すると、勇の足はぴたっと止まり、

 まだ、解決してないよ……――――――

 気になることがあるんだ、

 夜、みんなが寝静まった時に、電話口でそう勇。

 ロメオ、だな、

 電話の相手はそう返す。

 うん、

「結局あの男のことは解決していない、あれだけすごい身体能力持っていながら、現れたのはロメオと名乗った時のあの一回だけ、俺の嫌な予感は大抵当たるから、今回のこの事はどうしても放っておけなくて……とにかく気をつけて」

 炎鳳……

 ああ、

「分かってる、こっちでも何かあったらまた連絡する、それじゃあ……」

 月を見上げる。

 今日は満月か、

 狼の遠吠えが聞こえてきそうだ。

 行こう、

 俺たちの物語が始まる――――――


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