さらわれた姫がワガママ放題で手に負えないので、至急!迎えに来てください!と魔王軍の方からメールが届きました。
「きゃー!たすけてえ!!」
王冠をかぶった白いドレスのお姫様はそう悲鳴をあげた。衛兵が急いで姫の方に行くとそこにあったのは恐ろしい形相の魔物が姫を抱き抱えるという光景だった。
「はっはっは!お姫様はもらって行くぞ!!はっはっはあ!!」
「待て!待てえー!!」
そう言いながら勇者は飛んでいくその魔物に手を伸ばした。その魔物が見えなくなると突然普通の顔に戻りスタスタと戻っていった。
ここはとある王国で先ほどの魔物に連れ去られた女性はお姫様だ。勇者の向かった方向はお姫様が連れ去られた方向とは全く逆方向だった。勇者は全くと言っていいほどこのお姫様を助ける気などさらさらない。勇者の仲間は勇者に向かってこう尋ねる。
「いいのか?助けなくて」
「あのお姫様わがままだしめんどくさいからなあ。魔王に任せた方がいいだろう。もう顔も見たくないぞ」
「そ、そうなのか...」
その傍若無人っぷりに勇者もほとほと困っていた。ある時は美味しいものを作れといい、出せば要らないという。またある時は旅に同行させろと言い出して駄々をこねた結果結局行く事になったが明らかに邪魔しかしていなかった。そもそも戦闘能力すらないお姫様を連れていくと言うことは足枷をして行っているようなものだ。あのわがままっぷりにいっその事こといなくなってしまえばと思っていたのでちょうどよかった。
「これで清清するな」
「でもどうせ王様に助けろって言われるだろ?」
「まあ冒険しながら行くフリでもしてりゃ大丈夫さ」
そう言いながら勇者は歩き出した。
次の日、勇者一向に手紙が来た。それはなんと、魔王の城からだった。内容はこうだ。
『勇者一行殿、とらえたお姫様が好き放題やりたい放題して困っています。早く迎えに来てください』
魔王ですら困るほどのおてんばなのだからそんなものを回収しにいくのも面倒だ。勇者はいつも通り行くフリでもしながら冒険する事にした。
「いいのか??」
「ああ、少しずつ近づいていけば大丈夫だろう」
「でも近くまで言ったらどうするんだ??」
「大丈夫。そこも考えてあるさ」
そう言いながら意気揚々と歩く勇者を、仲間はただついていった。
『早く来てください。暴れ回って迷惑しています。早くお姫様を連れ戻してください」
次の手紙にはそのようなことが書かれていた。だが勇者は助ける素振りだけで真面目に助ける気などなかった。のお姫様を連れていった魔王の自業自得だと勇者は考えているからだ。あれを持っていってしまった以上もうアレの世話は魔王に任せようと勇者は企んでいる。
だがここは魔王城に結構近い位置にある。このまま魔王城に行けば助けてしまうだろう。一体勇者はどうする気なのだろう?仲間は気になってどうするかを聞いてみることにした。
「おい..結構近くまできたぞ。どうする?」
「一旦戻るぞ」
「戻る??正気か?離れて行ったらなんて言うか...」
「俺らはまだレベルも装備も足りない。だから目の前にしてもまだ挑めないのだ」
「そ、そうか」
レベル的には十分といえるのだが助けるのが面倒というか顔合わせをしたくないので魔王城には一切行かない気でいる勇者に仲間は「はあ...」と言うため息をついた。
『限界です。もうストレスでどうしようもありません。早くきてください。助けて』
そこには魔王の苦悩とどうしようもなくなった魔王の心情が書き連ねたった。それを見て勇者はその手紙をビリビリに破いて捨てる。突然の行動に仲間も何をしているのだと困惑している。
「だってよ」
「いいか?こんな手紙は貰ってない。て違いで貰えなかった。いいな?」
「あ、ああ」
「さーて次はどこにいこうか」
「くおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉらあああああああああああ!!!!」
その声はどこからか遠くから聞こえてくる。何だ?と思いながら勇者がキョロキョロしていると向こうから何かが走ってくる姿が見える。それはまぎれもない、お姫様だった。どうしてお姫様が??そう勇者が驚いていると勢いよく勇者の方へと走ってきてドロップキックをかました。
「助けろってくってんのに何のんびりしてんのよアンタたち!!」
「どうしてここに?魔王城に囚われているのではなかったのですか??」
「あー、あの魔王城退屈だから抜けてきた」
「え??」
「それじゃ、よろしくね!!」
「はい」
つまらなそうに勇者はそう答えた。