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美人の記憶ですか!?

「キロ坊もやっぱり男だな。まさかウチを無理矢理押し倒すとは」


 僕の胸に顔を埋めながら大原さんが突拍子もないことを口にする。

 無我夢中とはいえ彼女を押し倒してしまったのは事実なわけで……


「不可抗力といいますか、とにかく助けたい一心で」

「ああ、冗談だわかってるよ。集まったギャラリーに誤解させたくないしな」


 すくっと起き上がると大原さんが周りの人たちに状況を説明しはじめた。

 学校では不良少女で有名な大原さんの言葉に、最初は怖がっていたギャラリーたちも身振り手振りを交え真剣に話す彼女の言葉を静かに聞いてくれた。


「よくそんな状況で無事だったね」

「人を助けるなんてなかなか簡単にできるもんじゃないな」

「すっごい男らしい」


 どうやらまた変な噂を流されずにすみそうだ。

 これも即座に説明してくれた大原さんのおかげだ。


「ありがとなキロ坊」

「え?」

「え、じゃねーっての。まあなんだ?うちも一応は女子なわけで、顔に傷でもできた日にゃあそれこそ貰い手がいなくなるってもんだ」


 乱れた長髪の金髪をかきあげ、恥ずかしそうに頬をポリポリとかく姿はとても印象的だった。

 もちろんバッチリ記憶させてもらった。

 いつも長髪の金髪に隠れてるからわからなかったけど……この人もの凄い美人だ!?


 そんな姿を見たギャラリーたちもまた―――


「お、おいあれ見ろよ」

「き、綺麗」

「不良少女って言ったの誰だよ……」


 そんな反応をされた当人はというと、


「うっせーな!こちとら見世物じゃねーんだよ!あっち行けやコラ!」


 押し寄せていた波がさあーっと引くように、みんな一目散に逃げて行く。

 ああ、この本棚と本はいったい誰が片付けるんだよもう!みんなが騒ぐから。

 まあ、これだけの美人がうちの高校にいたと知ったら騒ぐのも無理ないレベルだけど。


「ほんと綺麗だし」

「!?」

「キ、キロ坊まで大人を揶揄うんじゃねー!」


 叫ぶと同時に顔をプイっと背けられてしまった。

 あ、ご機嫌損ねちゃった。


「大原さんも大人じゃなくて高校生じゃ―――」

「あーん?ぐちゃぐちゃにされたい悪い子はどいつだ?」


 暴力的な言葉とは裏腹に、耳を真っ赤に染めている美人女子高生を僕は記憶した。


 * * *


「ふー、これで終わりっと」


 返却された本を戻すだけのはずがえらい目にあったな。

 

 結局あれから春香も稲田も姿を見せず、僕らだけで後片付けをする羽目になった。

 稲田は最初から怪しい感じだし、春香なんて本棚が倒れる直前までいたからな。


「あの女どこ行きやがったんだ?」

「佐野さんのこと?僕はてっきり助けを呼びに行ったと思ったんだけど」

「キロ坊は随分とお人好しだな。あの女……本棚が倒れる瞬間自分だけ通路脇に避難してやがったぞ」

「え?」


 なんだよそれ?

 僕はてっきり……


「あんたらふたりに何かあったのかは、はたから見ててもわかるけどよ。アイツには気をつけろよ」


 大原さんの表情は真剣そのものだ。

 僕はまた重大なミスを犯してしまった。

 あれほど元幼馴染をもう信じない、許さないと口では言ってたのに。

 僕の甘さのせいで大原さんまで危険にさらしてしまったのだ。


「それと……稲田にも気をつけておけ」

「大原さん、稲田くんと面識あったんだ?」

「ああ、同じ中学出身だ。昨日はキロ坊が困ってたからつい口出しちまったが。因縁ってのはそう簡単に消えないらしい」


 やっぱり昨日は助けてくれたんだ。


「お互いいろいろあるみたいだし何かあった時のために良かったら連絡先交換しない?友達として。ダメかな?」

「あー?いまさらなに言ってんだよ。同じ釜の飯を食ったらもうそれは友達だし構わねーよ」


 いえ、父さんの作ったお弁当、しかも卵焼きを食べただけです。なんて言ったらぐちゃぐちゃにされるからやめておこう。

 ところで……ぐちゃぐちゃってなんなの!?怖いんだけど!


「そうだね。大原さんと友達かぁー。これからもよろしくね」

「おう」


 サムズアップしてくる大原さんの嬉しそうな顔は記憶じゃなく心に刻んだ。



 

読んでいただきありがとうございます!

まだ『ブックマークと☆評価』をされた記憶がない方はこの機会にお願いします!

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