図書委員の記憶ですか!?
「え、僕が図書委員?」
「ああそうだよ。記憶をなくして忘れてると思うけど」
山田くんが僕の記憶喪失を利用して図書委員の仕事を堂々と押しつけてきた。
無意識なのか左手をグーパーさせている。
嘘つく時の仕草ってことかな。もちろん遠慮なく記憶させてもらうからね。
うーんどうしよう?断ることもできるけどここはあえて誘いにのってみるか。
山田くんは除け者の僕相手でも普段こんなことをしたりしないんだよねぇ。
だとしたらきっと誰かの手引きってわけだ。
「あん?ウチも図書委員だったな。キロ坊が一緒だなんて話、聞いたことねーぞ?」
「キロ坊?」
「先生とこの坊ちゃんだからキロ坊」
ネーミングセンス!
父さんのメモリーに比べたらダサダサ感が半端ないな。
「大原さんも図書委員なら放課後一緒に行かない?父さんの本でも一緒に探そうよ」
「お、行くか?」
「ってことで浜田くん教えてくれてありがとう」
「ああ……うん、山田だけどね。それじゃあよろしく」
「あ、ひとつだけ聞いていいかな?僕が図書室行くの他に誰か知ってる?」
「!?……誰も知らないはずだよ」
念のため記憶喪失をアピールしてカマをかけてみたんだけど。
山田くんは思惑通り左手をグーパーさせちゃってる。
……なるほどね。腕っぷしに自信がありそうな大原さんと一緒だけど、警戒した方が良さそうだ。
* * *
「あ、喜路来じゃん久しぶりー!」
「え?あ、うん」
昨日も一昨日も偶然だねーとか言って挨拶してこなかった?
図書室に入るなり元幼馴染の佐野春香がハイテンションで声をかけてきた。
幼馴染を自分からやめたくせに笑顔振り撒いてなんのつもりだ?
「昨日も挨拶して―――」
「えー!覚えててくれたんだ。春香嬉しい!」
「僕は物覚えがいいから」
食い気味に喋ってくるからつい昔のように受け答えしちゃったじゃん。なんだこの茶番。ちょっと離れてくれよ。
「なあキロ坊?図書委員の仕事はいいのか?」
「キ、キロ坊?」
誰だってそうなるよな……
元幼馴染でさえこのダッサイあだ名に困惑している。
春香は驚きすぎな気もするけど。
「大原さんはもともと図書委員でしょ?他の委員メンバー誰がいるか分かる?」
「名ばかりで図書室に来たのも初めてだしわからん!アッハッハ」
ですよね~。
そこまで胸を張って言える大原さんは立派だと思います。
「はい!はいはーい!」
「佐野さんなにかよう?」
「幼馴染に冷たーい。今日は1組と2組の図書委員が担当だよ」
もう幼馴染じゃないし名前で呼ぶわけないだろ。
そういえば春香は1組だったよな。
僕を呼び出したのももしかして―――
「お、もう集まってんじゃん!俺も1組の図書委員やってる稲田晋平だ」
たしかこの人、春香と一緒にいた人だ。
それにしても変だな。幽霊図書委員の大原さんと騙されたふりしてやって来た僕に自己紹介するなんて。
春香は天然で最低な元幼馴染だけど僕が図書委員として来ることを知らなかったようだし。
……いやいや、知らないふりをしてるだけかもしれない。僕の記憶喪失と同じで。
さてさて、本当の意味でいろいろ面白くなりそうですよ父さん。
稲田くんの耳がピクピクしてなにか企んでるようですし。
どうやら僕の中にも『氷河家の血が流れてる』みたいです。
稲田くん、春香の口角がほんの少しだけ上がるのを僕は記憶した。
あ、あれ?大原さんはどこ行ったんだ?
2人を観察してたら見失ってしまった。
本日2回目の投稿です。
先ほどの投稿は話が進んでないのでこちらが本編です。