幼馴染の記憶ですか!?
「おはよう喜路来」
「え?」
記憶喪失のフリをして数日がたったある日。教室に入ると予想だにしない人から挨拶された。
同い年で小中高と毎日一緒に学校へ通っていた幼馴染の佐野春香だ。
正確には幼馴染だったかな。
「やっぱり噂通り私もわからないの?」
「どんな噂か知らないけどあなたの記憶はありません」
お前なんか覚えてても知らねーよ!
みんなから攻撃されるようになったのだってもともとお前のせいだからな。いま思い出しても腹が立つ。
―――
「え?幼馴染やめるってどういうことだよ?」
「ほら、わたし自分で言うのもなんだけどモテるでしょ?あなたはなんて言うか……お父様と違って地味だし一緒にいるだけで笑いのネタにされるのよ」
「自分がなに言ってるかわかってる?後で戻りたくなっても2度と元には戻れなくなるんだよ?」
「はぁー?戻りたくなんかなんないし。なにその偉そうな言い方?超ムカつく!もう金輪際口もきかないから!」
―――
僕の存在が笑いのネタってなんだよそれ?
口もきかないって言ってたよな?ちょっと可愛いからってふざけんなよ。
あの会話から数日後、僕は根も歯もない噂まで広められて窮地に追い込まれたんだぞ。他にも噂を流した人物はいても春香がその中のひとりに間違いないんだからな。
あれから半年以上経つのに今更なんのようがあるってんだよ。
「そっかー、覚えてないかー?わたしが貸したお金のことも」
「は?」
ほんの少し彼女の右の眉毛が動くのを記憶した。
昔から嘘つく時はいつもこうだったな。俺しか知らない癖だけど。
「親にカードを持たされててお金には困ってません。だから借りてるはずありません。人違いでは?」
未成年の僕が持ってるはずないけど嘘はお互いさまだ。
金をたかろうなんて少し会わないうちに落ちぶれたものだ。
そういえば小さな時からあれが欲しい、これが欲しいってせがまれてたな。
「おい、春香、話が違うじゃねーか。簡単に金が手に入るんじゃなかったのかよ」
「う、うっさいなー。あんたは黙ってなさいよ」
なんだ?男と一緒だったのか。ひょっとして彼氏にでも貢いでるのか?まあ知ったこっちゃないけど。
「ではそろそろ授業も始まるので失礼します」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
幼馴染でもない赤の他人を待つわけねーだろ。
でも父さんの言った通り記憶喪失のフリはかなり便利だ。
面倒ごとに巻き込まれずすむし。
自分の席に座り寛ごうとするが、春香は一向に自分のクラスへ戻る気配がない。
「ねえ、助けてよ!お金……」
「あーうざ。なんだテメーは?金が欲しいなら自分で稼ぎゃあいいだろ!」
あ、隣の席の大原さんがキレだした。
ヤバいなこれ、本気のやつだ。握りしめたボールペンがぐにゃってなってるし……
いまでもお金をたかってくる春香に僕も頭にきてるけどね。
「「す、すいませんでしたー!」」
相手が悪いと思ったのか2人の姿は音速で消えていった。
ひょっとして大原さんは助けてくれたのか?
「ありがとう」
「ふん!」
……反応してくれるのか。
「ほんとありがとう」
「ふん!」
もう一度お礼を言うと、ぶっきらぼうながらもやっぱり返事をしてくれた。
ふん!て返事だったっけ?
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