おかずの記憶ですか!?
「ではこの問題を……氷河、やってみろ」
「!?」
金澤のヤツ……ふざけんな!
昨日の数学の授業で習った復習らしく問題をさされた。だけど3日間学校を休んでた僕がわかるはずもない。まあずる休みだから文句を言えた義理じゃないけど。
「どうした?わからないのか?」
さらにニヤつく金澤の顔を記憶した。
なるほど。ただ笑うだけでも表情に違いがあるのか。
なんだかこの顔、無性にムカつくな。
「降参か?降参しちゃうのか?ぐふふ」
そんなにみんなの前で僕の無能さをアピールしたいのかよ。
みんなも悪意に満ちた顔でニヤニヤしてんじゃねーよまったく。
クラスの大半が敵だとあらためて認識させられる。
って思ってたら、
え?……ちょっといったい何してるの?
普通の人だったら意味ないけどナイスだよそれ大原さん。
「あ、わかりました。答えます」
「なに!?」
金澤の不細工な顔がさらに歪んでいた。
「……せ、正解だ」
「よし!」
実はこの時、隣の席の大原さんが自分のノートに書いてある方程式をそっと開いて見せてくれた。
見れたのはほんの一瞬。どういった意図かは不明だけどいまの僕には完全記憶能力がある。
なんとか見よう見真似で答えを導きだしたのだ。
「ありがとう」
「ふん!理不尽なのは嫌いなんだ」
小声でお礼を言ったら不機嫌そうに顔を背けられちゃった。
ただその口元がほんの少し上がるのを見逃さず記憶させてもらう。
この人って……実はいい人?
その後、淡々と授業は進みあっという間に昼休みになった。
記憶喪失のフリをしてようと普段通りなんら変わらないものだ。
毎日なんてこんなもんかと拍子抜けする。
さて、いつものようにボッチ飯でも食べるとしよう。
父さん特製のお弁当。いつも通り豪華で色鮮やかだ。
もちろん母さんが作れないわけじゃない。
常識からかけ離れたお弁当を持たされるので、クラスメイト達からいじられないよう父さんに作ってもらうのだ。
この歳でキャラ弁とかマジ勘弁。
うわ!相変わらず父さんの弁当は凄いな。芸術的かよ。
完全記憶能力で名画でも再現してるのかな?なんて考えていたんだけど。
なぜか大原さんが僕を殺すような目つきで睨んできた。
さっきは助けてもらったけどやっぱり怖い人じゃんか。
そして怖いのは顔だけではなかった。僕がおかずをひとつまみするごとに「うっ!」とか「ぐっ!」とか唸ってくる。
な、なんか変な気分になるからやめてもらいたい……
最後の卵焼きになると「あぁ……」と切ない声を漏らす始末だ。
おかずの声でも代弁してるのか?マジで怖いんだけど!?
さすがに気になってしょうがないので意を決して声をかけてみた。
「た、卵焼き…食べますか?」
本人は僕が見られてることに気づいてないと思っていたのか「ひゃい!」と驚きとも返事とも取れる声をあげた。
び、びっくりしたー!ひゃいって何語なんだよそれ!?
声をかけた僕の方が心臓が止まるとこだよ。
でも不良少女で有名な大原さんもこんな顔するんだな。もちろん一瞬見せた表情を記憶した。
「こ、こっち見てんじゃねーよ!」
「!?」
「あっ」
「あっ」
いまの騒動で目を逸らした際に最後の卵焼きを床に落としてしまったのだ。父さんごめん。
「落としちゃった……」
「ふん!最初からいるなんて言ってないだろ!」
言葉とは裏腹になんで涙目!?ほんとにこの人って不良少女なのか?
とにかく明日も父さんに特製弁当をお願いしようと思う。
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