光と影
おはようございます
今日も寒いですが気合い入れていきましょうっ!
リアルが忙しいため、今日は一話で終わりそうです
てっぺん超すまでにもう一話かけたらいいなぁ
マリエルは人ごみの中を、宙に浮いていれば感じる必要のない砂埃に顔をしかめながら歩く。
(あー嫌だな)
マリエルは今回の行動にあまり納得はしていなかった。
愛すべき主人に呼び出されたはいいものの、自分の立ち位置は真ん中ほどで、主人は強大なアピサルとロードに振り回されているように見えるのだ。
しかし、それをマリエル自身の力で解消してあげることが出来ない。
ロードの望む覇道と、主人の望む生き方は相反しているような気がしているのだ。
しかし今自分にできることはあまり多くない。
今回の動きもマーリンに指導権を握られてしまっている
マリエルが見る限り、この世界の人間は個々ではそんなに強くない。
フォレストヒュドラに過剰なまでに驚いていたのがその証拠だ。
話に聞く限り、今のマリエルでは多少の時間はかかるかもしれないが、苦戦することなく倒しきれる自信がある
(それに私たちはまだまだ強くなる余地がある)
マリエル達は召喚直後。
ゲームでいうならばLv1の状態だ。
召喚された者は皆、自身の成長の余白を感じている。
とはいえ、強者であることには変わりないケルが苦戦した魔物を群れの力で倒しきれている人間たちの牙がすべて主人にむいたら、今の自分たちでは防ぎきれないであろうことは察せられる。
だからマリエルとしてはもうちょっと強気に攻めてもいいんじゃないかと思うが、マーリンの策の通りあまり過激なことはせず、それでいてしっかりと目立ち情報を集められる策を遂行している。
冒険者ギルドでの対応もいわば飴と鞭。
あれだけマリエルが傲慢にふるまったからこそ、主人が必要なものを買えるお金をその価値観と共に手に入れることが出来たのだ。
恐らくマーリンも今頃、言葉巧みにあのギルド員から情報を集めているに違いない。
マリエルも負けぬよう、この数日で地位の高い人間とかかわりを持ち、その心を見極めなければなかった。
(まぁここまで手間をかけずに強硬策にでて、この都市と敵対したとしても、蛇女と巨鬼であれば勝てるのかもしれないけどっ)
と、そこまで考え、やはり自分の無力さに顔をしかめたマリエルは、ようやく見つけられた人気の少ない、薄暗い裏路地に入っていった。
(それにしても、爺の「相手がこういう対応をしてきたら~」って言うたとえ話は、ほとんど的中するわね)
マーリンがリーダーになったのを納得させられる出来事にまた不機嫌になってしまう。
しかしここでミスしては愛する主人に申し訳が立たぬと、マリエルは思考を切り替える。
マリエルは周りに隠された気配が増えたことを感じてから足を止め、声を出す。
「いったい何の用?」
するとマリエルの前方に20人ほどの人間が姿を現す。
その中の一人が前に進み出てマリエルに声をかける。
「どうもどうも」
「不細工ががん首そろえて一体何の用?」
「ははは、気の強いお嬢さんだ。さすがは森の悪魔を狩る者」
「知っていてちょっかいをかける気?」
「えぇ」
「大した自信ね?あなたそんなに強いのかしら?」
「私たちはそんなに強くはありませんよ?ですが頼もしい仲間がおりますので」
マリエルを取り囲む男たちはニタニタと笑う。
「えぇ、でもそのお仲間を見た上で言ってるのよ?貴方も人の話を聞けない馬鹿なのかしら?」
「確かに私の育ちはそんなに恵まれておりませんので、馬鹿かもしれませんが……」
男はにたりと笑い言葉を続ける。
「そちらこそお忘れではないですか?」
男が指をパチンとならす。
すると背後からも20人ほどの人が出てきた。
「今は背後を守る相方は居ないんですよ?」
「随分手の込んだ演出ね」
男はニタッっと口を変形させる。
「お気に召しましたか?」
「全く、それで次は?」
「美しいお嬢さん、おとなしく我々についてきてください」
「嫌だけど?」
うさん臭く笑みを浮かべながら話す男の言葉をマリエルは一言で切り捨てる。
その言葉を聞き男はゲラゲラと笑う。
「嫌と申されましても、もう我らのテリトリーに入ってきてしまってるのですから、おとなしく言うことを聞いた方が身のためですよ?」
凄みを聞かせる男だが、マリエルには気にする事もなく、その場から動こうと足を動かした。
「我儘なお嬢さんだ」
そう言って男が合図をすると。
数名の男たちが手を掲げ呪文を唱える。
すると、マリエルの足元が黒く鈍く光り、その中から出てきた何かがマリエルの足に絡みついてくる。
「これは……」
「勝手に動かないでもらいましょうか?強気なお嬢さん」
マリエルの恐怖心を刺激しようしているのか。
腰から出した刃物を見せつけるようにしながら、男たちがゆっくりと近寄ってくる。
だというのに当のマリエルは。
「で?これだけ?」
と何でもなさそうに足元を見つめるのだった。
「ふふ、随分と強がりなお嬢さんだ」
「は?本心なんだけど?」
「体は動かず魔力はうまく練れなくなく呪縛です。貴女がどんな戦い方するかはしりませんが――」
マリエルは呆れたようにため息一つ吐くと、足を動かした。
その瞬間足元に展開されていた呪術は跡形もなく消える。
「へ?」
男たちは思わず動きを止める。
天使のマリエルは大抵の呪術は弾いてしまうのだ。
そんなことを知るわけもない男たちは、目の前で起きた現象を理解できず驚愕に飲まれている。
「で?これだけ?」
マリエルは先ほど言った言葉を、再度男たちに声をかける。
男たちは目の前で起きたことが信じられなかった。
裏路地で必勝を誇るこの戦法は、スタンピートの時にも多くの魔物を封殺してきた。
それがまさか一人の女に打ち破られる日がこようとは。
もしかしたら自分たちはトンデモのないものに手を出そうとしてしまったのではないか。
そう感じた男たちは、我先にと踵を返し逃げだした。
「は?人の話無視して逃げるの?」
マリエルは不満そうに自身から強い光を発する。
背後に生まれた光によって、男たちの前に濃い影が出来る。
そしてその影の中心から勢いよく伸びてきた細い針によって心臓が貫かれたことを感じ
男たちは、何度目かの驚愕に包まれながら永遠の眠りについたのだった。
ただ一人を除いて。
「は……はは、なんだこりゃ」
マリエルに話しかけていた男にできた影は、ほかの男たちと違い、その動きを封じるだけだった。
「ご苦労さま」
マリエルが宙に声をかけると、男の動きを封じていた影の足元から一人の女が出てきた。
「ひぃぃぃぃ」
あまりの恐怖に悲鳴を上げる男。
しかしその行為は次の瞬間、鳩尾と喉を的確に打突されたことで音のない悶絶へと変わる。
男が地獄の苦しみを味わう中、マリエルと影の中から出てきたヴァイオレットは言葉を交わす。
「意外とやるじゃない」
「影が濃い、なら余裕」
「じゃあ私のおかげってわけねっ!」
マリエルは先ほどまでの殺伐とした空気はどこにやったのか、腰に手を当て、フンッと息を漏らす。
そんなつかみどころのないマリエルの姿にヴァイオレットは思わずため息をつく。
「はぁ……そういうこと」
「じゃ後の処理は任せるわよ。私は上の方にいって色々探るわ」
そして再び一転してつまらなそうな顔になったマリエルは、スタスタと表通りに歩き出す。
しかし急に振り返りヴァイオレットにズバッっと指を向け。
「私がここまでおぜん立てしてあげたんだから、ちゃんと下街の情報吸い上げなさいよっ」
「わかってる、主様の為」
「ふん、いいわ、その言葉信じたわよっ!」
そう言って今度こそ歩き出すマリエル。
裏路地には、冷徹な瞳のヴァイオレットと
それに睨まれ呼吸をすることも忘れた男だけが残っていた。
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