業炎の狼VS双頭の巨蛇
4時にも1話投稿してます。
お気を付けください
先攻は双頭の大蛇だった
大蛇はロードに戦う意思がないことを感じ、ケルに4つの瞳すべてを向けた
ケルは双頭の動きに合わせてカウンターを叩き込む算段であったがその計画は脆くも崩れ去る
「犬っころ後ろだッ!!」
ロードの声に背後を確認することなくその場を飛びのいたケルが横目に見たのは、自分のいた場所を串刺しにするように振り下ろされた蛇の尻尾だった
否が応でも警戒せざるを得ない双頭という存在が、まさかの囮
恐らくこれが双頭の常套手段なのだろう
まんまと引っ掛かってしまったケルは、己が情けなく「グルゥゥゥ」と喉を鳴らす
そして飛び上がったケルを、迷うことなく噛み殺しに来る大蛇
本来であれば尻尾が必殺で、万が一が起きても身動きのとれぬ空中で大きな顎が二段構え
普通はそこで勝負がつくが、ケルは普通ではなかった
ケルは尻尾と後ろ脚から炎を勢いよく噴射させ、空中で地面を蹴るように加速する
それを追いかけるように迫りくる大きな咢
ケルの爆炎を見て尚、魔法等を使うことなく、その鋭利な牙で仕留めに来るのは、魔法が使えぬ魔物なのか、それとも、炎の性質を理解して一瞬であれば耐えられると判断し、その間にかみ殺す戦法なのか
大蛇の真意がどちらにせよ、その大きな顎で噛みつかれれば怪我をする恐れがある
ケルとて防御力に自信がないわけではないが、大物の体重の乗った最大攻撃で互いの攻撃力と防御力の勝敗を判断する気など起きなかった
そこで万が一怪我をしようものなら、名をつけてくれた主人に申し訳が立たない
何度目かになるの大蛇の咢が空を切り、リズムよく追撃が迫る
ケルは大蛇の動きを冷静に見ていた。
そして攻防を繰り返すうちに反撃の起点を見つける
ケルは自身に迫る大蛇の軌道を冷静に見極め、業炎を器用に使い、位置をずらす。
丁度、大蛇の頭が自身の頭上すれすれを通過する軌道を取った
そして頭上を咢が自分をかすめた瞬間
シュゴォォゥッ
とまるで鉄を溶接するためのバーナーのような鋭い炎を背中にあるたてがみから噴射した
それは今まで見せていた爆風を伴う炎ではなく、力を一筋に集中させた炎の刃であった
大蛇の勢いは止まることなく、ケルの出す炎の刃で自ら喉を切り裂く形になってしまう
サイズ差ゆえに貫通まではしなかった刃だが、大蛇に激痛を与えることには成功したようで、大蛇は強烈にもがき始める
暴れる巨体に巻き込まれぬように、ケルは再度炎を噴射し大きく距離をとった
そして口を大きく開け、その先に業炎を集め出す
炎は小さいながらもすさまじい熱量を内包した火球となり、表面からパチパチとフレアを発し始める
あまりの熱量に周りの草木も急激に水分を失い乾燥していく
もうすぐ辺り一帯が火の海になろうかというとき
大蛇がケルをとらえた
十分に力をためたと判断したケルは、勝負を決めるため大蛇の首の合流地点に向けて火球を発射した
双頭の大蛇はその攻撃を避けられぬと見るや、先ほど喉を裂かれた方の頭を火球にむけて突き出した
ゴォォォォン!!
火球は盛大に破裂した
辺り一帯が焼け野原になるかと思われたが、同時に発生した爆風がすぐさま火をかき消した
大蛇は首の片方を失っていた
もう片方の首も半分ほど焼け焦げており、ダメージを殺しきれなかったことが伺える。
先の一撃で仕留めきれなかったことは残念だが、今が仕留めるチャンスと、ケルは勢いよく走りだす。
しかし大蛇も黙ってやられるようなことはない
ケルの進路上に置くように尻尾の攻撃を重ね。ケルの勢いを削いでいく
急制動を繰り返し大蛇に迫ろうとするケルだが、逃げに関しては大蛇が一枚上手で、攻めきれずにいる。
そうこうしているうちに焼け爛れた鱗は元通りになり、千切れた首の断面がモコモコと盛り上がり、次の瞬間新しい首が生えてきてしまった。
どうやら傷口が焼けていようがお構いなしに復活するらしい
戦いが降り出しに戻ってしまった事を感じたケルは一度距離を取り、冷静にプランを練り直す
すでに一度大技を放っており、細かな急制動を繰り返し消耗しているケル
大蛇が回復にどれだけの体力や魔力を使うかは知らないが、ケルのように常に能力を使っているわけではないので、体力比べでは大蛇に軍配が上がるだろう
なるほどどうして相性が悪い
ケルはロードの発言が現実となってしまった事に対し、牙をむき出しにして悔しさを表す
残った体力で双頭の大蛇を倒す算段を練りたいケルだったが、双頭の大蛇はケルに主導権を渡す事を恐れたのか勢いよく突っ込んでくる
ケルは今だ撃退する完全なプランが見えない中、死中に活を見出すため、その四肢に力を籠める
そして双方がぶつかり合おうとするその時
唐突にケルの身体が消えた
双頭の大蛇は混乱する
今まさに喰らいついてやろうとしていた燃える犬が消えたのだ
攻撃に時差をつけるために、犬がどんな回避行動をとってもいいように少し後方から、その動向を見つめていた大蛇にも、その姿をとらえることはできなかった
あまりの早業
先ほどまでにしていた、移動する際に放っていた目印のような爆炎もなかった
完ぺきに意表を突かれた大蛇は、ケルの居場所を探ろうと、その首を大きく動かそうとした
だが首は微動だにしなかった
「!?!?!?!?!」
大蛇の混乱は加速する
一体何が起きたというのか
そんな混乱をますます深める声が大蛇の後ろから聞こえてきた
「グアーッハハハハハハッ」
大蛇は動かぬ頭で、視線を必死に後ろに動かした
そして驚愕する
なんと、先ほど戦線を離脱したはずの巨鬼が己の身体を足で踏みつけ、首根っこを両手でつかんでいるではないか
大蛇には理解できなかった、犬との闘いで鬼がいた場所とは盛大な距離が空いていたはずである。
最後の突進時にも、鬼の姿ははるか遠くにあった
その距離を認識できぬほどの速さで0にしたなど
常識では到底不可能なことを、今大蛇の上に立つ巨鬼は成したのだ
双頭の大蛇は恐怖した
圧倒的な回復力に身を任せすべてを飲み込んできた大蛇が、生まれて初めて感じる恐怖
その恐怖の根源は高らかに笑う
「グアーッハッハッハッハ!よくやった犬っころ!こやつは超絶的な回復力を持つ蛇であった!つまりだ!」
ロードは両手に包んだ頭を愛おしそうに見つめる
「食料が無限に手に入るという事だっ!これがどれほど偉大かわかるか、犬っころ!」
ケルの返事はない
しかしロードは気にせず続ける
「新しい場所で一番困るのが食料。軍を起こすときに一番困るのも食料、この世で侵略者や統治者が一番頭を悩ませる問題をこいつはその身一つで解消できるのだぞっ!グハハハ!これはよい手土産ができたわ!!グアーッハッハッハッハ!!」
と、ひとしきり笑ったロードは、そこでようやくケルの反応がないことに気が付く
「む?ケルよどうした?余の偉大さを褒め称えぬとは、万死に値するぞ?」
きょろきょろとあたりを見渡したロードは遠く離れたところにケルの姿を認めた
ケルは
ボロボロだった
それもそのはず。前方にその注意をすべて向けていたところに、圧倒的な質量をもつロードのぶちかましを不意打ちでくらったのだ。
人間でいうならばキャッチボールの球を受け止めようとしてたらいきなり後ろからダンプカーが突っ込んできたようなものである
ケルの象徴である炎はすべて消え、プスプスとかすかな黒煙を発するだけになっている
自信のあったケルのSSランクの防御力は、ロードの持つXXXの攻撃力の前には紙同然の働きしか成さず、ケルの全身はぼろきれのように姿を変えた
「犬っころぉぉぉぉぉぉ!?!?」
ロードはあまりの惨状にひどく絶望した
先ほどまで自身を包んでいた興奮は瞬く間に冷め、なぜだか走馬灯のようにここまでの幸せな散歩道が思い出された
元気に吠えていたケル
幸せそうに笑っていた自分
アハハ、ウフフ、ワンワン
脳内に流れる幸せなヴィジョンは現実の500倍くらい誇張されていた
その幸せそうなケルと、無残にも崩れ落ちるケルとのギャップがロードを襲う
「……」
その惨状を生み出したのは自分自身なのだと気づいていたのか、それとも気づいて尚、現実から目を背けたのかは定かではないが、怒りに胸を焦がすロードは、その矛先を手中にある二つの頭に向けた
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ」
今世で一番の雄たけびである
その雄たけびが発するあまりの重圧に、双頭の大蛇は生まれて初めての絶望を感じた
「アアアアアアアアアアアアアアアッッ」
メキメキとひびの入る頭蓋
プチプチとつぶれる身体
あぁ、もう助からないと悟った大蛇は
「貴様のせいだぁぁぁぁぁ!!!」
自分の回復量以上の理不尽が此の世にあるのだということを、蛇生の終末に知ったのだった
ってなわけで、10話で感じたプレッシャーはロードの悲しみの雄たけびでした
ロード「喰らえ正義の鉄拳!!」
蛇「理不尽!?」
修正してる時に気づいたのですが、評価ポイントが増えておりました(´;ω;`)
本当にありがとうございます、元気出ました。
次回も楽しんでいただければ幸いです。