第6話
目が覚めると、真っ白な天井が目に入った。体を起してみると、ここは保健室で僕はベットで寝ていたということがわかった。
少し足が痛いが、もう大丈夫だろう。ベットから出て、時計を確認した。
時計の針は午後4時を指していた。そろそろ今日最後の授業が終わる時間だ。
「あら、起きたのね」
保健室の先生が椅子に座って、こちらを見ていた。机には書類が散乱している。
「あ、はい」
「もう大丈夫そう?」
「はい、ありがとうございました」
「クラスの子にもお礼を言っておくのよ。特に君を運んでくれた翼君にね」
「わかりました。それでは」
僕は教室に向かった。まずい、先生に何て言えばいいんだ?
いい訳を考えながら歩いていると、あっという間に教室に着いてしまった。
しょうがない、素直に謝るしかないか。
覚悟を決めて、僕は教室のドアに手をかけた。
「お、悠斗が帰ってきたぞー」
誰かがそう言うと、みんなが拍手をした。周りは「よくやった!」「お疲れ様!」「ありがとう!」と言っている。
いまいち状況がつかめないままで立っていると、翼と彩音が寄ってきて説明してくれた。
「悠斗!よくやったな。体はもう大丈夫か?」
「あ、翼。保健室まで運んでくれてありがとう。保健室の先生から聞いたよ」
「そんなの気にするな。それより、お前よくルイスを説得したな。みんな感謝してるぞ」
「どうゆうこと?」
「お前が倒れた後、ルイスがみんなの前で謝ったんだよ。「悪く言ってごめんなさい」ってな。その後、何があったかも全部話してくれたよ」
「そっか。よかった」
「無茶しすぎよ!ボロボロじゃないの」
「えっと、ごめん」
「べ、別に、怒ってるわけじゃないわよ!ただ、あんまり無茶はしてほしくないというか、ボロボロのあんたは見たくないというか……」
「うん、ありがとう彩音」
「……うん」
「その後もな、周りのやつと話すようになったんだ。まだぎこちないけどな。それでも大きな一歩だよ」
「そうか、そのルイスは今どこに居るの?」
「お前が来る前に出て行っちまった。空を見に行くとか言って」
「空を……」
少し考えて、僕はもしかしたらと思って廊下に向かって歩き出した。
「どこか心当たりがあるのか?」
「もしかしたらだけどね。行ってくる」
そうして僕は廊下に出た。クラスのみんなは拍手をして送り出してくれた。
もしかしたら、ルイスは秘密の場所に行ったんじゃないのかと思い、屋上を目指した。
「やっぱりここに居たんだ」
「悠斗……」
僕の予想どうり、ルイスは屋上に居た。見上げた空は赤みがかかったオレンジ色に輝いている。
ルイスの頬を見るとまだ少し赤かった。痛かっただろうな。
「ごめんなさい、女の子を叩いたりして」
「いいの、あれは私がいけないことを言ったから。だから謝らないで。」
「でも……」
「それとも、あの時に私が言ったことは間違いじゃなかったの?」
「ううん」
「じゃあ、謝らないで。私が悪いんだから。痛かったけど、怖くなかった。今まで私を本気で怒ってくれる人が居なかったからわからなかったけど、あなたは怖くなかった。むしろあなたにそこまでさせた罪悪感があった。ごめんなさい」
「いいよ、そんなこと気にしないでよ」
「ありがとう、悠斗は優しいんだね。きっといいご両親に育ててもらってるのね」
「……僕の両親はもう居ないよ。3ヶ月前に交通事故で亡くなってるんだ」
「え!?ご、ごめんなさい。私なんてことを」
「大丈夫だよ。だから僕は一人はだった。本当につらかった、家に帰っても誰もいない。そんなのがもう当たり前になっちゃったからね。だから、ルイスには一人になってもらいたくなかったんだ。こんな思いしてもらいたくない。無理やりだったけど、ごめんなさい」
「だから、悠斗はそこまでして…私を?」
「あんな思いは誰もしない方がいいんだよ。クラスの人は簡単に人を裏切ったりはしない、たとえ誰かが裏切ったとしても、僕はずっとルイスを裏切ったりはしないよ。ルイスを一人にしたりしないから」
そう言って、ルイスを見るとその場に崩れ落ち、小さく嗚咽をもらしながら泣いていた。
「……ごめん…なさい。私…なんてことを……」
僕はルイスが泣きやむまでずっとルイスの隣にいた。空は夕日から夜へと変わろうとしていた。
もう少し続きます。