第5話
僕はグランドを目指して走った。靴を履き替えるのも忘れて、ひたすらタンポポを探した。
だがなかなか見つからず、草むらに突っこんでは探し続けた。
そして、なんとか15このタンポポを見つけた。思ったより時間がかかってしまったので、急いで教室に戻る。
ずっと走ったせいか、膝が震えている。肺も痛くなっていた。けど、ここで諦めるわけにはいかない!
「取ってきた!」
靴は泥だらけになってしまったので、靴は脱ぎ捨てて走った。みんながびっくりしてこちらを見ている。黒板には自習と書いてあった。
黒板の前ではルイスが腕を組んで立っていた。僕はルイスの前にタンポポを15こ置いた。
「さあ、次はなに?最後のはずだよね」
「そうね、それじゃあ最後は……」
「ちょっと、悠斗!あんた何してんの?なんでそんなボロボロなのよ!?」
椅子から立ち上がり、彩音が大きな声で僕に言った。
答えを待つようにみんなも見ている。
「なんでもないよ、気にしないで」
「そんなわけないでしょ!あんた、手足が泥だらけじゃないの!制服だってボロボロじゃない!?」
「あぁ、ごめん。あとで洗うよ」
「そうじゃないでしょ!ルイスがこんなことさせてるのね?ちょっとルイス!どうゆうつもり!?」
「なんでもないわ、彼がやりたいと言うからやってもらってるだけ」
「ふざけないで!あんた、悠斗がどんな気持ちかも知らずに……」
「彩音!僕はいいから」
「でも。それじゃあ悠斗が……」
「僕は大丈夫だから。ありがとう、彩音」
「じゃあ、最後は屋上に出て空の写真を撮ってきて」
「屋上って……今はカギがかかってて出れないはずじゃない!」
「わかった」
「ちょっと悠斗!?」
「大丈夫、いってきます」
屋上に向かおうと歩き出した時、机に引っかかって派手に転んでしまった。痛い。
「大丈夫!?あんた手、擦りむいてるじゃないの!血出てるわよ!?」
「平気だよ。時間無いから急がないと」
「何で……そこまで……」
彩音が瞳の涙を溜めながら僕に聞く。そんなの、決まってるじゃないか。
「ルイスが一人にならないようにだよ。今度こそいってきます」
「……っ。頑張れーー!悠斗!」
彩音が叫ぶと、みんなも「頑張れーー」「いってこーい」「男を見せたれー」と言って送り出してくれた。彩音は泣いているように見えた。
僕は廊下に出て、一直線に屋上を目指す。途中で、何回か転んでしまった。本格的に足が思いどうりに動かなくなってきた。
やっとの思いで屋上に出ると、僕は携帯を構えて写真を撮った。雲は少しあるがとってもいい天気だ。
時間もあまりないので、すぐに教室に戻る。これで最後なんだ、頑張ってくれ僕の足。
「取ってきた!」
教室に入ると、うおーーー!っとみんなが声を上げた。僕は黒板の前で立っているルイスの元へ歩いて行き、携帯を開いて空の写真を見せた。
「これで最後なんだよね」
「そうね。最後に質問に答えて。あなたはどうしてここまでするの?途中で止めて、教室に戻っても良かったはず。第一、私が約束を破るかもしれないじゃない。それでも止めずに、ボロボロなってまでどうしてやったの?」
「僕はルイスが約束を簡単に破るような人じゃないと信じた。途中でやめたって、何も変わるわけじゃない。僕がボロボロになるくらい別にいい。それでも、僕はルイスに一人になってもらいたくはない」
「ほっとけばいいじゃない!私はこんなクラスに友達なんていらない。ずっと一人でいいの!」
「ごめん」
「えっ?」
僕はルイスの頬を叩いた。パァンと乾いた音が教室に響く。
「みんなルイスと友達になろうとしてくれてるのに、「こんなクラス」とか言っちゃダメ。確かに裏切られたりはするかもしれない。それでも、クラスのみんなはルイスを受け入れようとしてるの。ルイスはそれを裏切っちゃダメ」
「なによ……なんでよ……」
「みんな、いい人たちだよ。だから……だい…じょうぶ…」
「悠斗!?」
そこで僕は意識を失ってしまった。ルイスが何か言っていた気がするが、僕には届かなかった。