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夏休みの話 3

僕は夕食のカレーを作るために家庭科室にいた。周りにはほとんどの卓球部員が集まってそれを見に来ていた。


「はい、先輩。エプロンです」


「あ、うん。ありがとう」


何気なく渡された白いエプロンをなんの抵抗もなくそのまま身につける。


「…先輩、エプロン姿に違和感がないですね」


「そうかな?」


「普通は嫌がって身につけないと思ってたのに…。あ、手伝うことあったら手伝いますね」


「ありがと。じゃあ、玉ねぎの皮剥いてくれるかな? 僕はじゃがいもの皮剥くから」


「はい! あ、先輩、ピーラ―ならこっちに…って早っ!?」


「ん? あぁ、ピーラ―なら使わなくても大丈夫だから」


そう言って、僕は包丁でじゃがいもの皮を剥いてゆく。これくらいは当り前のようにできる。1個剥き終わると周りがざわめき始める。


「ね、ねぇ、都住先輩めっちゃ手際いいね」「私、じゃがいもすらまともに剥けない気がするんだけど…」「すごい…」


ざわざわするのをお構いなしに、僕はどんどんとじゃがいもを剥いて行く。続けて、人参も剥き始める。


もちろん人参も皮を剥くときは包丁だった。1個1個剥いてゆくたびに周りが手品でも見たように驚いていた。


「あの、先輩、私が手伝っても邪魔にしかならないと思うので存分にやってください」


「了解~」


僕はてきぱきとカレーを作ってゆく。周りの驚いた顔とかはもう慣れた。


30分経過…


「うん、できた」


カレーが完成した。さすがに40人分を作るのは大変だった。


「あ、じゃあ男子達呼んできますね」


そう言って1年の女子が2,3人で廊下に出てゆく。残った女子は盛りつけとか片づけとかを手伝ってくれた。


「女の子なのにこんなことぐらいしかできないとは…」「先輩には絶対に勝てない気がする…」「最強ですね…」


女子が落ち込んだように見えるのは気のせいだろう。


遊んでいた男子も集まって全員で夕食にする。…いつの間にか先生も混ざっていた。


「よし、それじゃあ、作ってくれた都住に感謝しつついただきまーす」


「「「「いただきまーす」」」」


そういえば、翼とか彩音とかには食べてもらったことはあったけどそれ以外は初めてだな。みんなの口に合えばいいんだけど…。


「「「「う、うまい!」」」」


「ほっ、よかった」


思わずホッとした。そして、うまいと言ってもらえたので少し嬉しかった。


「まだおかわりはあるけど、早いもの勝ちだからね」


「ホントにおいしいですよ、先輩」


七海さんが隣の席に寄ってくる。すでに二杯めのカレーに取り掛かっていた。


「口に合って良かったよ。みんなに喜んでもらえたから作った甲斐があった」


「それにしても、先輩は完璧ですね。一家に一台欲しいくらいです」


「そんな家電みたいに言われても…」


「だって、家事は完璧。勉強も出来て、卓球も出来て…言うことないじゃないですか!」


「そんなことないよ。スポーツは卓球くらいしかできないし。完璧ってわけじゃないさ」


「それでも、この中の女子の誰よりも女の子ですよね。先輩、生まれてくる性別を間違えたんじゃないですか?」


「何気にひどいことを言われた気がする…」


「あ、あの都住先輩!」


大きな声で呼ばれたので振り返ると一年の女子が三人いた。いつも仲良しの三人だったはず。黒髪でちょっと背の高い子が一歩踏み出す。


「はい?」


「都住先輩、料理を教えください!」


「はい!?」


「私たち全然料理ができなくて…。今日の都住先輩見てたら憧れたので…ぜひ、教えてください!」


「「お願いします!」」


女の子三人が同時にビシッと頭を下げる。突然の事に僕は少し戸惑ってしまう。


「えーっと、僕も人に教えるほど出来るわけじゃないんだけど…」


「だったら、基礎だけでもいいのでお願いします!」


「うーん」


三人とも真剣な表情でこちらを見ていた。…正直、僕もそこまで時間があるわけじゃない。けどまぁ…。


「じゃあ、基礎くらいだけでいいなら」


「本当ですか!?」


「うん。自信ないけどね」


「「「ありがとうございます!」」」


「それじゃあ、空いてる時間作るからできたら教えるから」


「はい! お願いします!」


ありがとうございましたー、と言って三人は満足そうな顔をして教室を出て行く。それにしても僕が料理を教えるのか…。


「もちろん、私も参加しますよ!」


「え、七海さんも!?」


「もちろんですよ! こうなったら卓球部女子全員でやりましょうよ。どうせみんなできないんだし」


「いやいやいや、みんなは無理でしょ! 教えきれないよ」


「それもそうですね…。じゃあ、さっきの三人と私と私の友達一人の五人でいいですか?」


「まぁ、五人なら大丈夫かな。七海さんの友達って?」


「ん、優衣ですよ。私とダブルス組んでる」


「あぁ、中武優衣なかたけゆいさんか」


「楽しみですね!」


「すごいはしゃいでるね。明日もその調子で合宿頑張ろうか」


「もちろん! 明日も頭をなでなでしてもらえる権利を勝ち取りますよ!」


「またそれやるんだ!?」


こうして、七海さんと楽しく話しながら卓球部合宿の長い一日目は終了した。


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