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第33話


「はぁ~、喉が痛い…」


僕は布団の中で呟いた。朝起きたら、寒気+鼻がつまってる+喉が痛いの3コンボ。なんとか体温計を見つけてきて測ると38.4もあった。しかたないので、翼に「風邪引いたから学校休む」とメールして布団にもぐった。


「風邪薬どこやったけ…?」


風邪を引いたのなんて小学校以来かもしれない。風邪薬が薬箱に入ってればいいけど…。探そうと思ったとたん、携帯が震えだしたので開いてみると翼からメールだった。


『学校終わったら行くから、必要なものあったら言ってくれ』


『ポカリスエットとプリンが欲しいです(*^^)ノ』


それだけ返信して、風邪薬は何か食べてからの方がいいと思ったので寝ることにした。




「んぁ……」


携帯のバイブレーションで目を覚ました。確認してみると、翼からメールだった。


『授業終わって、買い物も済ませて、今外にいる。開けて、寒い』


僕は立ち上がり玄関の扉を開けた。そこには翼とルイスと彩音と七海さんと夏希さんもいた。こんなに多人数で部屋に入るのだろうか……。


「おーす、大丈夫かー? なんかまだ眠そうだな」


「さっきまで寝てたからね。とりあえず入って」


僕は布団に戻った。そして、僕の布団を囲むようにルイス達が座る。夏希さんがお粥を作ってくれるみたいで台所を使っている。


「これ、ポカリとプリンは冷蔵庫に入れておくな」


「あぁ、ごめん。ありがとう」


「それにしても、もう大丈夫そうね。突然風邪引いたって聞いてビックリしたんだから」


「ごめん、ルイス。でも、もう大丈夫だから」


「そんなこと言って治りかけが一番危ないんですからゆっくり寝てて下さい」


「七海ちゃんの言う通りよ。悠斗は寝てなさい」


「…そう言いながら七海さんと彩音は何してるの?」


七海さんと彩音は周りを見ながらうろちょろしていた。あんまり部屋の中を見られたくはないんだけどな…


「いえ、先輩の部屋初めて来たなーって思って」「悠斗の部屋は意外と汚れてないなーって」


「大人しくしてて下さい…」


みんなそれぞれ自由にしている。普段の僕ならすぐに部屋を出ようと促すが、今はそんな元気はないので黙っている。


「悠斗様、お粥ができました。起きれますか?」


「あ、はい。すいません、わざわざ……」


「いえ、お口に合えばいいですが…」


「いただきます。……ん、おいしいです」


「よかった。それだけ食べましたらお薬をご用意いたしますので」


「ありがとうございます」


夏希さんが作ってくれたお粥を全部食べてから、薬を飲んで布団に入った。…さっきまでずっと寝てたから今はもう眠くはないけど。


「悠斗ー、これアルバム? 見ていい?」


「別にいいよ…」


許可を出すと、四人がアルバムを囲むように集まって見始める。僕もずいぶんアルバムを見ていないなー。


「うわぁー、この頃の悠斗ちいさいー」


「ホントですね。小学校くらいの写真ですかー」


「かわいい……」


「悠斗、小学校ってあたしより背が低くなかった?」


「あ、ホントだ。この写真が証拠写真だ」


みんな笑いながら僕のアルバムを眺めていた、僕はボーっとしながら布団に入る。みんなに風邪うつしたら悪いな、マスクをしておこう。


「あれ? 中から何か出てきたけど…。ネックレス?」


「…あ。それはダメ!!」


僕は思わず大声で叫んだ。みんなびっくりして黙ってしまったので僕は思わず「ごめん…」と謝る。


「もしかして、昔の彼女とのやつ?」


「…なんでルイスが僕の昔の彼女のこと知ってるの?」


「あ…」


「もしかして、みんな知ってるの? 翼が話した?」


「「「「……」」」」


みんなが無言でうなずいた。なんでだ? 翼にはみんなには言わないように言っておいたのに…。


「どうゆうこと、翼? 説明してほしいんだけど」


「…こいつらなら話してもいいって思ったんだ。こいつらなら悠斗を支えてくれるって…」


「でも! そんな話したなら、もう僕はダメじゃん。そんな自分勝手なこと言ってわかってくれるはずないじゃん! あはは、また僕は一人になるのか…」


「落ち着け、誰もお前のことを一人になんて…」


「そうよ、みんな悠斗を一人になんてしなから…」


「…出てって」


「何?」


「出って。今は一人にして」


「……」


みんなが黙って出て行く。僕は布団の中でずっとうずくまっていた。最後の一人が出て行って扉が閉じる音を聞いてから僕は泣いた。誰も、こんな自分勝手な奴には一緒にいてくれはしないんだ。……僕はまた一人なんだ。


「うわあぁぁぁ……あああぁぁぁぁぁ!」


いつまでも泣き続けた。泣いてもどうしようもないとわかっていても泣かずにはいられなかった。いつしか僕は泣き疲れて寝てしまった。





「…はぁ」


僕は学校を無断欠席して三日が経った。この前、みんなにあんな態度をしてしまって合わせる顔がなかったからだ。それに、…僕はもう一人なのだ。


「今日も休もう…」


学校に行く気もしないので、部屋でずっとボーっとしているかほとんど寝ていた。誰とも話したくなかったと電源を落とした携帯にはメールと着信履歴が溜まっていた。


「翼、ルイス、翼、彩音、七海さん、ルイス、夏希さん……」


もう僕には構わないでほしかった。ただ、惨めなだけだった。もう…死んでしまっていもいいと思った。どうせ悲しむ人なんていない、何十億といる人口が一人減るだけだ。それに、父さんと母さんの元に行けるかもしれない。気付けば鞄からカッターを取り出していた。


「なんかもう疲れちゃったな……」


僕は無意識に右手でカッターを握り、カチカチと刃を出して左の手首にかざした。カッターを握る右手が震えているのは多分…怖いからだ。でも、これで父さんと母さんに会えると思うと少し怖くなくなる。


「父さん、母さん、ごめんなさい・・・」


「…っ! バカ!」


目をつぶってざっくり切ろうとした瞬間、突然ルイスが怒鳴って僕からカッターを奪った。ルイスが手に持っていたビニール袋が床に落ちる。


「何回もノックしたのに返事もしないからどうしたんだろうと思って勝手に入ったけど…、何してるのよ!」


ルイスは僕を睨みながら怒鳴った。


「…僕はもう疲れたんだ。別にいいでしょ…」


「いいわけないでしょ! 何考えてるのよ! だいたいこんなことしたら…」


「僕は死ぬだろうね。でも、それだけだよ」


「…この!」


パァン! と音が部屋に響く。一瞬何が起こったかわからなかったが、僕はルイスに頬を叩かれたと気付く。ルイスは僕の襟元を掴んで僕に怒鳴りつける。


「あなたは佐倉が自殺しようとした時に佐倉に「そんなことして、両親が喜ぶと思ってるのか!? 本当にそれでいいと思ってるのか!?」って言ったのよね! あれは嘘だったの!? 悠斗こそ、そんなことして…本当にそれでいいと思ってるの!?」


「……あれは」


「絶対に許さないからね! そんなことしたら!」


「僕は一人なんだよ。だから…」


「いつまでそんなこと言ってるのよ! クラスのみんながあなたを心配してるのよ。今まで休んだことがなかったあなたが無断で欠席してるって」


「みんなが……」


クラスのみんなが心配している? 別に僕がいなくても先生は来て授業が始まって、終わったらお家に帰って、その中に僕がいてもいなくても変わらない。だったら心配なんてされない…。


「はい、これ!」


ルイスが突然携帯を僕に押し付ける。画面を見ると通話中で、ルイスを見ると「早く出ろ」と言うので僕は携帯に耳を当てて話す。


「…もしもし」


『バカーーーーーーーーー!!!!!』


「彩音…」


『バカ悠斗! あんた自殺しようとしたんだって!? そんなことしたら承知しないわよ!』


「……」


『もしもし、悠斗?』


「翼…」


『久しぶりだな、この大バカ野郎』


「うるさいよ…」


『いつまでも一人だと思いながら引きこもってないで学校に来いよ。みんな心配してんぞ』


「なんで…」


『はぁ、このクラスでお前を心配してない奴はいないよ。なぁ! みんな!』


翼の声にみんなが「わー!」、と声を上げるのが聞こえる。『おい、いつまで無断欠席してんだ! 先生がパニくってるぞ。 そうだよ、悠斗くん早く学校来ないと勉強遅れちゃうよ? 都住が来てくれないと誰が宿題見せてくれるんだ!』と順番にみんなの声が聞こえる。


「…いいクラスだよね」


「ぐすっ、最高のクラスだよ。ルイス、ごめん…」


「ダメ、許さない」


「え!? じゃあどうすれば…」


「これから学校に行ってみんなの前で謝ったら許す!」


「…わかった」


僕は制服に着替えてルイスと部屋を出る。久しぶりに出た外は太陽が眩しかった。


そして、僕は教室に入るなりみんなの前で謝罪をした。彩音は僕を一発ぶん殴って「二度とこんなことすんな!」と涙目で言い、みんなは笑って許してくれた。先生にもいろいろ説明して反省文を書くことでなんとか許された。


七海さんも話を聞きつけて教室に来ていた。僕はいつの間にかひとりではなかった。また失うのが怖くて気付かないふりをしていただけだった。


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