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第32話


「悠斗ー、今日暇?」


突然、翼が僕に聞いてきた。授業が終わって、これから「さあ、帰ろう!」ってタイミングで。


「特に何もないけど…、なんで?」


特に何もなかった。バイトは休みだし、卓球部はなんか、先生が来れないということで自主練だから今日はいいかなー、と思って帰って本でも読もうと思ってたところだ。


「おぉー、よかったな、彩音。なんかな、彩音が悠斗に料理を教えてほしいんだってさ。お前がいいならこれから彩音の家でやるぞ」


「ちょ、ちょっと翼、強引すぎよ…」


「僕はいいよ。教えるって約束してたもんね」


「お、お前ら相変わらず仲がいいね~」


「うるさい! ほら行くわよ、悠斗」


ドカドカと、音を立てて彩音が歩いて行く、遅れないように僕と翼も歩いて行く。まずは食材を買いに彩音の家の近くのスーパーによって行った。


「それで、彩音は何か作りたいものはあるの?」


「……ツ」


「え?」


「…ロールキャベツ」


「ロールキャベツか。あれ、確か悠斗の好物じゃなかったっけ?」


「そうだよ、ロールキャベツは好きだね。じゃあ、必要な食材を探そうか」


「……バカ」


「……なんで?」


「あー、俺は入口のベンチで待ってるから。帰る時教えて」


「わかった。行こう、彩音」


「う、うん」


僕はカゴをカートに乗せて押していく、隣に並ぶように彩音がついて歩く。まずは野菜からかな、それからお肉と見て回って行く。そして、必要なものを揃えてレジに通して行く。大きなビニール袋一つにまとまったがとても重そうである。ここは男である僕が持つべきであろう。


「よっ…と、よし、行こうか」


「重いでしょ、あたしが持つわよ」


「大丈夫だよ、これくらい」


「…腕、プルプルしてるけど」


「ダイジョウブダヨ」


「じゃ、じゃあ……こうすれば」


彩音がそっとビニール袋の手を片方持った、さっきより少し軽くなる。彩音は顔を真っ赤にして俯く。


「ありがとう、彩音」


「べ、別にいいわよ…」


一つのビニール袋を二人で持ちながら翼を呼びに行き、そのまま彩音の家に向かった。僕は歩きながら彩音と今日の学校でのこととかをしゃべる。


「そういえば、数学の宿題出てるんだっけ?」


「そうだよ。プリントが一枚出てたね」


「悠斗、お願い! あとで教えて、あたし絶対にわからない」


「教えるだけならいいけど、丸写しとかはダメだよ。彩音は目を離すとすぐに写すんだから」


「わ、わかってるわよ!」


「……」


「どうしたの翼? さっきからずっと黙ってるけど…」


「…いや、なんでもない」


「?」


そうして、彩音の家に到着。家には誰も居らず、彩音に聞いてみると「この時間はどっちも仕事でいない」と返ってきた。


「それじゃあ、始めようか。えっと、必要なのはこれだけかな」


必要そうなものを揃えて彩音と台所に立つ。二人で台所に立つと少し狭い。翼はというと「邪魔しちゃ悪いし(いろんな意味で)、できたら教えて」と言って彩音の部屋でのんびりしてる。


「じゃあ、まずはキャベツを茹でて……」




30分後……




「「……」」


鍋の中には真黒になってしまったロールキャベツがゴロゴロしていた。原因は彩音が「火を強くすれば時間を短縮できるかも」と言いながら火を強くしてしまったことだろう。


「だからダメだって言ったのに…」


「う、うるさいわね! どんな感じかはわかったから、今度は一人でやってみるから悠斗は部屋に戻ってて!」


「でも、それじゃあ…」


「いいの!」


結局僕は彩音の部屋に追いやられてしまった。部屋には翼が一人で数学の宿題のプリントと格闘していた。翼ならあっさり終わらせてしまうのだろうけど。


「ありゃ、どうした? 彩音は?」


「一回失敗して、今度は一人でやるから部屋に戻ってろって追い出された」


「ははっ、そうか。まぁ、宿題でも終わらせて待ってようぜ」


「また失敗しなければいいんだけど…」


「彩音が一人でやるって言ったんだろ。だったらやらせてやろうじゃないか。……それに一人でやらないと意味がないからな」


「…なんで?」


「…お前は本当に大物だなぁ~」


「?」


翼はわけのわからないことを言い、「気にすんな」と言ってプリントとの格闘に戻ってしまった。しょうがないので、僕もプリントを取り出し計算式を書きこんでいく。




30分後……




「彩音ー? そろそろできたー?」


とっくに数学のプリントも終わって、翼も「そろそろ帰るわ」といって帰ってしまった。それなりに時間も経っているので、そろそろ出来ているだろう。


「…今用意する」


なんだかしょんぼりしているのは気のせいだろうか。僕は椅子に座って待っていると、彩音はロールキャベツを乗せたお皿を持ってきて僕の前に置いた。


「…やっぱり、今まで料理なんてしたこともないんだから出来るわけないよね…。せっかく教えてくれたのにごめん…」


申し訳なさそうに言って差し出したロールキャベツはいい匂いをしていたが形がぐちゃぐちゃになってしまっていた。少し黒くなってるところもある。


「いただきます」


僕は箸を持ってロールキャベツであろう物体を口に運ぶ。それを彩音は心配そうな顔で見ていた。


「む、無理して食べなくてもいいよ…っ。あたしが全部食べるから…。ぐすっ…」


「…おいしい」


「う、うそでしょ。コゲたりしてるんだし…」


「でも、おいしいよ。彩音が一生懸命作ってくれたんだもん」


「で、でも…」


「彩音、僕だって最初から料理ができたわけじゃないよ。最初はコガしてばっかだったし、ぐちゃぐちゃだったよ。でもさ、彩音は一生懸命作ったんでしょ? だったら、きっとうまく出来るよ」


「…なんの根拠もないでしょ」


「う、そうだけど…」


「やっぱりそうなんだー、いつでも悠斗はアバウトなんだから。もういいよ、料理なんてできなくても…」


「でも、僕は彩音の料理好きだよ。あったかくて、安心する」


「……」


「彩音?」


彩音は顔を慌てて伏せた。なんか顔が赤かった気もするけどよくわからなかった。どうしたのかな? なんか変なこと言ったかな?


「あー、もう! 悠斗はホントはっきりしないんだから! フォローするならもっとしっかりしなさいよ!」


そして突然立ち上がり、彩音は怒った風に言った。僕はビックリしたが、彩音が少し涙目になっているのに気がついて、可愛いと思って笑った。


「何突然笑うのよ! もう食べないならかたずけるわよ!」


「あ、食べるから。はい、おかわり」


そう言って彩音にお皿を差し出す、それを受取って形の悪いロールキャベツを盛り、僕に渡す。


「…バーカ」


結局、ロールキャベツはほとんど僕が食べてしまった。彩音は呆れたような顔をしていたが少し笑っていたようにも見えた。


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