第27話
「ふぅ、楽しかったな」
海から帰って次の日。僕は海でのことを振り返った。みんなで海で遊んで、まさかの女装をさせられて、夏希さんのこともいろいろあった。
「ところで、なんで僕はここにいるんでしょう?」
「そりゃあ、私が呼んだからだよ」
そう、今僕がいるところはルイスの屋敷の中だ。テーブルの正面にはルイスのお父さん、ユリウスさんが座っている。執事によってカップに紅茶が注がれる。
「夏希くんがお世話になったと聞いたからね。お礼のつもりさ」
「わざわざ、ありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこっちだ。君のおかげで夏希くんは助かったんだ。感謝している」
「いえ、大したことはしてませんよ。ただ、自分の考えをぶつけてただけですから」
「そのおかげで、夏希くんが救われたのは間違いないんだ。ありがとう」
「……はい」
「写真をルイスから見せてもらったよ。なかなか、メイド服も似あってるじゃないか」
「えぇ!? 見たんですか!?」
「嬉しそうに見せてくれたんでね。うむ、個人的には制服の方がよかった」
「どうでもいいですよ……。そういえばルイスは居ないんですね」
「ルイスは会議があるからって夏希くんと出かけてしまったよ」
「夏希さんと? そうなんですか」
「あぁ。よし、今日は最高のディナーを準備するから遠慮しないで楽しんでいってくれ!」
「はい、ありがとうございます」
その時、ルイスは夏希と共に車に乗っていた。そして、車はある人の家の前で止まった。ルイスと夏希は車を降りて、家のチャイムを鳴らす。
「あ、来た来た」
「「お邪魔します」」
そこは彩音の家だった。彩音の部屋に案内されて、ルイスと佐倉さんも来た。「よし…」と、俺は覚悟を決めて話し始める。
「さて、よく集まってくれた。これからちょっと話を聞いてほしい」
「ねぇ、何の話をするの? とりあえず、「大切な話があるから集まってほしい」としか聞いてないんだけど。あとなんで悠斗はいないの?」
「「「うん、うん」」」
「大切な話は悠斗についてだからだ。そして、悠斗には聞かれたくない話なんだ」
「「「「……」」」」
「そうだな…、これから話すことは正直いい話ではない。ショックを受けるかもしれないし、悠斗このことがわからなくなると思うんだ。だから、覚悟して聞いてほしい」
「どうゆうこと?」
「そうです。よくわからないですよ」
「そうだな…、悠斗の秘密にしてることを教えようと思う」
「それがショックかもしれないってこと?」
「そうだ、もしかしたら悠斗を嫌いになるかもしれない」
みんな黙ってしまった。「無理もないか」と思った。突然、悠斗のことを話し始めたんだ。でも…もう俺では出来ないことなんだ。
「正直、最近のお前達は悠斗に仲良くしている。それで悠斗も変わり始めてる。けど、あと少しきっかけが足りないんだ。もう俺では出来ない、だからここにいる誰かに頼みたい。……悠斗を助けてやってほしい」
「…私は残るわ」
ルイスが声を上げた。周りは戸惑っている。
「いいのか?」
「私は悠斗が好き…、この気持ちは本物だから。私が悠斗を助けたい」
「では、わたしも残ります」
続けて佐倉さんが名乗り出た。正直、この人は帰ると思っていた。
「あなたは悠斗と出会ってまだ1週間も経ってないですよね。悠斗のことは全然知らないはずじゃ…」
「それでも、悠斗くんはわたしを助けてくれたんだから、今度はわたしが助ける番です」
「私も残ります!」
「あ、あたしだって」
結局、全員名乗り出た。…ありがたい。悠斗、お前は本当にいい仲間と出会えたんだぞ。
「よし、わかった。じゃあ、話そう。悠斗の秘密だけど…、悠斗は本当は誰も信じていないんだ。あいつは昔にいじめられたことがあって、それ以来誰も信じようとしなくなったんだ」
「そんな…、あの悠斗が?」
「あたしはそんな話聞いてないわよ!」
「彩音には悠斗が話さなかったからな。それから、あいつは仮面をつけて本心を隠して道化を演じてきた。あいつはお前たちを助けた、けどそれ以上に自分を助けてもらいたがってるんだ」
「待って下さい、そんなのわからないじゃないですか!」
「そうよ、悠斗はあんなに強いじゃない」
「じゃあ、誰かあいつから弱音を吐いたのを聞いたか? 誰かあいつが泣いてるのを見たか?」
「「「「……」」」」
「あいつは誰にも弱音を吐かないし、いつも一人で泣いてるんだよ。…所詮、自分は一人なんだって思ってるんだよ。ホントは誰か構ってほしいって思ってるくせに、誰よりも甘えん坊のくせに諦めてるんだよ。あのバカは」
「なんで話してくれないのよ…」
「あとな、あいつ実は女子は苦手なんだ。昔に女関係でよくないことがあってな、それ以来、女子はよくわからないって言ってるんだ」
「昔の女関係ってなんですか?」
「それは本人から聞いてくれ。だから、特に女子は信用してないんだ。と言っても、俺にでさえあんまりあいつは本音を言わないからわかんないんだけどな」
「じゃあ、私たちじゃダメじゃないの?」
「いや、諦めるならそれでもいい。ただな、あいつは苦しんでるんだ。当り前だよな、誰にも頼らずにずっと一人でいようとしてるんだから苦しいに決まってる。だからな、誰でもいい、あいつを支えてやってほしい」
「翼はどうしてそこまでするの? 悠斗は親友だから?」
「それもある。けど、本当はあいつの両親に任せられたんだ。あいつの両親が亡くなる前に「悠斗はとても弱い子だから翼君、支えてやってくれ」ってな。だから、俺は今まで悠斗を支えてきた。……けど、俺は支える程度しかできないんだ」
「やっぱり、信じられない。悠斗はいつだって優しくて、心の強い人だったのに…」
「そんなことないんだよ。あいつは誰よりも弱いんだ。なんなら、明日、悠斗が一人で出かけるからこっそり後をつけるといい。少しは信じてもらえるかもしれない」
「明日なにかあるんですか?」
「それは行けばわかる。俺が言えるのはここまでだ。…あいつをよろしく頼む」
それだけ言って俺は部屋を出た。俺ができるのはこれくらいだ。あとはあいつらがなんとかしてくれるだろう。上手くいったとしても、ダメだったとしても。それが今の悠斗には必要だ……。