第26話
「うぅーん、もう朝か…」
カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚めた。目が覚めたけど、なぜか体が動かない。右腕ががっちりと誰かが抱きついているみたいだ。え…、抱きついてる? まさか……、僕は慌てて右を向いた。
「(―――!?)」
僕の隣ではルイスの専属メイドの夏希さんが寝ていた。僕の右手を抱きしめながらスヤスヤ寝てる。そういえば、昨日僕はロビーのソファーで寝ようと思ったら夏希さんに止められて一緒のベットで寝ることになったんだ。
「―――! ―――!」
寝ているので大きな声は出せない。しかし、完全に焦ってしまっている僕。あぁ、もう! 何でこの人は起きないんだ。さっきから腕にやわらかいものが当たってるって。ど、どうしよう、こんなとこ誰かに見られたら……。
「佐倉ー、体の調子は…どう…」
「えっと、ルイス…、おはよう?」
あぁ、とてもいいタイミングでルイスが入ってきた。ルイス固まっちゃったよ、めちゃくちゃ怒ってる!
「あの、ルイス、これは違うんだよ…」
「ゆーうーとー!」
「うわ、違うんだって、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ! このバカーーー!」
バチーーン! ルイスのビンタが僕の頬を襲った。あぁ、痛い……。眠気と共に僕は吹っ飛ばされた。
「ちょっと、佐倉! 起きなさい、そして事情を説明しなさい!」
「…ふぁ。あれ、お嬢様、おはようございます。早いですね」
「佐倉! どうして、隣で悠斗が寝てるの! 説明しなさい!」
「ルイス、佐倉さんが悪いわけじゃないよ! 僕が……」
「悠斗は黙ってて!」
「はい…」
怖い…、ルイスがめちゃくちゃ怖い。バイト先の店長より怖い…。
「はい、わたしが悠斗様に頼みました。お客様である悠斗様をソファーで寝かせるわけにもいきませんでしたので」
「…だとしても一緒に寝ることはなかったんじゃないの」
「他にもうベットは空いてませんし、これしか方法がありませんでした。それに昨日は誰かと一緒にいたかったので…」
「あ…」
「申し訳ありません」
「……わかった。ならしょうがないわね。……佐倉と二人で話したいから悠斗は席をはずしてくれる?」
「わかった」
僕は部屋を出た。それにしても二人っきりで話ってなんだろう。怒られてなけりゃいいんだけど……。朝食までまだ時間があるから外を散歩でもしてようかな。僕は外を出て海の方へ向かった。
「さて、佐倉、体の調子はどう?」
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「いいわ。…あなた、もしかして悠斗のこと好きになった?」
「え? いや、あの、わたしは…」
「わかりやすいわね…。そっかー、佐倉もなのね…」
「えっと、もしかしてお嬢様も?」
「そうだけど、彩音も桐原さんもよ。ホント悠斗は…」
「ちょっと待って下さい。みなさんそうなんですか!?」
「そうよ。だからみんなで遊ぼうって話になったのよ。早速、みんなに話しとこうかしら」
「待って下さい。でしたら、わたしは……」
「諦めるとか言い出すの?」
「……はい」
「あのね、なんでそこで諦めるの? みんなに気を使って? それとも、自分の立場はメイドだから? だったらそんなのは関係ないわよ。「あなたは私のメイドだから諦めなさい」なんて言わない。好きになったならそれはしょうがないじゃない。そこに立場は関係ないし、私もみんなも負けるつもりはないわよ」
「でも…」
「悠斗は佐倉を受け止めてくれたんでしょう。悠斗に甘えたんでしょう。だったら、逆に、悠斗を受け止めたいでしょう? 甘えさせたいでしょう? それとも、もう悠斗はどうでもよくなった?」
「そんなことあるわけないです! …諦めたくないです」
「それでいいのよ。簡単に諦められるわけないもんね。大丈夫、みんな呆れるだけよ。「またか…」って」
「はい…。ありがとうございます、お嬢様」
「ライバルね。私は負けないからね」
「はい、わたしも負けません」
「ふふ、佐倉はそのまま休んでていいわよ。悠斗が朝食を作ってくれるみたいだから。……その前に悠斗に謝っておかないと」
「都住様が外に出て行くのが見えましたよ」
「ありがと、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
私は悠斗を探しに外に出た。ふぅ…、それにしても佐倉も悠斗に惚れてしまったか…。相変わらずの天然ジゴロだ、本人は全く気付いてないみたいだが。それにしても悠斗はいつまで悩んでるつもりだろう。そろそろ答えを出してもいいと思うのに、悠斗は全然応えはくれない。もしかしてまったく考えてないのだろうか。
「だとしたら許せない……」
「なにが許せないの?」
「ふにゃ!? ゆ、悠斗」
「どうしたの? 難しそうな顔して。悩み事?」
「まぁね。悠斗はなんか寂しそうな顔してるけど」
「そんなことないよ……。それより、佐倉さんはまだ調子悪そうだった?」
「ううん、もう大丈夫そうよ。今日は1日休ませるつもり。食事の準備は悠斗にお願いしていい?」
「もちろん。彩音と七海さんは帰るんだよね。僕も帰る準備はしておかないと」
「あの、悠斗。さっきはごめんなさい。いきなり叩いたりして…」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。気にしないで。僕の方こそ誤解させるようなことしてごめん」
「いえ、私が勝手に早とちりしたのが悪いのよ。ごめん」
「でも、その原因は僕だからルイスは悪くないよ。だから…」
「……あは」
「……ははっ」
「「あはははははははっ」」
「ずっとお互い謝っててもきりがないわね」
「そうだね。そろそろ朝食の準備しようかな。ルイスは食べたいものある?」
「あ、それならハムエッグがいいわ。トーストとコーヒーで」
「了解。コテージ戻ろうか」
「あ、待ってよ!」
悠斗が前を歩いて行く。私よりも背が低いはずなのにその背中は大きく見えた。…やっぱり、悠斗といると楽しいな。悔しいけど、自分で思ってるより私の中で悠斗は大切な存在だ。でも、悠斗はどう考えてるんだろう? 私はまだ、ただの友達なのだろうか。どうなの悠斗? 苦しいよ、もう待ってるのはヤダよ、答えて…。そう心の中で訴えても声に出すことはできなかった。