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第23話

「………」


「おーい、そんなお前拗ねんなって、悠子」


「悠斗だからね! 少しは訂正しようとして!」


「よかったじゃないか、新しい自分に目覚めて」


「目覚めてないよ! もう二度としないからね!」


「えー、悠子ちゃんはもう見れないんですかー」


「それはもったいないわ。悠斗、考えなおして」


「悠斗、たまにでいいから…ね」


「あれこれ言っても、ヤダものはヤダ!」


全く、ひどい目にあった。携帯には大量の画像が送られてきている。……もちろん全部、僕の女装姿の写真たちだ。彩音たちは携帯見ながら笑ってるし、翼もニヤけてるし。はぁ…もう二度と女装はしないよ。


「さて、今日で最後なのよ! 思いっきり遊びましょう!」


「「「「わーーー」」」」


水着に着替え、四人は海へ走って行ってしまった。…って僕置いてかれてる!?  あの四人仲良くなったよなぁ。あ、ゴーグルないから部屋に取りに行かないと。


「えーっと、確かこの辺に…」


「………」


「あれ、佐倉さん。どうしたんですか? 顔色が悪いですよ」


「いえ……、なんでもありませんから……」


「そうですか?」


そう言って、僕は佐倉さんの額に手を当てる。あれ、ちょっと熱があるんじゃないか?


「あ、あの、大丈夫ですので」


「あ、」


佐倉さんは奥へと歩いて行ってしまった。本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なんだろうけど…、少し心配だな。たまに様子を見にこようかな。そう思い、僕はコテージを出て、海へと向かった。


「先輩、おそーーい!」


「遅いぞ! ちょっと泳ごうぜ!」


「あ、ごめん、パスする。ちょっと、ルイスいい?」


「何? どうかしたの?」


「聞きたいことがあるんだけど…」


「もしかして、佐倉のこと?」


「そうだけど、なんでわかったの?」


「私も佐倉のことで悠斗に頼みたいことがあったから……。一度コテージに戻りましょ。飲み物が欲しいし」


「わかった」


僕はルイスとコテージに戻ることに。それにしても、佐倉さんのことで僕に頼みたいことってなんだろう……、わざわざコテージに行くってことは彩音や翼にはあまり聞かれたくない話なのかな。そんなことを考えながらコテージに入った。


「他の人には聞かれたくない話?」


「そうね…、飲みのも持ってくるから……え、さ、佐倉!?」


ルイスは顔を真っ青にして床を見た。するとそこには佐倉さんが倒れていた。苦しそうに呼吸し、ぐったりしていた。


「大丈夫ですか!? ルイス、ベットに運ぼう。手伝って」


「わかったわ」


「よいしょっと…」


僕は丁寧に佐倉さんを抱きあげた。そして、僕の使っていたベットへと運んだ。額に手を当てるとすごく熱かった。汗もかいてるし、苦しそうだ。僕はタオルを濡らし、絞って持ってきて佐倉さんの額に乗せた。


「落ち着いたかな……。もう大丈夫だと思う」


「よかった……。ゆっくり休んでもらいましょう。ここで話は出来ないからロビーに行きましょう」


「ここで佐倉さんを見ていたほうがよくない? いつ目を覚ますかもわからないし」


「だからよ、佐倉に聞かれたくはない話だから…、お願い」


「…わかった」


僕とルイスは佐倉さんを残し、部屋を出た。ロビーに戻り、僕はソファーに座った。ルイスが冷えた麦茶を持ってきてくれる。


「ありがとう」


「どういたしまして。それでね……悠斗にお願いがあるの」


「佐倉さんのこと?」


「そう……。佐倉とこれからも仲良くしてあげて欲しいの…。実はあの人は、幼いころ両親が行方不明になってるの。それを私の家が引き取って、家のメイドということで働いてるわ。あの人は誰にも甘えないで一人で生きてきた、なにもかも自分の中にため込んでしまっているの。まだ両親が生きていると信じて…」


「そうだったんだ……」


「悠斗には知っててもらいたいの……。そして、これから佐倉の支えになってもらいたいの。それをお願いしてもいい?」


「……僕でいいの?」


「私は悠斗がいいの。私を変えてくれたのは悠斗。だから私は悠斗に頼みたいの。悠斗なら佐倉の支えになれるって信じてるから」


「わかった。僕に何ができるかわからないけど」


「それでもいいの。ホントはね、佐倉って全然笑わないの。けど、昨日からすごく笑ってる…、だから、悠斗だったら大丈夫だよ」


「それはみんながいるからだと思うけど…。わかった、頑張るよ」


「ありがとう…。あと、佐倉の両親のことなんだけど…、実は……すでに亡くなっているの」


「そんな……」


「私たちも早くあの子と両親を会わせてあげたくて行方を追ったの。そうしたら、二人とも亡くなっていたの」


「だって、佐倉さんは今でも生きてるって信じてるんでしょ。……それなのに」


「まだ本人に言うのは早いと思って言ってないけど…、そのときは……」


「そうだったんですか」


「…え、さ、佐倉っ」


いつの間にかドアの前に佐倉さんが立っていた。今にも泣きそうな顔で、フラフラになりながらも立っていた。


「私の両親はもう…いないんですね……」


「待って、佐倉! でも…」


「そうだっ…たんだ…っ」


突然、佐倉さんは部屋の外へと走り出した。まずい、今の佐倉さんは何をするかわからない。


「…っ、悠斗、お願い! 佐倉を追いかけて、そしてこれを渡してほしいの! …お願い。あの人を止めて…」


ルイスは泣きながら僕に手渡した。それはとても、佐倉さんにとっては大切な物だった。そして、僕はそれを持って佐倉さんを追いかけて走った。


「はぁ、はぁ、はぁ」


僕は走って佐倉さんを追いかけていた。そして、佐倉さんがキッチンへと入って行った。おもむろに包丁を取り出し、自分の喉に刺そうとした。


「止めるんだ!」


「…うぅ…止めないでください。私は両親が生きていればそれでいいと、またいつか会えると信じて今まで生きてきたのに……もう亡くなったんじゃ会えないじゃないですか! 私が生きる目的が…無くなっちゃったじゃないですかぁ…」


「………」


「貴方の話は聞いてます…。両親がもういないんですよね、それでも貴方は生きてる。でも…、私はそんなに強くないんです! 貴方みたいに、生きてなんていけないんです!」


「……でも」


「いいんです…。それに私はもう生きていく目標がわからなくなってしまったんです。だから、これで……」


そう言って、自分の喉に包丁を向けて目を閉じた。ふと、ルイスから手渡されたものを思い出す。そして、僕は佐倉さんに近づき、左手で包丁を握って止めた。包丁から赤い血が滴る。


「いいわけないだろ! そんなことして、両親が喜ぶと思ってるのか!? 本当にそれでいいと思ってるのか!?」


「…ふぇ…ぐすっ」


「……僕だって強いわけじゃないです! 確かに両親が交通事故にあった日、僕も死んでしまいたいと…、両親の元に行きたいと思いました。でも、そんなことしても両親は悲しむだけだって、言ってくれた人がいるんです! そう教えられたから僕は生きているんです。だから…、佐倉さんも生きようとして下さい!」


「…っ…だってぇ……」


「その時、僕はその人に誓ったんです…、強く生きると、これからも笑って生きると。だから、僕は一人で生きてるわけじゃないです。大丈夫、佐倉さんは強い人ですよ。もし泣きそうになったとしても……」


「……」


「僕が受け止めますから…、今日ぐらい泣いてもいいんですよ。辛かったら頼ってもいいんですよ。だからもう、この世界で一人だと考えないでください…。僕はもう、佐倉さんの友達なんですから。それに他の人だって佐倉さんを支えてくれますよ」


そして、僕は佐倉さんを抱きしめた。すべてを受け止めようと優しく抱きしめた。


「あ、あぁぁぁぁぁ、うわあぁぁあああああっ!」


「………そうだ。ルイスから預かってたものが…これです」


そう言って、僕はルイスから預かった物を佐倉さんに渡した。それは一枚の写真だった。


「……あ、あぁぁぁっ」


佐倉さんの家族三人で撮られた写真だった。三人とも幸せそうな顔をして写っていた。その裏には「幸せに」と書かれていた。

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