第19話
最近、忙しかったです。遅れてすいません。
「あと少しだったのに……」
あわてて三人で二階の部屋へと戻ってきた。お風呂からあがって、みんなで遊ぼう、と思って行ったら気になる話をしていたのでこっそり聞いていたのに、バレてしまった。あの時、悠斗は誰を選んだんだろう。……私だったらいいのに。
「どうしたんですか、ルイス先輩? ボーっとしてますけど」
「え、別になんでもないわ」
「それにしても、都住先輩って鈍感ですよね」
「そうよね…。私は昔から悠斗と一緒にいたけど、あそこまでとは思ってなかったわ」
「それは自慢ですか〜。昔からの都住先輩を私は知っているって自慢なんですか〜」
「そ、そうゆうわけじゃないわよ。それよりあたしは、桐原さんと悠斗の出会いを聞きたいわ」
「あ、それは私も気になるわ。寝るにはまだ早いから教えてよ」
「それは……別にいいじゃないですか」
「悠斗のこと好きなんでしょ」
「……好きです」
「私も好きだもん。だからこそ、教えてほしいわ」「それもそうね。あたしも教えてほしい」
「…わかりました。少し長くなりますよ」
「「いいわよ」」
「あれは、私がまだ高校に入ったばっかりのことでした……」
私は中学まで部活をしてなくて、高校に入ってから部活に入ろうと思いました。その時、同じ中学だった友達が「一緒に卓球部に入らない?」って誘ってくれたんです。私はどの部でも別にいいや、って思っていたんでそのまま卓球部に入りました。
今年の卓球部は人数が多かったので、一軍と二軍に分けることになりました。もちろん、試合をして決めました。私は卓球どころか、まともにスポーツをしていなかったので全然勝てずに二軍行きでした。一緒に入った友達は一軍でした。
二軍になると、先生は練習を指導してくれませんでした。代わりに二年の先輩が来てくれました。その時、都住先輩と初めて会いました。都住先輩は真面目に練習を教えてくれました。
当番制で先輩が入れ替わって教えてくれましたが、ほとんどの先輩が来てくれませんでした。
当り前ですよね、二軍の練習見てるなら自分の練習した方がいいですもん。
それでも、都住先輩はサボらず来て練習を見てくれました。自分の担当でない日でもたまに来てくれました。私は気になったので、思い切って聞きました、「自分の練習する時間はあるんですか?」って。そうしたら、「そんなことは気にしなくてもいい」とだけ言いました。私はそれ以上は聞きませんでした。
それでも、私はずっと二軍でした。早く一軍に上がりたいって思って、私は練習が終わっても一人で残って練習しました。ある日、残って練習してたら都住先輩に見つかったんです。「やば、怒られる」って思ったんですけど、都住先輩は優しく笑って「僕も残って練習していこうかな」って言ってくれたんです。
それから、都住先輩は毎日残って私の練習に付き合ってくれました。先輩だって疲れてると思うのに、そんなそぶりは全然見せずに付き合ってくれました。だから、今度こそ一軍に上がろうって思ったんです。ここまでしてくれたんだ、これで一軍に上がれなかったら先輩に申し訳ないと思いました。
そして、一軍二軍を分ける試合が始まろうとしてた時、一緒に入った友達が私を見て「なにそんなに頑張ってるの? 才能ないんだから諦めれば」って、みんなの前で言いました。
そして、私を笑いました。周りの人も笑ってました。私だって、才能がないくらいわかってました。だから、練習したのに、なんで笑われるんだと思いました。気づいたら私は泣き崩れてました。悔しくて、笑われてる自分がみじめで泣いてました。
その時、パァン!って音が響きました。音がする方を見ると、都住先輩がその友達の前に立っていました。先輩が友達のほっぺを叩いたとわかって、先輩を見るとすごく怒った顔をして友達を睨んでいました。そして、怒鳴るような声で言いました。
「笑うな。君は知らないと思うけど、桐原さんは1軍に上がろうと遅くまで一人で残って練習していたんだ。その努力を笑う資格は君にはない。今すぐ桐原さんに謝れ!」
私はびっくりしました。今まで怒った都住先輩は見たことなかったので、そして、嬉しかったです。わかってくれる人がいるって思ったから、私はそれが嬉しくてたまりませんでした。その後、その友達は謝ってくれました。
そして、私はやっと一軍に上がりました。初めて一軍での練習のときに、都住先輩が「おめでとう。桐原さんがずっと練習してきたのは僕は見てきたからね。よく頑張ったよ、これからもよろしくね」と言ってくれました。私は、まともに都住先輩の顔を見れませんでした。その時、私は都住先輩のことが好きだってわかりました。
それから、都住先輩は卓球部で人気者なんだって知りました。先輩達と付き合いはいいし、後輩の面倒見もいいので、みんなが都住先輩を必要としてました。
それから、一緒に練習できるのが本当に嬉しかったです。そして、いつか先輩に認められたら告白しようと思っていたんです。けど、先輩はお家の事情で部を辞めてしまいました。
「そうだったんだ……」
「はい。これが私と先輩の出会い…ですね」
「桐原さんもいろいろあったんだね」
「はい…。あ、そろそろ寝ましょうか。明日もいっぱい遊ぶんですよね」
「そうね、じゃあおやすみ」
「「おやすみ(なさい)」」
それだけ言って、私は布団に入った。…桐原さんと悠斗にそんなことがあったなんて知らなかった。今思えば、私は悠斗のことを何も知らない。まだ出会って四ヶ月ちょっとだ。私はもっともっと悠斗のことを知りたいし、私のことも知ってもらいたい。そして、すべてを受け入れてもらいたい。彩音と桐原さんはライバルであって、とても厚い壁になるだろう。けど、負けたくはない。そう強く思い私は眠りについた。
あれからもう四ヶ月か…。あの時からずっと都住先輩を好きだったけど、ライバルにルイス先輩と彩音先輩がなるとは思わなかった。ルイス先輩はおそらく校内ナンバー1の美少女だろう。彩音先輩だって、劣らずの美少女だし、都住先輩とは幼馴染で昔からいろいろ知ってるんだろうな。それでも、私は都住先輩がいいんだ、絶対に振り向かせてやる。そう思い私は眠った。
ルイスと桐原さんか……。私は小さい頃から悠斗と一緒にいた。それは今でも変わらないけど、それだけだ。悠斗はあたしを一人の女の子として見てくれるだろうか?ただの幼馴染としか見てくれなかったらどうしよう……。ルイスと桐原さんと比べられた時、あたしを選んでくれるのだろうか…。あたしは自信がないけど、それでも悠斗の隣にいたい。そして、いつか……。そこであたしは眠りについた。