第15話
「それじゃ、これで解散な。えーっと、ルイスは車だからいいな。もう外も暗いし、俺は彩音を送って行くから、桐原さんは悠斗に任せるからちゃんと送ってけよ」
「わかった」
外に出ると、周りはもう暗くなっていて、携帯で時間を確認すると六時になっていた。…ルイスと彩音が少し睨んでるのは気のせいだろうか。
「悠斗は送り狼にならないようにな」
「私は都住先輩に襲われてしまうんですか?」
「「ちょっと悠斗! そんなことしたら許さないんだからね!!」」
「そんなことしません! ほら、七海さん行くよ」
「はい、お願いします」
「それじゃあなー。海は一週間後だからな」
「了解。ばいばーい」
そう言って、僕は七海さんと並んで帰ることに。しかし、何を話したらいいのか分からずお互いずっと無言で歩いて行った。街灯は明るく、優しく、道を照らしてくれている。すると七海さんが突然立ち止まった。
「あの、先輩? ちょっといいですか?」
「ん、なに」
「もう先輩は卓球部には戻らないんですか?」
「そうだね…。バイトがあるから厳しいかな」
「だったら、私が先輩の代わりにバイトします。バイト代は先輩に渡して構いませんから、だから卓球部に戻ってきてください」
「気持ちは嬉しいけど、そんなのダメだ。七海さんのバイト代を使うことなんてできないよ」
「私は! もう一度、先輩と卓球がしたいんです! 先輩が私を助けてくれたんだから…だから今度は私が先輩の助けになりたいんです……」
「七海さん……」
「あんなに卓球が好きだったじゃないですか! そう、教えてくれたじゃないですか! だから…だがらぁ……」
「……ぁ」
「わ、私は、もっと先輩に卓球を教えてほしいんです! もっと先輩と一緒に居たいんです!」
七海さんは、体を何かに脅えるように細かく震わせていた。そしてしゃくりあげながら、頬を滑り落ちる涙も気にせずにしゃべり続けた。
「…ありがとう。でも僕は七海さんからバイト代を貰ってまで卓球はできない」
「で…でも…」
「けど、バイトしながらでも卓球は出来るかもしれない。…みんなの迷惑になるかもしれないけどね」
「そ、そんな事ないです。でも、大変じゃないですか、バイトしながら部活って…」
「後輩の子にここまで言われたら、多少はなんとかするよ。今度、西山先生に相談してみる」
「ホントに! ホントですか!」
「ホントだよ。だからもう泣かないで。…泣かせたみたいでごめんね」
「いいんです。じゃあ、私の気持ちわかってくれましたか?」
「うん。また卓球教えてあげるよ」
「………それだけですか」
「うん」
七海さんが「はぁーー」と深いため息をついた。あれ? なんでだろう、間違ってないと思ったんだけど。
「どうしたの?」
「なんでもないです…。卓球部に戻ってきてくれるなら、まずはそれでいいです。あとはまたの機会にしますから……」
「?」
「あの、先輩は今、彼女はいますか?」
「い、いないよ。誰も僕を選んだりなんてしないよ」
「そんなことないですよ。卓球部の一年生の間でも先輩は人気なんです。ただ、いつも先輩のそばにルイス先輩と彩音先輩がいるから……」
「ルイスは隣の席だからね。彩音だって幼馴染だからよく一緒に居るけど」
「…先輩がここまで鈍感だったなんて……」
「え?」
「なんでもないです」
なんか七海さんが呆れた視線を投げかけて、歩きだす。僕は、「なんだろう?」と首を傾げながらそれに続いて歩いて行く。
「ここでいいです。それじゃ先輩、ありがとうございました」
「うん。じゃあ、おやすみ」
「はい。夏休み終わったら、一緒に部活行きましょうね」
「うん」
「おやすみなさい」
小さく手を振って、七海さんは歩いて行った。それにしても、部活とバイトの両立か……。やるといった手前、今さらできませんなんて言えないから頑張らないと。
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