7話
ライルのタウンハウスは王都の南側にあった。
騎士団はすでに周りを包囲しており、ユリシスが到着するのを今や遅しと待ち構えていた。
馬車を降りると騎士団長のシュルツが出迎えた。
「ユリシス・サージェント伯爵ですね。団長のシュルツです。緊急のことと驚かれたでしょうが、ブレア伯爵に国王暗殺未遂の疑いがあり、捕縛の命が下されました。事がこと故、お父上のロイ・サージェント公爵の代理でご同道をお願いします。」
騎士団長から聞かされた国王暗殺未遂との罪状の重さに、初めて聞かされたユリシスは目を見開いて、あまりのことに一瞬動きが止まった。
「・・・・・それは・・・何かの間違いではないのですか。」
「いえ、国王陛下から捕縛命令が出ています。」
シュルツ団長は、腰元の袋から書状を取り出した。
そこには、捕縛命令とともに、国王の筆跡に思えるサインと国王を証明する印が押されていた。
「どういう経緯でブレア伯爵に嫌疑がかかったのですか。」
「ブレア伯爵から献上された菓子の一部に致死量の毒が混入されていました。一口大の菓子うちの数個に混入されていたのです。幸い毒見の侍従が引き当て口にしたので、陛下が口にされる事態は回避されましたが、口にした侍従はいまだに生死の境をさまよっています。毒見役の侍従がたまたま毒入りを引き当てたので、陛下に害はありませんでしたが、陛下が口にされた可能性もあったのです。」
眉間にしわを寄せたシュルツ団長は、嫌悪もあらわに吐き捨てた。
「団長、しかし妙ではありませんか。陛下が口にされるものは必ず毒見が入ることは周知のことですし、菓子の一部に毒を混入したとして、召し上がるのにお一人で召し上がるより、誰かとともにされる方があり得る話です。そうなると、陛下が確実に口にされる可能性はかなり低い。しかも、ブレア伯爵が自ら献上した菓子に毒を混入するなどあまりにも不用意すぎやしませんか。」
団長の状況説明に納得できないものを感じ反論したが、団長は首を横に振った。
「そういわれましても、陛下から捕縛命令が出ているのですから、命令に従うのみです。屋敷に乗りこむ準備は整っております。さあ、向かいましょう。」
玄関に着くとシュルツ団長が扉を激しくたたいた。
メイドに取り次いでもらうと、ライル・ブレアが顔を出した。
「一体何事ですか・・・。ユリシス?」
ライルは、騎士団長を筆頭に、何人もの団員を連れたユリシスに怪訝な様子を見せた。
「ブレア伯爵のご子息ですかな。伯爵はご在宅ですか。」
「父は家に居りますが・・・。何の御用でしょう。」
「伯爵に国王暗殺未遂の疑いありと、捕縛命令が出ています。」
「なに・・・。」
顔色を変えたライルにシュルツ団長は団員たちに合図を送り、ライルを引き倒した。
「何かの間違いだ。父がそんな大それたことを仕出かすはずがない。ユリシス、何とか言ってくれ。」
ライルは側にいるユリシスに必死の形相で叫んだ。
「まて、ライルを放せ。」
騎士団員たちを引きはがし、ライルに屈みこんでその身を引き起こした。
「すまないライル、俺もなにがなんだか・・・。ついさっき捕縛命令を聞いたんだ。きっと、何かの間違いだ。俺が疑いが晴れるよう調べてやるから、それまで、待っててくれ。」
「ユリシス・・・。」
団員たちは玄関から押し入ると、ブレア伯爵夫妻とその娘をひっ捕らえてきた。
「ライル、何かの間違いだ。私は何もしていない。」
「父さん。」
「私たちが何をしたというのです。放しなさい。」
「お父様、お母様、お兄様。何なの、どういうことなの。」
無実を訴える伯爵とその家族を情け容赦なく引っ立てて、暴れないように縄を掛けていく。
その姿を見ていられなくて、顔を俯け唇をかみ締めた。
抵抗を見せながらも、屈強な団員たちに囲まれ打たれた縄を引かれて連れ出されていく。
ユリシスも仕方なくその後をついて行った。