6話
ライルと乗馬に行ってから数日が立った。
書斎で重要案件の書類に目を通していると、執事のセバスが手紙を持って入って来た。
「若様、お父上から火急の手紙が届いております。しかも、騎士団の方が届けられました。」
ユリシスの父親であるロイ・サージェント公爵は、王弟であり王位継承権代第3位ではあるが、兄が王位を継いでからは、臣下に下り、兄であるホンブルク国王を外交面と政治面で支えていた。
ユリシスが幼いころから次期領主、王家を支える忠臣として厳しく英才教育を施したが、ユリシスが伯爵位を継いでから、ユリシスのことは執事のセバスに任せ、口出しすることはなくなった。
しかし、火急の手紙というのは珍しく、一体何事かと顔が曇った。
「お父上はなんと・・・。」
急いで封を切り目を通して、顔色を変えたライルにセバスが詰め寄る。
「貴族を捕縛するのに、手紙を持ってきた騎士団と同行して事に当たれとある。」
「なんと、してその貴族とは・・・。」
「・・・ブレア伯爵だ。」
「まさか・・・。」
俯いて、かすかに震える手で手紙を見つめる蒼い顔のユリシスが、間違いないことを物語っていた。
騎士団の使いが持ってきた火急の手紙というのも異例だが、騎士でもないユリシスが同行するというのも異例である。
王弟であるユリシスの父親がこの重大事に王の名代として動くのは分かるが、領地にいて間に合わないから、ユリシスの代わりに向かえというのは、よほど緊急のことといえた。
だが、舞踏会で知り合い、乗馬を共にし、かすかな友情が芽生え始めていたライルの身の上に起きた変事に信じられない思いでいっぱいになった。
なぜ、なぜ。きっと何かの間違いだ。
ユリシスの心は、短い間だが交わし合った交友の中感じられた、穏やかで生真面目なライルの人柄や、ライルのブレア伯爵に寄せる信頼から、捕縛されるほどの罪と結びつかなくて混乱する。
しかし、騎士団の使いを待たせている。
同行するようにとの手紙の指示には従わなくてはならない。
ユリシスは、外出用の身支度を整えて、エントランスに向かった。