2話
初めてエミリアに会ったのは、父に連れられた王宮だった。
父を待っている間に、庭を散歩していたら、花壇の花の合間に束ねた髪がひょこひょこと見え隠れしていた。
日の光に輝くプラチナブロンドが美しく、その髪を触りたいと思って近づいた。
ご機嫌なのか、かわいらしい鼻歌が聞こえてきた。
薄桃色のドレスに白の布を腰に巻き、後ろで大きなリボン結びがかわいらしい女の子だった。
ユリシスは、同年代の男の子との交流はあったが、女の子と会ったのは初めてで、声を掛けようかと思ったが、なんと声を掛ければいいのかわからなくて、揺れる髪をつかんでしまった。
すると、女の子は振り向いて、ありえないとばかりに、睨みつけてきたが、みるみる内に目に涙がたまりだした。
「いや・・・髪を引っ張らないで」
女の子は突然髪を見知らぬ男の子に引っ張られて驚き、泣き出してしまった。
「あ、ご、ごめん。」
焦ったユリシスは、愛らしい女の子をなんとか泣き止まそうと、そばに咲いている花を引きちぎった。
そういえば、花を贈ると女の子は喜ぶとメイドたちが話していたのを思い出した。
「髪がきれいで、触ってみたかったんだ。これで、機嫌直してくれないかな。」
ユリシスは勢いよく花を差し出したが、花についていた毛虫も勢いよく飛び出して、あろうことか女の子の顔にくっついてしまった。
運悪く、強い毒針を持った種類の毛虫だったために、さらに大泣きして走り去って行った女の子はかわいそうに1か月も顔が腫れ、目立つ頬の上に3年も痕が消えなかったのだ。
ユリシスは何度も謝罪に訪れたが、令嬢に会うことは許されず追い返され、手紙を書くが受け取ってもらえなかった。
悪いことをしたとずっと気になっていた令嬢が美しく成長し、15歳で社交界デビューを果たし、再び目にした時の衝撃は忘れられない。デビューの緊張からか、頬をうっすら上気させ、潤ませた瞳はペリドットの光を放つ淡い緑色、きりりと伸ばした背筋も美しく、ふわふわと揺らめくブロンドの髪が形のよい小柄な顔を縁取り、ぽってりとした唇が薄桃色の口紅に輝いていた。
ユリシスはこの時、あろうことか、ユリシスを蛇蝎のごとく嫌っている令嬢に適わぬ恋をしたのだ。