1話
精緻な彫刻が施された柱に、クリスタルがふんだんに使われ、ろうそくの光にきらめくシャンデリア、優美な楽団の演奏の中、色とりどりの煌びやかなドレスを纏った令嬢たちが、精悍な青年貴族に寄り添いながら踊っている。
ここは、ロランド侯爵家主催の舞踏会である。
サージェント公爵は、ここホンブルク王国の王弟であり、筆頭公爵家当主である。
そのサージェント公爵家嫡男ユリシスは、若いながら広大な公爵領の一部をすでに賜り、伯爵位を継いでいる。黒髪に青い瞳の魅力的な男性で、女性に大変人気があり、令嬢たちに囲まれていた。
「サージェント伯爵様、ぜひ次は私と踊ってくださいませ。」
かわいらしい水色のドレスを着た小柄な令嬢が上目遣いでダンスをねだってきた。
「申し訳ありません。もう、予約がいっぱいでこの会の終わりまでにあなたに回らないでしょう。」
ほらっと、予約表を見せて納得してもらう。
女性の方から、ダンスを申し込むのははしたないといわれているにもかかわらず、令嬢たちはひっきりなしに声をかける。
王家とも親戚関係の公爵家という高位の貴族に生まれ、すでに伯爵位を賜った16歳になるユリシスは、独身で、山のように縁談話があるにもかかわらず、のらりくらりと躱し、いまだに婚約者も決めずにいた。
順番通りに令嬢の手を取って、ダンスの引き立てぶりも素晴らしく、ユリシスが踊ると相手の令嬢は実力よりもっと上手に踊れたように感じる。
ユリシスは踊りながら、視線は目の前の令嬢にはなく、左側で踊っている男女を見ていた。
そこには、エミリア・ローシェ侯爵令嬢の姿があった。
プラチナブロンドの髪をなびかせ、金糸の模様が胸元と裾に入った淡い紅色のドレスを可憐に着こなし、優雅に踊る令嬢はダンスの誘いを気軽に受け、次々パートナーを変え踊っているが、ユリシスとは1度も踊ったことがない。
ユリシスは彼女に恥をかかせるわけにはいかないと、ダンスを猛特訓し、腕を磨いたというのに、その努力が報われたことはない。
ダンスだけではない、歴史学に経済学、語学に剣術と、エミリアに振り向いてもらえるように日々努力しているのだが、目当ての令嬢にはまったく相手にしてもらえないのに、他の令嬢は群がってくる。
一体どうしたらいいのかと途方に暮れている。
エミリアと踊っているのは、彼女の幼馴染のライル・ブレア伯爵令息だろうか、にこやかに見つめ合っている。
なんて、うらやましいんだろう・・・ああ、妬ましい。