天端より見ゆ
最終章
野次馬は追い払ったらしい。外は未だに少しざわついていたが、人の声は聞こえない。
騒動を聞きつけた侍女たちが人を呼んでから、アドゥヴァとライアは程なくして姿を現した。蒼白な顔をした二人を、ルオニアは部屋の隅から呆然と見上げる。エウラリカの恫喝によって律せられていた部屋の空気が、ようやく再び動き出す。しかし、息をつくのも躊躇われるような重い沈黙であった。
「アドゥヴァ様」と、殊更に慇懃なエウラリカの言葉に返事はない。
彼は声もなく立ち尽くしていた。床に顔を伏せたまま啜り泣く母を見下ろして、何も言わず、表情もなく。
「私は、フィエル・サハリィと申します。覚えておられますか」
「……無論だ」
マーリヤの背に乗っていたエウラリカが、目を伏せて立ち上がる。それからゆっくりと顔をもたげ、アドゥヴァを正面から見据えた。
「告発を二点、よろしいでしょうか」
顔を上げる間際、その唇が不敵に弧を描いているのを見たのは、ルオニアだけだっただろう。
部屋の中に明かりはなく、身じろぎ一つできないような緊迫感が漂っていた。アドゥヴァは体の脇に垂らした両手を強く握り締めて、エウラリカの足下で蹲るマーリヤをじっと見下ろしている。
「……これまでに宮殿内で殺害された被害者の共通点は何でしょう?」
アドゥヴァの返事を待たず、エウラリカはそう切り出した。少しの沈黙ののち、ライアが「不貞行為」と呟く。
「殺されてきた寵姫の中には、宮殿内外における不義密通が確認されている者がいるわね。その点から、私たちとしては、殺害は寵姫のそうした行為を許さない者による犯行と予測してきたわ」
腕を組んだまま、ライアは慎重な口調で告げた。エウラリカが「そうですね」と頷く。それから、何も言えずに項垂れているマーリヤを一瞥した。僅かに顎をもたげて、それはどこか哀れむような眼差しであった。
「……そんな理由で? 殺人を行ったと?」
アドゥヴァが呻く。息も絶え絶えの声音だった。部屋の暗い片隅でへたり込んだまま、ルオニアは彼の気持ちが手に取るように分かる気がしていた。
「そんなこと、俺に言えば、いくらでも……」
一歩ずつ、よろめきながら、アドゥヴァがマーリヤに歩み寄る。エウラリカが音もなく横に歩いて場所を空ける。マーリヤの目の前で立ち止まって、アドゥヴァは愕然とした表情で立ち尽くしていた。
これまでの殺害現場と同じ形の凶器を持って、夜中に、部屋に侵入する。言い逃れはできない状況であった。マーリヤは傍目にも震えて、青ざめた顔でアドゥヴァを見上げている。
「アディ」とその唇が動く。呼ばれたアドゥヴァの顔に、痛烈な苛立ちがよぎった。
「っ無様ですね、母上。ご自身の無念を殺戮で晴らそうとしましたか」
片頬を歪に吊り上げて、アドゥヴァが嘲るように吐き捨てる。その言葉尻が、まるでおののくように揺れていた。
「……始めに気づいたのは、『先代』のフィエル・サハリィが殺害されたときでした」
エウラリカが、ほとんど唇を動かさずに囁く。
「元々、彼女はやたらと窓を開けたがる癖があった。それから、夜に何故かめかし込む癖も。時折、窓から文が投げ込まれていたようです。……私は一応、サハリィから着いてきた下女という立場でしたから、一言申し上げない訳にはいきませんでした。これ以上、目に余る行為が続くようなら、サハリィ家の方に報告させて頂く、と」
ルオニアは目を丸くしてエウラリカを注視する。
(全然、気づかなかった……)
フィエルの死体を発見したときの光景が、瞼の裏に鮮烈に浮かび上がる。きらびやかな衣裳を着た姫君が、血の海の中に倒れている。そうだ、確かに、どうして夜にあんな格好……!
発端となった事件が起こったのは、この部屋である。エウラリカが立っている位置に、ルオニアは思わず吐き気を覚えた。今でこそ豪奢な絨毯が敷かれているあの場所は、まさにフィエルが殺害されたその位置だった。彼女がそれに気づかないわけがない。目を伏せて、エウラリカが床を眺め下ろす。
その表情は、彼女が記憶を取り戻す前の、途方に暮れたような困り顔によく似ていた。
フィエルの不義密通は、噂にも上がったことがなかった。エウラリカがサハリィ家に報告を上げる役目を持っていたことも初耳だ。……どうやって連絡を取り合うつもりだったのだろう?
そこまで考えて、ふっと、瞼の裏に旧炊事場の井戸端に立っていた彼女の姿が思い出された。……『人が上り下りするには耐久性が足りない』縄。伝言のひとつや二つならば、やり取りが可能に違いない。
(でも、もしもそうだったら……)
サハリィ家の手の者が、宮殿の地下まで、忍んでいたということだろうか? ――何のために?
エウラリカは冷ややかにマーリヤを見下ろす。
「そうして、夜に、部屋を訪れたら、フィエルは殺されていた。そのときに少しだけ見た犯人の姿が、マーリヤ様に似ていることに、つい最近気づきました。その衝撃もあって、少し、寝込んでしまいましたが……」
嘘を混ぜたな、と気づく。息をするように、自然な口調で、『病で倒れていた』という情報に言及した。ルオニアは目線だけでエウラリカを窺う。腹の前で、反対の手を強く握る指先が、白くなっていた。
と、その五指がゆるりと解ける。柔らかい金髪が、音もなく耳から落ちて頬に影を落とす。
「まさか、王太后様が、寵姫や宦官を殺して回るなんて、夢にも思いませんでした。……一体、どうして?」
まるで怯えるように、口元に手を添える。片手で隠された口角が、持ち上がる。あまりにも露悪的な表情に、ルオニアは咄嗟に腰を浮かせた。嫌な予感がした。「待って」とエウラリカの肩に手をかけると、目を丸くした顔と目が合う。驚いたような反応を見せたのも束の間、エウラリカは面白がるように目を細めた。
「分かりきった話だろう」とアドゥヴァが吐き捨てる。ルオニアがいたことには気づいていたらしく、暗がりから出てきた姿にぎょっとしているのはライアのみである。ルオニアはマーリヤを庇うように両手を広げて立つと、唇を引き結んでアドゥヴァを睨み上げた。
「どうしてお前が首を突っ込む」
「……あなたが、マーリヤ様に意地悪を言おうとしているように見えたから」
口調を取り繕う余裕もなかった。間髪入れずに返すと、アドゥヴァが胡乱げに眉をひそめる。舌打ち一つ。
「お前、何か立場を勘違いしているようだな。たかが一度、……」
言いかけて、アドゥヴァはマーリヤを一瞥し、面倒になったように片手でルオニアを押しのけた。たたらを踏んだルオニアの横をすり抜けて、彼は音もなく膝を折り、マーリヤと目の高さを合わせた。
「――許せませんでしたか? ラヴァラスタ宮殿において、堂々と姦通を行う輩のことが。それとも、意中の人間とめでたく思いを遂げた人間のことが妬ましかったのですか」
アドゥヴァの声は、他では聞くことができないような、平坦な調子であった。丁重な話しぶりも、滅多に聞くことがない。思えば、彼は昔からマーリヤに対して一本線を引いたような態度を取る子どもだった。
「『妬ましい』、ね……」
エウラリカが小さく呟く。独り言であろうそれに、ルオニアは首を傾げる。マーリヤ様が、一体何を妬ましく思うのだろう?
「ちがうの」
マーリヤの両目からは、はらはらと透明な涙が頬に伝い落ちていた。初老に差し掛かった女なのに、その姿はまるで幼く無垢な乙女のように見えた。
「ちがうの、おねがい、アディ、私、わたし……」
激しくしゃくり上げるでもなく、彼女は静かに泣いていた。「信じてちょうだい」とその手が伸びる。震える指先をにべもなく叩き落として、アドゥヴァは顔を歪めて母親を見下ろしていた。
「何が違うのですか。貴女は自分の感情ひとつのために、正当な手続きを経ずに他人を害した訳だ。……本当に似たもの親子だな。吐き気がする」
そう吐き捨てるアドゥヴァの横顔を、ルオニアは声もなく見つめる。心持ち瞼を伏せて、意外と長い睫毛が瞳に影を落とす。自嘲するように頬を吊り上げて、床を見つめるその表情には、見覚えがある。幼い日の彼も、時々、同じような目をすることがあった。
「俺の狼藉者の血は、両親共々から引き継いでいたってか。笑えるな。そりゃあ救いようがねぇよな。どだい、俺はろくな人間になりっこない訳だ」
低い声で呟いた言葉に、マーリヤが弾かれたように顔を上げる。「違う」と否定した声は戦慄いていた。その表情は、まるで絶望したように蒼白だ。はくはくと口を開閉し、何かを言おうとするように逡巡し、顔を歪める。小さく頭を振ると、その頬から雫が落ちた。
「そんなこと、ない。――あなたは、私の大切な息子よ。私がどんな人間だって、あなたの父親がどんな人間だって、どんな経緯があったとしたって、それは決して変わらないわ!」
アドゥヴァの頬を両手で挟んで、マーリヤが涙ながらに告げる。真正面から視線を合わせて、しっかりと、言い聞かせるように。対してアドゥヴァの顔に浮かんだのは、微笑み損ねた嘲りのみである。
「産まれながらに間違った人間なんていない。この世に、もう戻れないなんてものは、絶対にない……」
痛切な口調で語られる言葉に、アドゥヴァは黙って瞬きを繰り返すばかりだった。エウラリカが、細く息を吸う。「有り難いご高説ね」と、息混じりに囁かれた声は、恐らく誰にも聞かせる気がないものである。
「――私だって言ってみたかったわ、そんな台詞」
そう呟く指先が、こわばり、丸まり、強く握られる。彼女は震えていた。咄嗟に手を伸ばすが、エウラリカは拒絶するように体を捻ってしまう。
アドゥヴァの頬から、はたりと手が滑り落ちる。マーリヤは深々と頭を垂れた。乱れた髪がその顔を覆う。
「……すべて、私のやったことです。全部、私の我が儘で身勝手です。申し開きのしようがありません」
揺るぎのない声であった。床に手をついて、断言する。アドゥヴァは無言で、小さな背中を見下ろしていた。これで片付いた、という空気が漂う。詳細はこれから明らかになるだろう。ルオニアはそう判断して、詰めていた息をそっと吐き出した。
「待ってください」
明朗な声音で水を差したのはライアだった。彼女はエウラリカに体ごと向き直り、眉根を寄せて詰問する。
「フィエルが殺害された際に、犯人を目撃したことを、どうして当時言わなかったのか、答えなさい。フィエルの密通に関しても、何故そのとき証言しなかったの」
厳しい表情で、ライアがエウラリカを見据えていた。棘のある言葉を向けられても彼女に臆した様子はなく、「はい」と頷く。
「そのことについて、これからお話しようと思っておりました」
そう言って、エウラリカがそっと胸元に手を添えた。ライアに向かって問う。
「……殺害されたうち、不義密通の噂が存在していなかった被害者たちの共通点が何なのか、分かっていますか?」
ライアは答えなかった。苦虫を噛みつぶしたような表情で黙り込む。分からない、とも答えなかった。意味深な沈黙である。エウラリカはくすりと笑うと、次に、傍らのルオニアに視線を向けて、小さく微笑む。
「ルオニアは?」
分かっているのだろう、と言わんばかりのしたり顔だった。何を根拠に彼女が確信しているのかは知らないが、訊かれれば答えないわけにはいかない。
「……サハリィ家、あるいはオーサルク家の関係者、でしょ」
ルオニアが渋々呟いた直後、マーリヤは鋭く息を飲んだ。頭を上げ、大きく目を見開いて「やめて」と囁く。怯えるような眼差しを向けられて、ルオニアは狼狽えた。
「サハリィ家?」
アドゥヴァが噛みつくように繰り返した。一気に視線が集中し、ルオニアはその場に棒立ちになる。
「どういうことだ」
床に手をついて腰を浮かせ、アドゥヴァが目の前に立ちはだかる。ルオニアは唇を引き結び、悲鳴を上げそうになるのを堪えた。一瞬だけ視界に入ったライアが、口元を引きつらせているのが見えた。「答えろ」と凄まれて、ルオニアはぎゅっと目を瞑って口を開く。
「い、今まで殺された寵姫には、不貞行為の噂が内々で噂になっていた人と、そうでない人が、いました」
腹の前で両手を強く握り締めると、おずおずと顔を上げる。
「噂がなかった人が殺された理由は何なのか。調べてみると、それ以外の人は皆、サハリィ家、あるいはオーサルク家に関係しているんです。両家の令嬢が殺されていたこともそうですし、殺害された宦官も、侍女のテテナも、サハリィ家の推薦だったり出身地だったり、何らかの形でサハリィに関係している。だから、それが共通点かもしれない、という話で……」
言葉尻は自然と萎んでしまった。話している間、見る見るうちにアドゥヴァの顔色が悪くなっていくのである。
まさか知らなかったのか、と眉根を寄せる。こんなことは、調べればすぐに分かることだ。思わずライアに視線を向けると、彼女は不自然なほどの無表情でこちらを見据えていた。驚く様子のない立ち姿に、ライアは既に承知だったことを悟る。どうして、と強烈な疑問が襲った。どうしてライアは、サハリィ家の企みに勘づいておきながら、それをアドゥヴァに伝えなかった?
「……それが、お前の証言の有無に、どう関係する」
アドゥヴァは呻くようにエウラリカへ問う。彼女は薄らと微笑んだ。
「自分の、身の安全のためでした。証言をすれば、わたしはマーリヤ様かサハリィ家のいずれかに殺されていたでしょう」
その手が持ち上がり、親指と人差し指を立てて目を細めた。エウラリカはゆっくりと、明確な発音で告げた。
「これが、二点目の告発です。――サハリィ家は、貴方への反逆を企てている」
なんだと――アドゥヴァが上げかけた怒号が、途中で立ち消える。
「言わないでッ!」
それまで力なく項垂れていたマーリヤが起き上がり、半狂乱になってエウラリカに掴みかかったからである。エウラリカの両目が、ぎょっとしたように丸くなる。
「駄目、言わないで、いやだ、駄目なの、言っちゃ駄目、アディには何も言わないで、お願い……!」
誰の目にも、異常な姿であった。髪を振り乱して、マーリヤが金切り声で悲鳴を上げる。彼女の細い十指が、エウラリカの肩に猛禽の爪のごとく食い込んでいた。
「どういうことだ」
アドゥヴァの言葉に、エウラリカが目を眇める。胸元にしがみ付いてくるマーリヤを冷めた眼差しで見下ろして、彼女は短く息を吐いた。
「この人は、あなたにサハリィ家の企みを知られないように動いていたんです。……あなたがそれを知ったら、あなたがまた、多くの人を殺すから、と」
嫌、とマーリヤが絶叫する。顔を歪め、まるで幼子のように駄々をこねて掴みかかる姿は、穏やかで愛情深い慈母のそれではない。マーリヤはエウラリカを押し倒すようにのしかかって、その首に両手をかけようとする。咄嗟に動けなかったアドゥヴァの横を駆け抜けて、ライアがマーリヤをの首根っこを掴んだ。無理矢理に引き剥がされ、マーリヤは呆気なく床に転がる。
「うう、あ、あああ……っ!」
力なく床に突っ伏して、声を上げて泣きじゃくるマーリヤの姿を、ルオニアは為す術なく眺めていた。
呆然と、まるで石像のように立ち尽くしているアドゥヴァの足下ににじり寄って、縋り付くように両手を伸ばして、マーリヤが涙ながらに告げる。
「あな、あなたが、人を殺すの、っなんて、見たくないのっ」
しゃくり上げながら、彼女はまるで幼い子どもが駄々をこねるように叫んだ。
「あなたをっ、みすみす人殺しにするくらいなら、私が、先に殺せば良い……!」
お願い、ゆるして、と母が必死に息子に抱きついても、彼は腕を持ち上げて背を抱き返す素振りさえ見せなかった。
「全部、あなたのためを思ってやったことなの。あなたを愛しているの……」
胸元に顔を擦り付けて、マーリヤが嗚咽する。老いて小さくなった母を眺め下ろしながら、アドゥヴァの瞳はどこまでも冷たく、凍り付いていた。
「もう、あなたを、失いたくない。いなくならないで。お願い……」
愛してる、アディ。あなたのためなら何でもしてあげる。
どれほど言葉を並べられても、彼の表情が和らぐ様子はなかった。
――どこかから異様な音が聞こえることに気づいたのは、そのときだった。誰が最初に気づいたか分からない。ほぼ同時に、全員が口を噤む。
鐘楼で、激しく鐘が打ち鳴らされていた。幾度となく、狂ったように、激しく。真夜中の闇を裂いて、硬質な音が広大な宮殿へと降り注いでいた。
剣呑な響きは、否応なしに心拍数を跳ね上げる。ルオニアは身構えたまま、音のする方へと顔を向ける。アドゥヴァも口を噤み、状況を探ろうとするように耳を澄ませていた。
「なに、この音……」
呟いて、ルオニアはエウラリカの方を振り返った。彼女は悠然と顎をもたげ、満足げに頬を吊り上げている。その唇が動く。『思ったより遅かったわね』。
「アドゥヴァ様っ!」
悲鳴のような声で駆け込んできたのは、宮殿内でお目にかかることはない兵士の姿であった。本来ならば男子禁制のラヴァラスタ宮殿には立ち入りが禁じられているはずである。
「宮殿が、ほ……包囲、されております!」
息せき切って叫んだ兵に、アドゥヴァが顔色を変える。ライアが弾かれたように振り返る。驚愕を見せないのはエウラリカただ一人だった。それに気づいているのも、ルオニア一人らしい。
「……相手は!」
一拍遅れて怒鳴ったアドゥヴァに、兵が途方に暮れたように頭を振る。今にも泣き出しそうな表情であった。
「――サハリィ家と、それに連なる氏族家の連合、そして、し……新ドルト帝国、と」
真っ先に息を飲んだのは誰だったか。ライアが喉の奥で押し殺した吐息を漏らす。
遠くで悲鳴が響いている。鐘が鳴らされる。窓の外に立ち並ぶ建物の隙間の向こうに、赤々と燃え上がる炎が見える。
……その光景は、まるで、幾度となく繰り返された悪夢のような。
「なにが……」
ルオニアは譫言のように呻いた。
(なにが、起こっている?)
「アドゥヴァ様、」
戸口のところでライアが焦ったように声をかけても、アドゥヴァは動かなかった。ゆるりと振り返る。ぎょろりと見開かれた双眸が、薄暗い部屋の中で鋭く光っていた。身じろぎ一つせず、まるで魂が抜けたかのような風情だった。
エウラリカを見据えて、アドゥヴァが浅く息をしていた。視線を受けた彼女は表情を変えない。
ライアが焦れたように声を大きくしてアドゥヴァを呼ぶ。マーリヤは小さく啜り上げるばかりで動かない。
悲鳴は、もうすぐそこまで近づいてきている。




