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傾国の乙女  作者: 冬至 春化
墜ちゆく帝国と陥穽の糸【深層編】

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手跡



 お前がこれを読んでいるということは、お前がわざわざ帝都くんだりまで来て、わざわざ私の墓を暴いたということでしょう。

 どうせお前のことだから真っ先に墓荒らしを強行したのではないの?

 そうではなくて既に帝都全体に火を撒いた後なら、以後の記述は捨て置きなさい。そうでないのなら、予め私からいくつか伝えておきます。



 ――無駄な血を流させるな。後顧の憂いとなるような火種を撒くな。

 これはお前のために言っているのよ。今のお前に、諫めてくれるような人間なんていないだろうから。己を見失って得することなんてひとつもない。そのときの激情に身を任せて事態が好転することも決してない。誰も諫めてくれないのなら、自分で律しなくてはならないでしょう。分かるわね。


 現帝は離宮にでもやって、ユインを擁立するのが最も手っ取り早い。言わなくても分かるとは思うけれど、念のため。手順は全て整っています、先方のおかげさまでね。

 皇帝を殺す必要はない。分かりましたね。


 足元を固める方法に関しては、お前が既に検討しているはずですね。現在の帝国の領土を見れば、帝都圏とそれ以外の面積の差は歴然としているでしょう。お前なら私よりずっと容易に、上手にことを運べると期待していますよ。精々、己の血筋や境遇、容貌を有効に利用しなさい。


 お前が帝国を牛耳るにあたって手を回すべき各所は別紙にまとめておきました。売国奴に関しても情報が追加してあるから確認するように。




 さて、お前の主人としての言葉はこれで終わりにしておきましょう。もちろん、上記のすべてを馬鹿真面目に受け止めるも一笑に付すも、すべてお前の胸ひとつです。お前の判断など、もう私の知ったことではない。


 お前はこれからこの帝国を蛮族の手から守り抜き、導かねばならない。そのつもりでここへ来たのでしょう。違いますか。お前は、己の祖国を、誇りを守るために、帝都を攻め落とした。それ以外の理由がありますか。


 お前は正義や大義から外れた、他の理由を持つべきではない。個人の情に流されるべきではない。

 何を言いたいか分かるわね。



 良いですか、


 エウラリカは死んだ。もうどこにも生きてはいない。この意味が分かりますか。

 新ドルト帝国の第一王女であったエウラリカ・クウェールは死にました。お前が仕えるべき相手も、心を砕く相手も、もはやどこにもいない。


 お前が拘るべき相手が一体どこにいますか。聞き分けなさい。

 くれぐれも、私を探そうなどという愚考に拘泥することにないように。お前がどれだけ私を追い、すべてを捧げたとて、私は決してお前のものになることはない。



 これ以上多くを語るのも不調法、計画に遅れが出てもよろしくない。この辺りで筆を置きましょう。

 お前の前途など知ったことではありません。私はどこか遠くから高みの見物を決め込んでいます。



 精々長生きしなさい、カナン。己の情念のために人を殺した人間が、幸福な末路を迎えるなどと思うな。


 いつか地獄で会いましょう。




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― 新着の感想 ―
[一言] 薄々そうだろうなとは思っていたけど、やはりこうでしたか…… しかし、カナンが追いかけるなと言われて受け入れるような人間とも思えない一方で、受け入れる気もしてカナンの今後の動きが気になるところ…
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