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この世全ては  作者: ソムク
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対抗戦①


 決戦の場所は学園の敷地内にあるアリーナです。

 一人君から作戦を聞き、見送った後、私達はそのまま中に入りました。

 得も言われぬ緊張が体を支配します。

 初めてに近い実戦。勝てるかも分からない、むしろ敗色濃厚な絶望的状況。

 少し前までの私だと、このプレッシャーに押しつぶされていたと思います。

 でも今は違います。

 相変わらず人見知りは激しいけど、少しだけその背中が大きく見える白君。

 人事を尽くして天命を待つ。正直全然、有言実行には程遠いけど、落ちこぼれである私なりの研鑽はしたつもりです。

 それに、初め噂を聞いた時は、お兄ちゃんと同じくらいすごい人なのかと憧れて。

 実際に会ってみて力はあるはずなのに、何もしようとしない事に腹が立ち。

 同じ時を過ごして、なんで彼はこんなにも卑屈なのだろうと疑問を持ち。

 贈り物(レガロ)の事を聞き、彼の今までの体験を想像し、心を痛め、でも羨ましくも思い、やっぱり同情して。

 最近会えなくなって、彼の中では私達はその程度の位置付けだったのかなと、悲しくなり。そういえば、最後まで私の事は友達とは言ってくれなかったと切なくなり。

 さっき顔を見た時嬉しくて、私達の為に1人で努力していてくれた事も嬉しくて、それを言ってくれなかった事がつらくて、でも戻って来てくれた事、それだけで涙が出そうなくらい、嬉しくて。

 今も頑張ってくれている、そんな一人君。

「どうしたん、ですか? 複雑な、表情をされてますけど」

 思い返していた事が顔に出ていたのでしょうか。なにやら心配してくれる白君。

「なんでもないです。それより時間稼ぎの作戦考えましょう」

 光明が見えたとはいえ、一人君が戻ってくるまで耐えられなければ意味がないのです。

「逃げに、徹するのであれば、なんとか、出来るかも」

 気合いを入れ直す私に、白君が意見をくれます。

「そうですね。それが良いと思いますが、どうするんです」

「四足歩行の、フォルムだと、機動力があがります」

 機動力が上がる。それは頼りになりそうですが、私は先日見た金光さんの記憶を呼び起こし疑問を口にします。

「それは、相手のスピードにも対応出来そうですか? 正直私は目で追えませんでしたけど」

「う、うん? 出来る、気はします。攻撃が、来る事が、分かれば」

 自信はなさそうな白君。

「ところで、鹿って何が出来るのです?」

「鹿は、聴覚と、嗅覚が、優れてます。あと、ジャンプ力、なんかもあります」 

 なるほど、聴覚ですか。

 私は少し考え、思いついた内容を伝えます。

「それなら、たぶん、行けます。いや、やって、みせます」

 力強いとは言えないかもしれませんが、白君なりに精一杯強がってくれました。

 その思いを無駄にしない為に頑張ろう。と体を振るい立たせた時、丁度入り口に新しい人影が現れました。

「あら。お待たせしてしまいましたか? これは申し訳ありませんでしたわ。何せ弱い物いじめは、あまり気乗りがしなかったものですから」

「いえ、今来たところです」

 言葉とは裏腹に、嘲笑を浮かべている金光さん。

「お2人ですの? 常時さんはどうされました? まさか、彼にまで見放されましたか?」

 私達が2人なのを見て、一層楽しそうに話しかけてくる金光さん。我慢です、私。

「黙りですの。張り合いがありませんわね。まあ、落ちこぼれ同士ではこの程度ですか」

 我慢ですよ、私。

「実力もない上に、言い返す度胸すらないときましたか。それで、打倒生徒会を掲げるとは、片腹痛いを通り越して、片腹大激痛ですわね。常時さんが愛想尽かすのも、道理ですわ」

「言っていればいいです。勝つのは、私達ですから」

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ頭にきて、つい言い返してしまいました。

「面白いですわ。やれるものなら、やって下さいな。期待してますわよ」

「なんだ? もう舌戦か? 元気が良いな、最近の若者は」

 いい加減煽りにも飽きてきた頃、見計らったかのように、学園長が現れました。

 正直、助かったと思う、私です。

「所で、常時はどうしたんだ? 遅刻か」

「そんなところです。後から来るみたいです」

「まあ、それでお前達が良いなら構わないが」

「大丈夫です」

「そうか。じゃあ、もう暖まってるみたいだし、早速対抗戦始めるか」

 私達の顔を見て、少し面倒そうに確認を取る学園長。

「構いませんわ」

「お願いします」

 こうして戦いの火蓋は切って落とされました。


こんにちは、ソムクです。

こんな文章を読んでくれたあなたに最大の感謝を。

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