表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世全ては  作者: ソムク
7/35

決戦前

 あの後、当日になるまで俺は1人で準備していた。

 少し前までは1人が当たり前だったのだが、今は何故か少しだけ寂しさを感じる。

 物思いに耽りながら会場に着くと、国山さんと白が先に着いていた。

「あ! 一人君来ました。どうしてたんですか? 心配してたんですよ」

「久し、ぶり、一人。もう、来ないかと思った」

 俺の姿を見るや否や、駆け寄ってくる2人。

 思いのほか明るい表情をしている。もっと、沈んでいるものだと思っていたが。

「おう、久しぶり。ちょっと用事があったんでな。お前らは、なんか策でも思いついたか?」

「え、策ですか? なんの事です?」

「え? いや、お前らなんか表情が明るいから、良い事でもあったのかと」

 何を言っているのか分からないという国山さんの対応に、むしろ俺が動揺してしまう。

「ああ、そういえば一個面白い事が分かりました」

「お。なんだ。あんじゃねえか」

「ほら、白君。見せてあげて下さい」

 国山さんに言われ、少し恥ずかしそうにする白。

「え、えと、大した事じゃないんですけど」

「構わないさ。小さな事でもいいぜ」

「そ、それじゃあ」

 一息つき、呼吸を整える白。

「一発芸、せん○君」

「ップー」

 唐突な一発芸に思わず吹き出してしまう。

 白がやったのは、顔に角を生やしただけだ。自らの贈り物(レガロ)の能力だろう。

 そこにいたのは紛れもなくせん○君だった。しかも、顔だけはやたらイケメンなせん○君。

 俺が思い出し笑いをしている横で、国山さんが腹を抱えて笑っていた。

 笑顔が俺達3人を包み込む。

「ってそうじゃなーい!」

 突然の俺の突っ込みに、2人が驚き、顔を見合わせる。

「違う! なんだよ、一発芸って。せん○君って。そうじゃねえよ。対抗戦! 当日! 戦術とか話すとこだろ」

「ああ、そっちですか」

 さっきまで笑顔で包まれていた空気が一変、どんよりと重いものに変わる。

「色々考え、白君と試行錯誤しましたが、結果無理だと悟りました。一人君も全然姿を現さなかったので、もう諦めたものだと。ただ、人事は尽くしたつもりなので、天命が来ることを信じ、取り敢えず辞退だけはせずここにいる次第です」

 蚊の鳴くようなか細い声で、坦々と無感情に言葉を発する国山さん。

「お、おお。悪かったな。別に諦めた訳じゃない。むしろ逆だ」

 そう言って、俺は今まで何をしてたのか、簡単に2人に説明する。

「なるほど。それなら可能性はありますね」

 さっきまで目に光がなかったのに、パッと明るい顔になる国山さん。

「でも、駄目かも、しれない」

「ああ、その通りだが、金光のあの性格だ。たぶん、大丈夫だろう」

「どっちにしろ、それしか手はないのですから。その方法に全力を掛けましょう」

「ありがとな。それで、もう一つお前らにお願いがあるんだが」

「なんですか。聞ける範囲でなら聞きますよ」

 内容も聞かずに、受諾してくれる事に嬉しさを覚えつつ、説明する。

「それが、今のままじゃまだ心許なくてな。ギリギリまで貯めておきたい」

「そんなにギリギリまであるのですか?」

「ああ。丁度良いのをさっき見つけたんだ。俺が戻るまで、お前らに時間稼ぎをお願いしたい」

「承りました。と言いたい所ですが、正直私は役に立つかどうか」

「大丈夫だ。国山さんはいつもの調子で会話してくれればいい」

 それだけ? と首を傾げる彼女。

 丁寧に失礼な彼女の事だ。いい感じに煽ってくれるに違いない。

「という事で、白。お前の負担が大きくなるが出来るか」

「おまかせ、あれ」

 自分の胸をポンポンと叩き、自信を表現する白。

「おう、まかせたぜ、2人とも」

 そう言って、俺はその場を離れようとする。

「あ、一人君。待って下さい」

「なんだよ」

「私ずっと気になっていたのですが、そろそろ、名前で呼んでくれませんか」

「え?」

 思ってもなかった事を言われ、一瞬理解が追いつかない。

 そういえばずっと国山さんと言っていたか。なんか女子を下の名前で呼ぶのは謎の緊張がある。 

「だって白君の事は白って言ってます。私だけまだ距離があるようなので、名前で呼んで欲しいです」

 まあ、本人がそう望むなら、やぶさかでない。

「女の子どころか、人とあまり話した事がない一人君には、難儀だと思いますが」

「それ分かってやってるよね」

「何の事です?」

 信じられないが本当に無自覚でやっているらしい。

「なんでもねえよ。じゃあ、後頼んだぜ、白。み、美音」

 少しどもってしまったが、まあ合格点だろう。

 俺に名前を呼ばれ、美音も嬉しそうにしている。

「行ってらです。早く帰って来ないと、私達だけで勝っちゃいますから」

「あ、それ、知ってる。別に、倒してしまっても、構わんのだろう、ってやつだ」

「それは、負けフラグな」

 冗談を言い合い、2人が手を振り見送ってくれる。

 俺は手を振り返しながら、2人を信じて、その場を後にした。

こんにちは、ソムクです。

こんな文章を読んでくれたあなたに最大の感謝を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ