決戦前
あの後、当日になるまで俺は1人で準備していた。
少し前までは1人が当たり前だったのだが、今は何故か少しだけ寂しさを感じる。
物思いに耽りながら会場に着くと、国山さんと白が先に着いていた。
「あ! 一人君来ました。どうしてたんですか? 心配してたんですよ」
「久し、ぶり、一人。もう、来ないかと思った」
俺の姿を見るや否や、駆け寄ってくる2人。
思いのほか明るい表情をしている。もっと、沈んでいるものだと思っていたが。
「おう、久しぶり。ちょっと用事があったんでな。お前らは、なんか策でも思いついたか?」
「え、策ですか? なんの事です?」
「え? いや、お前らなんか表情が明るいから、良い事でもあったのかと」
何を言っているのか分からないという国山さんの対応に、むしろ俺が動揺してしまう。
「ああ、そういえば一個面白い事が分かりました」
「お。なんだ。あんじゃねえか」
「ほら、白君。見せてあげて下さい」
国山さんに言われ、少し恥ずかしそうにする白。
「え、えと、大した事じゃないんですけど」
「構わないさ。小さな事でもいいぜ」
「そ、それじゃあ」
一息つき、呼吸を整える白。
「一発芸、せん○君」
「ップー」
唐突な一発芸に思わず吹き出してしまう。
白がやったのは、顔に角を生やしただけだ。自らの贈り物の能力だろう。
そこにいたのは紛れもなくせん○君だった。しかも、顔だけはやたらイケメンなせん○君。
俺が思い出し笑いをしている横で、国山さんが腹を抱えて笑っていた。
笑顔が俺達3人を包み込む。
「ってそうじゃなーい!」
突然の俺の突っ込みに、2人が驚き、顔を見合わせる。
「違う! なんだよ、一発芸って。せん○君って。そうじゃねえよ。対抗戦! 当日! 戦術とか話すとこだろ」
「ああ、そっちですか」
さっきまで笑顔で包まれていた空気が一変、どんよりと重いものに変わる。
「色々考え、白君と試行錯誤しましたが、結果無理だと悟りました。一人君も全然姿を現さなかったので、もう諦めたものだと。ただ、人事は尽くしたつもりなので、天命が来ることを信じ、取り敢えず辞退だけはせずここにいる次第です」
蚊の鳴くようなか細い声で、坦々と無感情に言葉を発する国山さん。
「お、おお。悪かったな。別に諦めた訳じゃない。むしろ逆だ」
そう言って、俺は今まで何をしてたのか、簡単に2人に説明する。
「なるほど。それなら可能性はありますね」
さっきまで目に光がなかったのに、パッと明るい顔になる国山さん。
「でも、駄目かも、しれない」
「ああ、その通りだが、金光のあの性格だ。たぶん、大丈夫だろう」
「どっちにしろ、それしか手はないのですから。その方法に全力を掛けましょう」
「ありがとな。それで、もう一つお前らにお願いがあるんだが」
「なんですか。聞ける範囲でなら聞きますよ」
内容も聞かずに、受諾してくれる事に嬉しさを覚えつつ、説明する。
「それが、今のままじゃまだ心許なくてな。ギリギリまで貯めておきたい」
「そんなにギリギリまであるのですか?」
「ああ。丁度良いのをさっき見つけたんだ。俺が戻るまで、お前らに時間稼ぎをお願いしたい」
「承りました。と言いたい所ですが、正直私は役に立つかどうか」
「大丈夫だ。国山さんはいつもの調子で会話してくれればいい」
それだけ? と首を傾げる彼女。
丁寧に失礼な彼女の事だ。いい感じに煽ってくれるに違いない。
「という事で、白。お前の負担が大きくなるが出来るか」
「おまかせ、あれ」
自分の胸をポンポンと叩き、自信を表現する白。
「おう、まかせたぜ、2人とも」
そう言って、俺はその場を離れようとする。
「あ、一人君。待って下さい」
「なんだよ」
「私ずっと気になっていたのですが、そろそろ、名前で呼んでくれませんか」
「え?」
思ってもなかった事を言われ、一瞬理解が追いつかない。
そういえばずっと国山さんと言っていたか。なんか女子を下の名前で呼ぶのは謎の緊張がある。
「だって白君の事は白って言ってます。私だけまだ距離があるようなので、名前で呼んで欲しいです」
まあ、本人がそう望むなら、やぶさかでない。
「女の子どころか、人とあまり話した事がない一人君には、難儀だと思いますが」
「それ分かってやってるよね」
「何の事です?」
信じられないが本当に無自覚でやっているらしい。
「なんでもねえよ。じゃあ、後頼んだぜ、白。み、美音」
少しどもってしまったが、まあ合格点だろう。
俺に名前を呼ばれ、美音も嬉しそうにしている。
「行ってらです。早く帰って来ないと、私達だけで勝っちゃいますから」
「あ、それ、知ってる。別に、倒してしまっても、構わんのだろう、ってやつだ」
「それは、負けフラグな」
冗談を言い合い、2人が手を振り見送ってくれる。
俺は手を振り返しながら、2人を信じて、その場を後にした。
こんにちは、ソムクです。
こんな文章を読んでくれたあなたに最大の感謝を。