鹿王院白
「はあ~」
爽やかな風吹き抜ける、朝の綺麗な青空の元、俺は激しく後悔していた。
やはり、なんでも安請け合いはするものではない。今後の人生の教訓にしよう。
「よろしくお願いします!」
俺の後悔の原因である彼女―国山美音―は、元気に部活勧誘のビラ配りに勤しんでいる。
寝ぼけ眼をこすりながら登校してくる者、昨日見たテレビの話題で盛り上がっている者や部活の朝練終わりの者。様々な生徒が行き交う所で彼女はせっせと勧誘を行っていた。
彼女に協力すると決めたあの後、取り敢えず学園長に報告に行った。
報告を聞いた時のあのニヤニヤした表情を思い出すたびに、怒りがこみ上げてくる。
そこで学園長から言われたのは、部員集めと何を目的で活動する部か、あと名称を決めろという事。
5人以上集まらないと、正式な部としては認められないらしい。
取り敢えず部員がいないと始まらないので、俺たちは今こうして朝っぱらからビラ配りをしている。
ビラは国山さんが用意してくれた。・・・・・・してくれたのだが、
・名称未定の新しい部活。
・目的は上を目指す事。打倒生徒会!
・あの有名な、落ちこぼれ特待生と共に切磋琢磨しながら、成長出来る。
・和気藹々としたアットホームな部活です。
内容を簡単に羅列するとこんな感じ。
うん。これはひどい。
怪しさしかないよ。この広告。誰が入ろうと思うんだよ。
最後のなんて特に。よく見るブラックな企業の求人ですか?
ていうか、俺軽く煽られてない。落ちこぼれ特待生って、それで浸透してるの。
『おいおい。楽しそうな事になってるじゃないか』
1人心の中で荒ぶっていると、久しぶりにビートが話しかけてきた。
『何言ってんだ。楽しい訳ないだろ』
『それにしてもセンスないな。これは部員集まらないだろ』
『それには同意。部員集まらないとどうなるんだ』
『さあな。取り敢えず現状より悪い事にはなるだろうな』
クツクツと笑っているビート。
『なんかお前楽しそうだな。俺はこんなにも苦労してるのに』
『そんな事はないさ。まあせいぜい励みな、相棒』
やれやれ。俺を煽りに来ただけらしい。生意気な精霊だ。
俺が脳内会話を繰り広げていると、突然クイッと服の裾を引っ張られる。
「もう。手を止めてないで、あなたもちゃんと配って下さい」
1人熱心に勧誘していた彼女は、頬を膨らませ、俺に詰め寄る。
「あのな。こんなの配って意味あるのか? 逆効果な気がするけど」
「意味はあります。取り敢えず、存在を知って貰わなければ始まりませんから」
「皆引いてるだけじゃないかな」
周りを見回し否定する俺に対し、何故か自信満々な彼女。
「現に、皆私達を見てるじゃないですか」
うん。それはこいつらやばいから、今後関わらないようにしようという意味でね。
「取り敢えずさ、今日はこの辺にしとかないか。ちょっと疲れた」
「常時君は何もしてないじゃないですか」
ごもっとも。でも心労がやばいんです。
「まあまあ。そろそろ授業も始まるし、Aクラスは1時間目から移動教室なんだよ」
「むう。じゃあしょうがないです。落ちこぼれでも授業はちゃんと出るんですね」
渋々といった感じで了承した彼女を横目に、俺は足早にその場を去って行く。
なんか1言余計だった気もするが、そんな事よりここを離れたいという気持ちが強かった。
「じゃあ、またな」
一応、挨拶だけはしていく。
「ええ。またよろしくお願いします」
そう言って、手を振ってくれる彼女。
俺は手を振り返すことなく、自分の教室に向かった。
***
放課後、俺は国山さんに呼び出され、Eクラスに向かっていた。
自分の通う学校とはいえ、普段行かない所となると、なんとなく不安を抱いてしまう。
Eクラスに着くと、生徒はほとんど居なかった。
それはそうだろう。もうほとんどの生徒が部活を決めている頃だ。放課後の教室になんて用はないだろう。
そういう訳で、国山さんの姿はすぐに見つかった。友達だろうか。隣に知らない人物もいる。
「あ。どうも。お呼び出ししてすいません」
彼女の方も俺に気づいたのか、声をかけてくる。
「別に構わないさ。それで、何の用?」
「聞いて下さい! なんと、早速入部希望者ですよ」
興奮しているのか、少し声が大きくなる彼女。
まさかあんなチラシで入部希望者が来るとは思わず、少し動揺するも、冷静を装う俺。
「ふうん。入部希望。この人が?」
「はい。あ、あの僕、鹿王院 白って言います。そ、その、僕も部活まだ決まってなくて、朝、校門であなた達を見かけて」
人見知りなのか、必死に言葉を繋ごうとする彼。
鹿王院白? 名前格好良いな。よく見れば、顔もいい。
端正な顔立ちにさらさらの髪の毛。
すらりとした長身。
口ごもる仕草でさえ、なんか格好良く感じる。
ッチ。イケメンは良いよな。
「あー、それで、君はなんで俺たちの部活に来ようと思ったんだ? 正直、他にもっとまともな部活があるだろ?」
「い、いや、僕人見知りで、人数がたくさんいる所には、入りづらいと言うか」
彼は言葉を紡ぎながらも、チラチラと俺の方を見てくる。
「どういう理由であれ、入部希望は大歓迎です。一緒にトップを目指しましょう!」
「え、いや、その」
「国山さん。嬉しいのは分かるが、あまりテンションをあげないでくれ。彼が困惑してる」
そして、俺も若干困惑してる。
「もし本当に上を目指す気なら、ここはお勧めしないぜ。他をあたれよ」
「いや、僕、その」
何か言いたげな彼の言葉を、俺は急かさずに待つ。
俺も人見知りだからな、気持ちは分からないでもない。
「僕、あなたと仲良くなりたくて。そ、その、あなたも、エア友達、いるんですよね」
前言撤回しよう。人の気持ちなんて分からない。何を言ってるんですか。
「えと、何かな。エア友達? 居ないけど」
俺は引いている事を隠そうともせずに言う。
「そんなはずは。だって、朝」
むしろなんで居ると思った? 普通いないだろ。
「だって、朝、あなた、誰かとしゃべるように、口、開いて」
朝? は! もしかしてビートと話す時、俺口が動いていたのか。
まじか。なんか無性に恥ずかしい。
「悪いな。それは君の勘違いだ。俺に友達なんていない。エア友達も含めてな」
「あれ? 私は」
「国山さんは、まだ出会って何日かの、知り合いって感じ」
「少しショックです。私はもう仲良しのつもりでいましたよ」
そう言って、わざとらしく肩を落とす彼女。
「はいはい。それで、勘違いと分かったんだ。どうすんだ? 別にここに入らなくてもいいんだぜ」
「いえ、それは困ります。せっかく来た希望者ですから、是が非でも入部して貰います」
「国山さんは少しでいいから、黙っててくれ。脅しは良くないぞ」
「じゃあ、常時君が彼と友達になればいいじゃないですか。エアではなく。これで万事解決です。もちろん、私もなりますよ、友達」
「友達が、2人も」
俺は勘弁なんだけど。と言いたかったが、彼のあまりに嬉しそうな表情を見ると、言葉が引っ込んだ。
「しゃあねえな。友達くらいなってやるよ」
「あれ? 私とはまだ友達じゃないのに」
「ッチ」
「あれ、今、舌打ちしました。しましたよね」
「アハハ。お2人は仲良しですね」
「別に。まあ、これからよろしくな。改めて、俺は常時一人だ。一人でいい」
「お願いします。僕も白でいいです」
彼は、緊張が解けたのか、さわやかにハニカム。
「じゃあ、私も美音でいいですよ。これから一緒に頑張っていきましょう」
そんな訳で、イケメンが俺たちの仲間になった。
そういえば、彼のパーソナルな部分は何も確認してなかったが、面倒だからまた今度にしよう。
幸先の良いスタートだが、あと2人も部員は集まるのだろうか。
まあ、なるようにしかならないのだ。気にしたって仕方ないか。
こんにちは、ソムクです。
こんな文章を読んでくれたあなたに最大の感謝を。